ーーー午後6時
「れーりちゃん今日はありがとう!すごく楽しかった!」
「わたしも楽しかった」
「またデュエルしようね!」
「うん、帰り道気をつけてね」
「うん!また学校でね、ばいばい!」
「ばいばい」
瑞希は帰っていった。彼女は昨日と今日で、改めてデュエルというものの本質を見直したことだろう。
それは今後のデュエルにおいて大きな糧になるはずだ。
ーーーそして1週間後の金曜日
(当日の昼までだったよね)
屋上の扉を開ける。人は誰も居ない。
彼女は携帯電話を取り出し番号を入力する。
「…俺だ」
「もしもし、黒川さん?鈴瀬です」
「おお、どうした?」
「対戦相手の件、まだ空いてますか?」
「空いてるぞ、受けるのか?」
彼女はこの1週間考えていた。
あのような怖い思いはしたくない。そんなリスクは冒さなくても生きていける。あんな誘いには乗らない。
何度もその結論に至った。しかし期日が近付くに連れ、ある疑問が浮かび上がってくる。ひょっとしてチャンスを逸そうとしてるのではないかと。
彼女は短く未熟ながらも、これまでの経験の中でチャンスの掴み方、ピンチの脱し方というものを心得てきた。
その辺りの匂いには非常に敏感である。そもそもこの世界では匂いに鈍感な者は淘汰される宿命にある。
お金を得るために、生きていくために何が必要か。基本的かつ重要なことを詳らかに知る彼女が、自らの経験から導き出した答えは
「はい」
「そうか、よく決断したな」
「ずっと考えてた」
「だろうな。…黒蠍に午後7時半、右奥のテーブルだ。話す時は俺の名前を出せ」
「わかった」
「じゃあな、健闘を祈る」
通話が終了する。
(…さあ、戦おう。デュエリストとしても)
黒川はタバコを吹かしている。どこかのビルの屋上のようだ。
(期日ギリギリに来たか。やはり博徒に違えねえ)
黒川は自分の目が正しかったことに微かな喜びと安堵を覚える。
(あの野郎には一度痛い目を見てもらわんとな。お前が普段見下してる若い娘に取られるなら本望だろう)
(…さあ、成金野郎から金ぶん取って来い、鈴瀬!)
ーーー午後7時半
(1週間ぶりね)
彼女は黒蠍の入り口前に着いていた。格好も1週間前とほとんど同じだ。
(…)
彼女は意を決し扉を開けた。
<<デュエルハウス「黒蠍」>>
「いらっしゃ…!?」
店員は入店した彼女をまじまじと見る。前回と同じ店員だ。
「はぁ、また来たのか」
(危ない目にあったばかりだろうに…)
「道に迷いました。休ませてください」
「…好きにしなさい」
彼女の固い眼差しに覚悟の度合いを察したのか、店員はその場から離れた。
店内は前回と同じような客層で同じような雰囲気が漂っている。人数は前回より少し多い。
直後、噂話が聞こえてきた。
「おい見ろ、あの娘がいるぞ」
「ほう、あれが例の…」
「まさかまた来るとはなあ…」
前回居合わせた客のようだ。
彼女は迷わず右奥のテーブルへと向かう。
そこには既に先客がいるようだ。
「あの」
「あん?誰や?」
ガラの悪そうな男は彼女の方へと振り向く。
「えっと…」
(そういえば名前聞いてない…この人で合ってるのかな…?テーブルは間違い無いと思うけど)
「おう、よう見るとえらいかわいい顔しとんな」
(あ、確か黒川さんの名前出せばいいんだっけ)
「黒川さんから話は聞いてますか?」
「ほお!?黒川が言うとったんはお前か!まあ、座れや」
(この人であってた)
そう言われ彼女は対面の席に座る。
「ワイは村田(ムラタ)いうもんや。こう見えても社長やっとんねん」
「わたしは鈴瀬といいます」
「にしても若いなあ。ほんまにええんかいな」
「?」
「黒川もええ仕事するやんけ。こら楽しみやわ」
(話が読めない…)
「…ルールとレートはどうします?」
「あ?ルールはここのハウスルールでええんとちゃう?」
「レートはそうやな…」
村田は彼女を舐め回すように観察して口を開く。
「6、75、300でどうや?若いから特別やで」
(あれ?思ったより安い、というより普通よりちょっと高いくらいのレートだ…)
「ほぼノーリスクで金を得るチャンスやで?ええやろ」
「…ノーリスク?」
「ハハハッ、なんや黒川のおっさん、やっぱりこの嬢ちゃんに何も話してないんかハハハ」
村田は笑っている。
「どういうことですか?」
「いや失敬失敬。つまりこういうことや」
「お前は金を出さんでええ代わりに負けた金額分あるものを差し出せってことや」
「あるもの?」
「お前の身に着けてるもの、の一番内側といえばわかるやろ?」
「…!?」
彼女は一瞬考え、村田の言ったことを理解する。