可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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10話 ♯8「勝者」

「デュエル終了でございます。LP50対0で3回戦は白様の勝利でございます」

 

「同時にマッチ戦も決着でございます。2勝1敗でマッチ勝者は…白様でございます!」

 

青葉が勝者の名を叫んだ瞬間、固唾をのんで見守っていた客たちから堰を切ったように「おおお」という声と拍手が沸き起こる。

 

「すげーデュエルだったな!」

「見てるだけでこんなハラハラしたん初めてや!めっちゃ面白かったで!」

「ああ負けちゃったかあ…絶対勝つって賭けてたんだけどなあ」

「おい!グラサン姉ちゃん勝ったぞ!約束通り寄越しな」

「しゃーねえな、ほれ5000」

 

そのような盛り上がった雰囲気の中、青葉は審判としての最後の仕事をこなす。

 

「それでは清算致します。レートは150、2000、6000ですな」

 

青葉は慣れた手付きで電卓に入力していく。

 

(手慣れてるわね。怖いほど落ち着いた佇まいといいこの人、ただ者じゃない気がするわ)

 

白は青葉の顔と手元を交互に窺っては彼女へと視線を移す。

 

「…」

 

彼女はというと先程までデュエルが行われていたテーブルへと視線を落としていた。

 

(落ち込んでる、ってわけでも無さそうね。表情からは読み取れないけど)

 

勝負に負けて落ち込んでるのではなく、ただ結果が告げられるのを待っている、と白はそう感じた。

 

「計算が終わりました」

 

青葉の手が止まり、白は次の言葉を待つ。

 

(さて、おいくらになるのかしら)

 

「しめて2500円、赤スリーブの方の勝ちですな。赤スリーブの方、おめでとうございます。これにて勝負は終了でございます。不肖、私青葉がーーー」

 

 

 

 

 

「…えっ?」

 

声を出すのが思わず遅れてしまった。青葉の口から放たれた、そのあまりの内容に頭がまだ追い付かない。

 

「ちょ、ちょっと!赤スリーブの方の勝ちってどういうこと!?それに2500円って…!」

 

確かに聞こえた信じられない言葉の数々。白は慌てるように青葉に問う。

 

「言葉の通りでございます。お二方の勝負は2500円、赤スリーブの方の勝ちという結果ーーー」

 

「待って!」

 

白は割り込むように口を開くと、

 

「それ借りるわね」

 

青葉が入力していた電卓を掴み、手元へと持ってくる。

 

(まさか、そんなはず…!)

 

白は有り得ない、と思いながら数字を入力していく。

 

 

 

(!…うっ)

 

しかし弾き出された答えは、青葉が既に発したそれと同じだった。白は口を半開きにしたまま固まる。

 

白の手が止まると青葉は自らが行った計算結果を諳んじていく。

 

「1回戦、白様+24万5000」

 

「2回戦、赤スリーブの方+105万5000」

 

「3回戦、白様+20万7500」

 

「そしてマッチ勝者である白様に+60万」

 

「しめて2500円、赤スリーブの方の勝ちでございます。お間違い有りませんな?」

 

青葉の確認に半ば固まったままの白であったが

 

 

 

「…ええ、間違いないわ」

 

と、数秒遅れながらも答えた。

 

「では改めまして、これにて勝負は終了でございます。不肖、私青葉が審判兼進行役を務めさせていただきました」

 

青葉は一礼するとカウンターに戻って行った。

 

 

 

青葉がカウンターに戻った直後、白は天井を見上げて「ふうー」と大きく息を吐いた。

 

それを皮切りに店内がまたざわつき始める。

 

「なんだあ?あれか、要するにマッチに負けながらもレートでは上回ってたつーことか?」

「ああ、まさかの逆転現象だな。珍しいもん見れたぜ」

「おい、最終的に勝ったのはあの子の方じゃねえか。5000返せ」

「いやいやマッチに勝ったのはグラサン姉ちゃんだろ?まあ引き分けで手を打ってやる」

「それはこっちのセリフだ。青葉さん赤スリーブの方の勝ちって言ってただろうが」

 

 

 

「2500円だったわね」

 

落ち着きを取り戻した白は財布を取り出す。

 

「はい」

 

事態を静観していた彼女が勝負後、初めて声を発する。

 

「500円あるかしら」

 

「ありますよ」

 

白は財布から1000円札を3枚抜いて渡すと、彼女から500円を受け取った。

 

「さっきはちょっと見苦しかったわね、反省するわ。ねえ」

 

「はい」

 

「言っておくけど失念していたわけじゃないわ。ただ、マッチに勝ってお金を取られるなんて普通は有り得ないもの…」

 

白はまだ実感が無いといった様子で彼女から視線を外す。

 

「わたしも初めてです」

 

通常2勝先取のマッチ戦の場合、ライフ差レートや勝利数レートに加えマッチ勝利レートもあるため、マッチに勝利すればおおよそマッチレート以上のお金を手にすることができる。

多少なり額の差がつくことはあれど、勝利数レートやマッチ勝利レートに比べればライフ差レートなど微々たるものだからだ。

レート無しのデュエルと同様にいかに先に相手のLPを0にできるか、あるいはデッキを0にできるかを第一に考えるのは当然であり、またその考えでなければ収支をプラスにしていくことは難しいだろう。

 

基本的に自分のLPなど二の次でいいのである。LPの優位が必ずしもデュエルの勝利に結びつくとは限らないのだから。

白の失念していたわけじゃないという言葉はレートがいくらなのかは覚えているが、それを意識してデュエルしていたわけではないという意味であり、それはデュエルをする者なら誰しもが持つ当然の感覚と言える。

 

それ故に白の信じられないといった反応である。マッチに勝利してお金を失うなんてことはまず有り得ないのだ。余程のことが無ければ。

 

「負けた気しないわ。負け惜しみじゃないわよ」

 

「はい」

 

つまり上回ってしまった。勝利数1回分のレートとマッチ勝利レートの合計した数値を、ライフ差レートが。

それもこれ以上は無いというギリギリの数値で。

 

彼女の勝利は2回戦の1戦のみだがLP差を5700つけての圧勝であったのに対し、白は2戦勝利したものの1回戦は300、3回戦に至ってはたった50の差とどちらも非常に僅差の勝利であった。

 

LP差の合計は5350。ただその数値自体は4000LP制において大差ではあるもののそれほど珍しいものではない。マッチ勝者がそのくらい差をつけて勝ったということであれば。

 

「それで、やっぱりお金を得た方が勝者ってことになるのかしら」

 

「そうみたいですね」

 

しかし、今回の勝負において実際に5350という大差をつけて上回ったのはマッチ敗者の方という異常事態。1度の圧勝と2度の僅差での敗北という条件が重なりこのような逆転現象が起きた。

 

はからずもこの5350というのは、まさに紙一重で彼女が上回れる数値であり、もしどこかでLPが50でも差が詰まり合計差が5300であったなら、白はわずかではあるが上回っていた。

 

それこそ白が最後のターンに引いたのが《ダークジェロイド》ではなく《猛進する剣角獣》であったなら…

 

あの場面、白はモンスターを引けば勝ちだったため勝率は3分の2であった。

だが勝者の定義をレートで上回った方とするならば、白の勝率は3分の2ではなく3分の1。白の方が不利であった。

 

「まあ、レート有りの勝負なんだからそうよね。それにしても負け分が2500円なんてね、なんか余計に悔しいわ」

 

「わたしも、最後は《黒いペンダント》を引いて欲しかったです」

 

「そうね、それなら文句なくアナタの勝ちだったものね。うん、引かなくて良かったわ」

 

白は残念ね、と言わんばかりの笑みを彼女に見せつける。

 

「ねえ、ひとつ訊きたいんだけど」

 

「はい、何でしょう?」

 

「最初から頭に入れてたの?こういうオチ」

 

「さあ、どうでしょう」

 

今度は彼女が挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「むかつくわね。つねるわよ」

 

「痛いのは、いやです」

 

「冗談よ。で、どうなの?」

 

「頭の片隅には入れてました。はっきりと意識したのは2回戦の前です」

 

「そう、そんなところから見えてたってわけね」

 

「はい」

 

(ってことは、やっぱり2回戦のデッキ読まれてたのね。で、思惑通りに3回戦に進んだと)

 

(それでその3回戦も読まれてた、と)

 

白は「ふん」と自嘲気味に鼻から息を出す。

 

(なんか惜敗っぽい感じになってるけど完敗じゃないの。そもそもマッチに勝っておきながら負けてる時点であれだわ)

 

(この子は50届かなかったって言ってたけど、50届かなかったのはむしろワタシの方っていうね)

 

「ねえ」

 

「はい」

 

「最後のターン、ワタシが《ダークジェロイド》を召喚した時にはもう勝利を確信してたの?」

 

「はい、計算してましたので」

 

「じゃあその上で届きませんでした、とか言ってたわけ?」

 

「はい、マッチには負けちゃいましたので」

 

(…ほんと、言うじゃないの。何が1枚でもずれてたらアナタが勝ってた、よ。馬鹿なのかしら)

 

白は今更ながら自分の発言を恥ずかしく思った。

 

「…」

 

白は目を細めて彼女をじーっと観察する。サングラスをかけているため彼女からはよく見えないが。

 

「?」

 

「やっぱつねる」

 

「いやです」

 

「嘘。むかつく、悔しい、負けた、リベンジ失敗だわ」

 

単語を並べるように放った後、白は彼女から視線を外す。

 

「わたしの、勝ちです」

 

「知ってるわよ。ねえ」

 

「はい」

 

「晩ご飯一緒にどうかしら?時間あったらでいいんだけど」

 

「つねりますか?」

 

「しないわよそんなこと」

 

白は軽く笑いながら否定する。

 

「それなら、ご一緒します」

 

「そう、良かったわ。じゃあ早速行きましょ」

 

「はい」

 

話が決まると2人は足早に黒蠍を後にする。その際、出入り口へと向かう2人に客たちから「お疲れ!」や「最高だったぞ!」といった労いや称賛の言葉が送られた。

 

もちろん店を出る前に彼女は忘れることなく青葉に審判とお茶菓子のお礼を述べた。横で聞いていた白はというと「次はワタシにもちょうだい」と青葉にねだっていた。

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