可憐なる博徒 レイリ   作:tres

126 / 145
10話 ♯9「あるトッププロ」

「ねえ」

 

「はい」

 

店を出た直後、白が彼女に声をかける。

 

「ワタシこの辺初めてなんだけど、お店案内してくれるかしら」

 

「食べたいもの、ありますか?」

 

「和食」

 

「和食…あ、すぐ近くにあります、回るおすし」

 

「いいわね、それにしましょ」

 

2人は近場の回転寿司の店へと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

2人が去った後のデュエルハウス黒蠍。

 

勝負の余韻も引き、客たちは各々デュエルを楽しんでいる。

 

 

 

「はあ!?」

 

そんな最中、客の1人が驚きの声を上げる。

 

「あ?どないしたんや?」

 

「いやこいつがさ…さっきのグラサン姉ちゃん、もしかして鈴白なんじゃないかって言うんだよ」

 

対面の客を指しながら別の客に説明する。

 

「鈴白、って今年の桜花の覇者か!?いやいやそれは無いやろ!」

「いやでも声とかそっくりだったし…!顔はよく見えなかったけど」

「それ、俺もそう思ったけどあれはたまたま似てただけの別人だと思うわ。普通に考えて鈴白レベルのプロがこんなところに来るはずないし」

「鈴白っていやあ鶸櫨記念に出るんだよな?」

「ああ。俺見に行こうかなあ」

 

店内がにわかに盛り上がり始める。

 

「けどさ、もし本当に鈴白だったら面白いよな。そしたらあの娘、高レート勝負でGAデュエリストに勝ったってことになるしさ」

「まあな。そういやあの嬢ちゃん、グラサンの姉ちゃんと何しに行ったんだ?」

「晩飯でも行ったんとちゃうか?」

「晩飯かあ。こっそりついて行けばよかったかなあ」

「お前みたいなストーカーから逃げたんじゃないの」

「何だとお!?おめえもずっとガン見してたじゃねえか!」

「あっ、ばれてた」

 

客の1人がそう言うと店内は笑い包まれた。

 

 

 

 

 

プロデュエリスト、即ち表プロとは大まかに言えばデュエルの大会に出場してお金を稼ぐ人たちのことである。

 

プロの大会は大きく分けて4種類、「グレードA」「グレードB」「グレードC」「ノーグレード」(競馬や競輪等の公営競技を想像していただければ話は早いかもしれません)

 

名前の通り大会のレベルは挙げた順番に高いものとなっており、またレベルが高いほど大会の数は少なく賞金は高い。

 

どの大会でも出場可能かというとそうではなく、各大会によってそれぞれ定められた出場条件があり、またルールや賞金も違ってくる。

 

出場条件は年齢や性別、総獲得賞金など大会によって様々である。

例えば毎年4月に行われるグレードA「ブロッサムカップ」の場合、出場するためには「女性」「プロデビューから3年以内」の他に「過去ブロッサムカップに出場していないこと」や「特定の大会で好成績を残していること」などの条件をクリアしていなければならない。

 

グレードAの大会ともなれば出場するだけでも厳しく、プロの中でも選りすぐりのデュエリストたちが一堂に集う。メディアの注目度もグレードB以下に比べて段違いだ。

そのような大会でもし優勝を手にすることが出来たならば、相当の賞金と名声を手にすることは言うまでもないだろう。

 

 

 

ここまでの話を踏まえて、以前置いておくと言ってそれきりだった専門的な用語を説明すると

 

「鶸櫨記念」とは7月上旬に鶸櫨で行われるグレードBの大会。鶸櫨周辺で行われる大会としては最も格が高く歴史も古い。

「桜花」とはブロッサムカップの通称。ブロッサムカップに限らずグレードC以上の大会は別の呼び名があることも珍しくない。

「GAデュエリスト」とはグレードAの大会優勝経験者。GAデュエリストの割合は全プロデュエリストの1%未満であり、その称号は紛れもなくトッププロの証。

 

つまり客の1人は白のことを今年のグレードA「ブロッサムカップ」を優勝し、グレードB「鶸櫨記念」に出場予定である鈴白というプロデュエリストではないか、と言っていたということである。

別の客にそれは無いと否定されたが。

 

 

 

なお、元プロデュエリストの紫はグレードCを1度優勝しておりグレードAの出場経験もある。ノーグレード以外だとグレードCを1度優勝しただけだったが、それでも大半のプロデュエリストよりは好成績といって良かった。

何故なら同じく元プロの柴岡のように、グレードC以上の大会で1度も優勝出来ずに現役を終えてしまうプロデュエリストが全体の多くを占めているからである。

脚光を浴びるのは、限られたほんの一部。それがプロの世界である。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「何から食べようかしら」

 

白はベルトコンベアから流れてくる品々を眺める。

 

「サングラス、外さないんですね」

 

「あら、アナタだって同じじゃない」

 

彼女の言葉に白は小さくニヤリとして答える。

 

「いつもの姿じゃないんでしょ?それ」

 

「この姿も、わたしです」

 

「ほら、やっぱりワタシと同じじゃない」

 

クスクスと笑いながら寿司を1皿取る白。彼女の前ではっきりと笑い顔を見せたのはこれが初めてである。

 

「別の姿、見てみたいです」

 

「アナタが見せてくれたらね」

 

「考えておきます」

 

「そう。期待しないで待ってるわ」

 

白は食事を開始する。彼女も同じく食事を開始した。

 

「いただきます」

 

 

 

ーーー

 

 

 

時は少し遡り、同日午後7時半。某所

 

(今頃黒蠍ではあの2人の勝負か)

 

黒川はどこか明るい表情でタバコを吹かす。

 

「黒川さん、なんかあったんですか?楽しそうですね」

 

黒川の隣に立つ梅里がおにぎりを頬張りながら話しかける。

 

「口に入れたまま喋るな。別に何もねえよ」

 

「そうですか。ところで初めて買ったんですけど梅しそ、結構いけますね!黒川さんもおにぎり食べます?」

 

「いや、いらん」

 

「いらないんですか?じゃあ僕が全部いただきますね!」

 

梅里は未開封のおにぎりを袋に仕舞うと空いた方の手で携帯電話を操作する。

 

「…お!」

 

「どうした?」

 

「今デュエルの情報サイト見たんですけど、鶸櫨記念の予想投票始まってたんですね!」

 

「ああ、そういや来週か」

 

「いやあ楽しみですね。鈴白ちゃんは…おお!オッズ1.5倍ですって!流石の人気ですね」

 

梅里は嬉しそうに話す。

 

「金のかかってない事前の予想投票なぞ何の参考にもならんぞ。何だ?お前鈴白のファンか?」

 

「はい!ブロッサムカップ見てから鈴白ちゃん推しです!」

 

元気良く答える梅里。

 

「そうか」

 

「かわいいですよねー鈴白ちゃん。顔だけじゃなくて性格も落ち着いてるっていうか媚びてないっていうか、そこがまた良いんですよねー」

 

自身の推しデュエリストの魅力を語る梅里に黒川は「ああ」と聞き流す。

 

「あ、そういえば僕の隣に高校生くらいの子が住んでるんですけど、鈴白ちゃんとよく似てるんですよ!雰囲気とか」

 

「へえ。似てるのか」

 

通常ならこういった話は「知らんがな」と思いつつ聞き流す黒川であるが、今回は小さく笑いながらそう答えた。

 

「お?興味ある感じですか?あの落ち着いた雰囲気とか結構似てますよー。まあ鈴白ちゃんと比べると高校生な分まだ幼い感じですけどね」

 

「そうか」

 

(確かに似てるな、色々と)

 

黒川はそう思いながらタバコの煙を吹いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。