可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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9話 ♯15「教師と卒業生」

ーーー

 

 

 

桐縹高校は校内に自動販売機が2か所に設置されており、それぞれ生徒も教師も関係無く購入することが可能だ。

 

生徒のほとんどが帰宅した夕暮れ時、葛城は職員室から近い方の自動販売機の前に訪れていた。

 

(今日はこの甘ったるいコーヒーにするか)

 

ボタンを押して取り出した缶コーヒーを開封すると一口流し込む。

 

「ああー…」

 

(たまに飲むと良いんだよな)

 

期待通りの甘ったるさに低い声を漏らす葛城。自動販売機の傍にある校舎の壁にもたれ、空いてる右手を流れるように白衣のポケットへと突っ込んだ。

 

(お?)

 

右手の先端に感触があったようで、葛城はポケットからそれを取り出す。

 

「あ」

 

取り出したのは1枚の10円玉。葛城は手元に視線を落とした後、

 

(そういうこともありますよね、栃浦先生)

 

仕方ない、といった様子で10円玉を白衣に戻した。

 

(後でデスクに置いときますよ。さて、もう一仕事しますか)

 

 

 

ーーー

 

 

 

夜、デュエルハウス『フリード』。

 

「いらっしゃいませ…って」

 

「よう、樋口」

 

「葛城先生、また来たんですか…」

 

樋口は来店した客、葛城を見て溜め息を漏らす。

 

一仕事終えた葛城はその帰りにフリードへと足を運んでいた。

 

「何だよ、来ちゃ悪いか?」

 

「悪いとは言いませんけど、今月になってから頻繁に来てますよね?お金の方は大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫大丈夫、たまには勝ってる」

 

「それ普段は負けてるってことじゃないですか…」

 

「そういうことになるな、ハハ」

 

能天気な葛城に対して呆れる樋口。

 

「はあ…元教え子の気持ちにもなって下さいよ」

 

「なに、心配すんな。程々にしてっから」

 

葛城は軽い調子で答えた。

 

葛城と樋口。この2人は桐縹高校の教師と元生徒という関係であり、樋口が卒業して数年経った今もこのように従業員と客としても交流が続いている。

 

「ところで、今日もあの子は居ないのか?」

 

葛城は店内をきょろきょろと見回す。

 

「居ませんよ。前にも言ったじゃないですか、たまにしか来ないって」

 

「そっかあ。1回その実力を拝見したいんだがなあ。本当に強いのか?」

 

「強いです。先生じゃ一晩中戦い続けても勝つのは厳しいでしょうね」

 

「んなアホな。運が良けりゃ勝つだろ、100回に1回くらいは」

 

「厳しいのは認めてるんですね…というよりそれは運の良し悪し以前にデッキ組み直した方が良いレベルですよ」

 

「カードゲームなんて運だよ運。いくら実力があっても負ける時は負けるもんだ」

 

「はあ、その考え方は否定しませんけど」

 

(そんな考え方してるからたまにしか勝てないんじゃ…)

 

樋口は途中そう思ったが、口には出さず心に留めておいた。

 

「んじゃ、ちょっくら一稼ぎしますかね」

 

「稼げると良いですね、頑張って下さい」

 

樋口が抑揚のない声で健闘を祈ると、

 

「任せとけ」

 

葛城は空いてる席へと向かって行く。

 

(先生には悪いけど、フリードにはもう来ないかもね…レイリちゃんの実力と素顔を見ちゃったから、さ…)

 

一抹の寂しさを覚えながら樋口は葛城の背中を見送るのであった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

迎えた水曜日。桐縹高校のプール開き。

 

まだ梅雨明けはしていないが空は青色の中に疎らに雲があるだけで、この時期にしては珍しくプール日和となった。

 

 

 

「ぷはっ!…はあ、はあ」

 

「よしっ、タイムは…おおトップだ!2位のタイムを大きく離しての最速だぞ!」

 

栃浦が驚きを交えながら結果を読み上げると、プールサイドに座る女子生徒たちから「おお!」という歓声が沸く。

 

「流石スポーツ万能だな、中根」

 

「水泳は昔やってたことがあるので」

 

最速のタイムを出した女子生徒、瑞希が謙遜しながらも喜びの表情を浮かべた。

 

(しなやかで無駄の無いその動き、やはり運動神経というかセンスが他の奴とは段違いだな。バレーのような団体競技は厳しいかもしれんが、個人種目のある水泳ならかなりいいところまで行けるんじゃないか)

 

「中根、水泳に興味ないか?お前なら鍛えれば全国に行けるぞ」

 

曲がりなりにも栃浦は体育教師である。運動能力の高い生徒を見るとどの競技に向いているか、どのレベルまで通用するか等想像を巡らせ、時には生徒に道を指し示す。

 

「興味がないわけじゃないですけど、私バレー部に入ってますし…それに運動部同士は掛け持ちできませんよね?」

 

「それはわかってる。わかった上で薦めてるんだ。タイムを見る限りお前には非凡な水泳のセンスがある。上を目指すなら間違いなく水泳にした方がいい」

 

栃浦の薦めに瑞希は「うーん…」と考える素振りを見せた後、

 

「せっかくですけど私はバレー部を辞める気はありません。バレーボールが好きなので」

 

と、断った。

 

「そうか。それは残念だ」

 

(はっきりとバレーボールが好きと言われちゃしょうがないな。まあ中根の泳ぐ姿を見れるって考えたら、それはそれで悪くない)

 

口には出せない想像を巡らすことが日常的に多いのが栃浦という体育教師であった。

 

 

 

プールから上がった瑞希は女子生徒たちに囲まれながら談笑していた。

 

「速かったですね、瑞希さん」

 

その光景を遠くから見ながら綾芽が隣に座る彼女に話す。

 

「うん、すいすい泳いでた」

 

「泳げる人ってかっこいいですよね、憧れます。私は10メートルも泳げませんから」

 

綾芽は苦笑いを浮かべる。

 

「わたしも泳ぐのは、得意じゃない」

 

「でも、ぷかぷか浮かぶのは得意」

 

同意するように言った後、彼女はそう続ける。

 

「あ、それは気持ち良さそうですね。でも浮かぶのも苦手な場合はどうしましょう…?」

 

綾芽は困ったような表情で控えめに彼女に問う。

 

「ばしゃばしゃする」

 

「えっと…」

 

彼女の答えに言葉に詰まる綾芽。

 

「水遊び、それ自体を楽しむ。ちゃぷちゃぷ」

 

(今日の麗梨さん、擬音が多いですね)

 

綾芽はそんな彼女に新鮮味を感じるのであった。

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