可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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10話 ♯10「もうひとつの姿」

ーーー

 

 

 

「お寿司に茶わん蒸しは外せないわ」

 

白は茶わん蒸しを流し込むように口に運ぶ。

 

「やけどしますよ」

 

「アツアツじゃないから大丈夫よ」

 

白はそう言うものの多少は熱かったのだろう、しばらく口の中に含んでから飲み込んだ。

 

 

 

「ねえ、アナタの考えが聞きたいんだけど」

 

飲み込んだ直後、白はそう切り出す。

 

「何の考えでしょうか?」

 

「《機械犬マロン》を反転召喚したターン、アナタは何を考えてその答えを出したの?」

 

白が聞きたいこと。それは3回戦の中盤、彼女が長考の末出した《機械犬マロン》反転召喚という答えの理由。

 

「3つの展開とその先を考えてました」

 

「3つ?」

 

「はい。このターンに反転召喚するか、1ターン後にするか、2ターン後にするか」

 

「このうち1ターン後にするという展開は、《鎖付きブーメラン》か《黒いペンダント》を引かれたら負けてしまうので消しました」

 

「ずっと考えてたのは2ターン後にした場合の展開です。パターンが多くて苦労しました…」

 

あの時点でお互い残りデッキは3枚ずつ。お互い合わせて計6ターン行うと考えた場合、ドローするカードの順番の組み合わせは36通りもある。

ただ、実際は6ターンも経たずにデュエルが決着する組み合わせも多いため、総当たりでも答えを導き出すことにそれほど時間はかからない。

事実、あの時彼女は脳内でそれに近いことをしていた。

 

「白さんが《鎖付きブーメラン》か《黒いペンダント》を引いて、わたしが《破壊輪》を引いたら負け」

「白さんが《メテオ・ストライク》か《黒いペンダント》を引いて、わたしが《プロミネンス・ドラゴン》を引いたら勝ち」

「白さんが何を引いても、わたしが《ビッグ・シールド・ガードナー》を引いたら負け」

 

「他にもそのターンで決まらない組み合わせとかもあって…時間かかりました」

 

それを聞いて白は感心しながらも呆れたような表情を浮かべる。

 

「…ご苦労なことね、ワタシならこんがらがって決め打ちしちゃうわ」

 

「わたしもだいたいの計算だったので、詳しい確率とか期待値とかは…だめでした。でも、なんとなく不利かなってことはわかりました」

 

「それでそのターンに反転召喚した、と」

 

「はい。《黒いペンダント》を引かれたら負けというリスクはありましたが、《ビッグ・シールド・ガードナー》を引いたら勝ちというメリットもありましたので」

 

「なるほど。…ってちょっと、話聞いてる限りだとワタシの手札とデッキに何が残ってるかわかってたみたいに思えるんだけど」

 

「はい、わかってました。その時の白さんの手札が《猛進する剣角獣》で、デッキに残ってるカードが《鎖付きブーメラン》《メテオ・ストライク》《黒いペンダント》ということも」

 

「それはどうしてかしら?」

 

「白さんのその手札のカードは最初のターンからずっとあったカードで、ここまでの展開と白さんのデッキから考えれば、まだ見えてないモンスターは《猛進する剣角獣》とわかります」

 

「デッキの方も同じくまだ見えてない装備カード3枚。《ハリケーン》の可能性も考えましたが、白さんなら《メテオ・ストライク》を選ぶかな、って」

 

「ふーん。でもそれってワタシのデッキに入ってるモンスターは5枚っていう前提ありきよね?6枚入ってるかもしれないとか思わなかったの?」

 

「はい。未使用カードが7枚という縛りのあるわたしの3回戦のデッキを考えた時に『あのデッキ相手にモンスター6枚は多いわね』って、白さんならそう思って5枚にすると信じてましたので」

 

「…その通りよ。何から何まで読んでたってわけね、気に入らないわ」

 

白は彼女には敵わない、と言わんばかりの表情で声を漏らす。

 

「でも、読めたとしても運に見放されちゃったら、勝てないです」

 

「まあね。《ビッグ・シールド・ガードナー》を引けば勝ちって状況でアナタが引いたのは《破壊輪》だったものね」

 

「はい。あのタイミングで引くなんて、って負けを覚悟しました」

 

「ただワタシも引けなかったのよね、2ターン連続で《黒いペンダント》。ほんとデッキの一番下にさえ無ければあそこまで縺れなかったのに…」

 

白は不満気に唇を尖らせる。

 

「わたしはそのおかげで勝ちました」

 

対照的に彼女は顔を小さく綻ばせた。

 

「ふん、その幸運に感謝しなさい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「よろしい」

 

白は満足げに唇を横に伸ばした。

 

 

 

ーーー

 

 

 

会計を済ませ、回転寿司店から出た2人は店の手前横で立ち止まる。時刻は現在午後9時半。

 

「美味しかったわね」

 

「はい」

 

「アナタはこの後どうするの?」

 

「おうちに帰ります」

 

「そう。それじゃあちょっとお邪魔しようかしら」

 

「いいですよ」

 

彼女の即答に白は不意を衝かれたのか、次の言葉が遅れた。

 

「…あら、断られるかと思ったわ」

 

「ひとり暮らしなので、わたししだいです」

 

「そう…ここから近いの?」

 

白は少し間を置いて問う。

 

「歩くと遠いかもしれません。電車だと近いです」

 

「じゃあ電車ね、行きましょ」

 

「はい」

 

2人は駅へと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「どうぞ」

 

「お邪魔するわ」

 

白は靴を脱ぎ、彼女の家に上がる。

 

「何か飲みますか?」

 

「麦茶あるかしら?」

 

「ありますよ。適当にゆっくりしてて下さい」

 

「わかったわ」

 

白はテーブル近くに腰を下ろした。

 

 

 

「どうぞ」

 

彼女は白の前に麦茶を置く。

 

「ありがとう」

 

白は麦茶を一口飲んだ後、彼女の顔をじーっと観察する。

 

「?」

 

彼女も疑問を感じながら見つめ返す。

 

「2人っきりよね?」

 

「はい」

 

「じゃあお願いするわ」

 

「はい」

 

「見せて、アナタのもうひとつの姿」

 

白の要望に彼女は少し時間を置いて「はい」と返事した。

 

 

 

彼女は帽子とメガネを取り、髪を解く。手慣れたもので10秒もしないうちに日中、高校生活を送っていた彼女が現れた。

 

「そんな姿してたのね」

 

「はい。はじめまして」

 

「はじめまして。名前は何というのかしら?」

 

「鈴瀬麗梨です」

 

「良い名前ね。それじゃあワタシも自己紹介」

 

白はそう言うとヘアゴムで結われた髪を解き、サングラスを外した。

 

彼女がそうしたと同様に、もうひとつの白の姿が現れる。

 

 

 

 

 

「はじめまして。ワタシは鈴白藜霞(スズシロ レイカ)。よろしく、麗梨」

 

 

 

【第10話 終】

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