可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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10話 ♯1「リベンジ」

「いらっしゃいま…あ」

 

デュエルハウス黒蠍、入店した彼女に目をやった清掃中の店員は一瞬驚いた後、目を細める。応対したのはやはり過去2回の時と同じ店員であった。

 

「道に迷いました。休ませてください」

 

「…お好きにどうぞ」

 

店員は半ば諦めたような口調で言い放ち、清掃を再開する。

 

(まだ、来てないかな)

 

彼女は店内を見回してみるが、それらしき人物は見当たらない。

 

「お?あのお嬢ちゃんまた来てるわ」

「今日も大勝負するんか?相手は誰や?」

「あの噂マジだったんか」

 

彼女に気付いた客たちがざわつき始める。彼女はというと特に居心地の悪さを感じることもなく空いてる席へと座った。

 

「こんばんは、お嬢さん」

 

直後、黒蠍の店主である青葉が彼女に歩み寄り挨拶をする。

 

「青葉さん、こんばんは」

 

「黒川より話は聞いております。お相手の方が到着されるまで、こちらでもお召し上がり下さいませ」

 

そう言って青葉がテーブルに置いたのは洋菓子の一種、マフィン。

 

「えっと…いいんですか?」

 

「サービスでございます。熱い紅茶で宜しいですかな?」

 

困惑気味の彼女に確認する青葉。

 

「は、はい…よろしいです」

 

彼女の遠慮がちな回答を聞き、青葉はカウンターへと向かう。

 

「青葉さーん!俺にもお菓子くれー!」

 

途中、客の1人が声を飛ばす。

 

「面白いデュエルをごちそうして頂ければサービスして差し上げましょう」

 

「うえーっ!そいつは難しいなあ…!」

 

青葉はその客に微笑むとカウンターへと入って行った。

 

 

 

(おいしい…)

 

マフィンを口に運んでは紅茶を啜る彼女。どちらも彼女の口にはよく合っていたようで自然に笑みがこぼれる。

 

特に紅茶は彼女にとって、赤石と共に鶸櫨の店で飲んだ紅茶に匹敵する程の美味しさを感じていた。

 

(ごちそうさまでした)

 

彼女はあっという間に平らげた。

 

 

 

「ありがとうございます。おいしかったです」

 

数分後、皿を下げに来た青葉に彼女はお礼を述べる。

 

「そう言って頂ければ何よりでございます」

 

青葉が皿を手に持ったその時、入口のドアが開く音が響いた。

 

それに気付いた青葉は一瞬入口の方へ視線を向けると彼女に

 

 

 

「たった今、お相手の方が来られました」

 

そう告げ、再びカウンターへと入って行った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

(この辺りのはずだけど、見当たらないわね)

 

約束の時刻が迫る中、目的地を探して歩く。

 

(見つけにくいところにあるとは聞いてたけど、もしかして路地裏の方かしら)

 

足を止めて路地裏を覗くと控えめな看板が目に入った。

 

(デュエルハウス黒蠍、ここね。確かに見つけにくいわ)

 

路地裏へと歩を進める。

 

(時間ぎりぎりになっちゃったわ。さて、どんなところかしら)

 

一呼吸分間を置き、ドアを開けた。

 

 

 

「いらっしゃいま…」

 

店員は訝しげに入店した人物の顔を見る。

 

(結構若そうだな。初めて見る顔だし一応確認…)

 

店員が口を開こうと瞬間、店員の中でパッと閃いた。

 

(!…ああ、そうか。あの娘の相手か)

 

「あちらの席に座られてます」

 

店員は彼女の座る席を指し示す。

 

「ありがとう」

 

その人物は指し示された通り彼女の席へと向かった。

 

 

 

彼女の対面の席に座り、静かに時が流れる。お互い会話も無くただ見つめ合っていた。

 

周囲の客も何故2人が黙っているのかわからない様子である。

 

「…」

 

試しているわけでもなければ警戒しているわけでもない。むしろ逆でお互い通じ合っているかのような雰囲気、口を開かなくても理解し合える関係。

 

実際には違うのだろうが、お互いの間にはそれらに近い空気が漂っていた。

 

先に沈黙を破ったのは、

 

 

 

「反応しないのね」

 

「そんな気がしてましたので」

 

その人物ことサングラスをかけた女、デュエルハウス六武衆で彼女とデュエルした女である。

 

「リベンジに来たわ」

 

「はい」

 

「高いわよ、レート」

 

「はい」

 

「だから勝たせてちょうだい」

 

「いいえ」

 

「そこは『はい』って答えないのね」

 

「はい」

 

「…まあいいわ、始めましょ」

 

「はい」

 

彼女は青葉に審判を頼もうとカウンターへと首を向ける。

 

(いない…?)

 

が、そこに青葉の姿はなく、

 

 

 

「何かお探しですかな?」

 

不意に彼女の背後から現れた。彼女の肩がビクっと小さく跳ねる。

 

「あの、審判をお願いしたいです」

 

「承りましょう」

 

青葉は5枚のカードを取り出し、裏側のままテーブルに並べる。

カードはそれぞれ違う色のスリーブに入っており、左から黄・赤・緑・白・紫色の順だ。

 

「これは何かしら?」

 

「こちらをご覧下さいませ」

 

女の問いに青葉はそう言うと2人にそれぞれルールブックを渡した。

 

ルールブックといっても数ページの薄い冊子のようなもので、これは彼女が以前見たものと同じ

 

 

 

(…あれ?ちょっと変わってる?)

 

と思いきや内容に変化があることに彼女は気付く。

 

「青葉さん、ハウスルール変わりました?」

 

「変わってなどおりません。以前のルールとはまた別、ということでございます」

 

(あ、そういうこと)

 

つまりハウスルールは1つだけではない、ということである。

 

「あら、じゃあアナタにとってもこのルールは初めてってことね」

 

「はい、初めてです」

 

(でも、だいたいはわかりました)

 

「お二方、ルールはご理解されましたかな?」

 

「はい」

 

「理解したわ」

 

青葉の問いに2人とも理解の意思を示す。

 

「それではカードリストを決めさせて頂きましょう。選ばれるのはどちらの方ですかな?」

 

青葉の言葉から数秒、彼女に動く気配無しと判断した女が申し出る。

 

「引いてもいいかしら?」

 

「どうぞ」

 

女が選んだのは白スリーブのカード。そのままカードをめくる。

 

「ふむ、《黒いペンダント》ですな。ではカードをお配りする前にレートを決めさせて頂きましょう。お二方、本日のお手持ちは如何ほどでございましょうか?」

 

「300万です」

 

「同じくらいだわ」

 

「承知致しました。ではレートを発表致します」

 

 

 

青葉が提示したレートは150、2000、6000。

彼女が柴岡と勝負した時のレートが200、2000、5000だったので、ライフ差レートが50減りマッチレートが1000増えた形になる。

 

続いて青葉は2人にデッキに使用するスリーブの色の希望を問うと、カウンターからカードの束を2人が勝負するテーブルへと持ってくる。

 

彼女には赤スリーブの束、女には白スリーブの束が配られ、最後に配られたカードに間違いが無いか各々確認するようカードリスト表が手渡された。

 

以下、ルールとカードリストである。

 

ルールはスピード初手3枚先攻ドロー有のLP4000マッチ戦。

お互い同じ25枚のカードリストの中から自分のデッキに必要と判断した20枚のカードを選び、選ばなかった5枚のカードを破棄する。制限時間は5分。

破棄したカードはデッキには組み込めず、2回戦のデュエル開始直前に公開される。

そうして選んだ20枚のカードからデッキとなる10枚を選びデュエルへと進む。デッキカード選択時間は5分。

ただし、制約として選んだ20枚のカードを3回戦中に必ず1度はデッキに組み込まなければならない(2回戦で勝負が決着した場合は次のルールも含め適用されない)

3回戦突入時、審判はお互いの1、2回戦いずれもデッキに組み込まなかったカードの枚数をそれぞれ公開情報として宣言する。

 

 

 

カードリスト全25枚

《魂を削る死霊》300/200

《ビッグ・シールド・ガードナー》100/2600

《デス・ウォンバット》1600/300

《キャノン・ソルジャー》1400/1300

《プロミネンス・ドラゴン》1500/1000

《機械犬マロン》1000/1000

《ゴブリン暗殺部隊》1300/0

《猛進する剣角獣》1400/1200

《ダークジェロイド》1200/1500

《マハー・ヴァイロ》1550/1400

《リーフ・フェアリー》900/400

《ブリザード・ファルコン》1500/1500

《団結の力》

《黒いペンダント》

《メテオ・ストライク》

《呪魂の仮面》

《突進》

《ハリケーン》

《シールドクラッシュ》

《非常食》

《破壊輪》

《鎖付きブーメラン》

《鳳翼の爆風》

《イタクァの暴風》

《波紋のバリア -ウェーブ・フォース-》


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