可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯4「痛む人」

意識が無い、と運転手が思ったのも束の間、

 

「…ああ、大丈夫です」

 

赤石から大丈夫との返事。

 

数秒の間こそあったもののどうやら言葉通り無事らしく、赤石はゆっくりと立ち上がった。

 

「良かったあ」

 

運転手はホッ、と胸を撫で下ろす。

 

「おい、怪我してねえか!?」

 

真っ先に女の子の安否を問う赤石。

 

(って、やっぱりこの子か)

 

赤石は女の子の顔を見て、以前折り紙の花をプレゼントしてくれた子と同じ子であることを認識した。

 

「わ、わたしはだいじょうぶ…!」

 

そう答える女の子に傷は見当たらない。

 

「そうか。…っ!」

 

女の子が無事であることに安心した直後、赤石は痛みを覚えたのか一瞬顔を歪ませた。

 

「!?…おにーさん!血が…!」

 

女の子は赤石の右膝を見て目を見開く。赤石の右膝周辺は広範囲に血でじんわりと滲んでいた。

 

「ああ…ちょっと擦りむいただけだ。すぐ治る」

 

だが幸いなことに傷口自体はそれほど大きくないようで、赤石の言葉通り1~2週間もあれば治る擦り傷といってよかった。

 

「一応病院行った方が…治療費なら出すから」

 

運転手は心配そうに勧めるが赤石は首を横に振り、

 

「いえ、俺もこの子も無事なんでいいですよ。それよりすみません、急に飛び出してしまって」

 

と、謝り頭を下げる。

 

「いやそんな…!と、とにかく2人とも無事なんだね?」

 

運転手の確認に赤石と女の子は1度見つめ合って、お互いに「はい」と返事をした。

 

 

 

運転手がトラックに乗り直し走り去った後、

 

「おにーさん…ありがとう、わたし…」

 

女の子は今にも泣きそうな声で話す。

 

「大丈夫だ気にすんな。俺もお前も無事だった、それでいいじゃねえか」

 

赤石は優しく微笑む。

 

「うん…!」

 

女の子が頷いた後、赤石は表情を締め直し公園の方へと首を向ける。

 

その様子を公園の中から遠目に見ているのは、気まずそうにしている数人の男の子。

 

「おい、お前ら。ちょっと来い」

 

赤石は若干の怒気を含んだ声を発し、男の子たちに向けて手招きをする。

 

男の子たちはビクビクと怖がりながら赤石の元へ歩く。男の子たちは誰1人赤石と目線を合わせない。

 

「別に怒ったりしねえからこっち見ろ」

 

先程とは打って変わって、赤石の声は柔らかい。

 

男の子たちも恐る恐るではあるが首を上げて赤石と視線を合わせる。

 

「遊ぶ時は周りに気を付けて皆が楽しめる遊びをしな。お前らも見てわかっただろ?嫌な思い、悲しい思いをするのは本人だけじゃねえんだ」

 

「…」

 

男の子たちは赤石の言葉が胸に突き刺さったのか、真剣な眼差しで赤石の目を捉える。

 

「それさえわかってれば大丈夫だ。怖がらせて悪かったな」

 

赤石も男の子たちの目付きから自分の言葉をしっかり受け止めてくれたことを感じ取ると、女の子へと首を向ける。

 

「問題ねえとは思うが、今は痛まなくても後から痛みが出るってこともある。そん時は我慢せず病院行っとけよ」

 

「うん!おにーさん、本当にありがとう」

 

「ああ。そんじゃあな」

 

赤石はそう答えると家へと歩き出した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「いっ…!もうちょっと優しく頼む」

 

「優しくやってるって」

 

赤石は帰宅後、痛みに耐えながら桜による治療を受けていた。

 

「久しぶりに大喧嘩でもしたのかって思ったよ。しかし傷多いな、痛そう」

 

桜は赤石の背中を見ながら率直な感想を述べる。

 

「勢いよく飛び込んだからな、いてっ…!」

 

出血が目立ったのは確かに右膝周辺であったが、実はその部分だけでなく背中や腕など全身数か所を擦り剥いていた。

 

赤石は立ち上がった時点でかなりの痛みを全身に感じていたが、運転手や女の子に気を使わせまいと必死に顔に出さないよう我慢していたのである。それでも一瞬痛みに顔を歪ませてしまったが。

 

「けどこの程度の怪我で済んでよかった。もし兄貴がトラックに轢かれてたなんて思うと…」

 

桜は言葉に詰まる。最悪の事態にならなくて良かったという安堵と、もしそうなっていたらという恐怖が桜の心を揺らす。

 

「…すまん、心配かけたな。次からは気を付ける」

 

背中から伝わる桜の想いに、赤石は優しく且つ強い意思のこもった声で誓う。

 

「…うん」

 

「だから泣くな」

 

「な、泣いてねーよ!」

 

「だっ!…痛えんだから優しく張れって!」

 

「はいはい、動くと余計痛いよ」

 

「ったく…」

 

桜は赤石の背中から伝わる温かさから、改めて兄がここにいる幸せを感じていた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

時は翌日に進み、体育の授業前。

 

「お?赤石今日は見学か?」

 

プールサイドのベンチに座る赤石に話しかけるクラスメイトたち。その中には彼女とのデュエルで負けた経験のある北林もいた。

 

「ああ、ちょっと怪我しちまってな」

 

「なんだ?また喧嘩でもしたのか?」

 

「いや、ただ転んだだけだ」

 

自嘲気味に笑う赤石。

 

「はは、だっせーな」

「さすがの赤石も地面には敵わんか」

「つか、転んだだけで見学とか笑えるわ」

 

「うるせえ。さっさと泳いでこい」

 

赤石はクラスメイトたちを追い返そうとする。

 

そんな中、北林は何かを閃いたかように口を開いた。

 

「ってことはさ、今なら赤石に喧嘩勝てるんじゃね!?」

 

「おおっ!言われてみれば!」

「これはひょっとするかもな!?」

「不敗神話の終わりってか!?」

 

北林の発案にクラスメイトたちが盛り上がる。

 

(こいつらプライドねえのか…)

 

その様子を情けなさと呆れ半分で静観する赤石。

 

「で、誰が挑戦するんだ?」

 

北林の疑問にクラスメイトたちは一旦静まり、

 

「え?お前じゃねーの?」

「北林に決まってんだろ」

「何?自分はする気無いのに喧嘩とか言ったわけ?」

 

と、北林に視線を向ける。

 

「ちょ、ちょっと待ーーー」

 

「つーことで赤石、北林がお前に挑戦するってよ」

 

北林に被せるようにクラスメイトが赤石に話しかける。

 

「そうか。じゃあ北林、また放課後にでも」

 

「ま、待てよ赤石!冗談に決まってんだろ…はは」

 

北林はというと若干怖気づきながら冗談だと主張する。

 

「北林だっせー!」

 

「いいからお前ら早く泳いでこい」

 

赤石は今度こそクラスメイトたちを追い返すと、ベンチで授業を見学した。

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