可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯5「耐える人」

ーーー

 

 

 

昼休み。赤石はトイレから出て廊下を曲がった直後、

 

「きゃっ!」

 

「うおっ、と…橡か」

 

琥珀と鉢合わせする。寸前で赤石が回避したため、衝突には至らない。

 

「橡か、じゃないわよ。もう少しでぶつかるところだったじゃない…!」

 

「それは俺もなんだが…」

 

小声で返す赤石。

 

「赤石君は体が大きいから吹っ飛ぶのは私の方…って、赤石君怪我してるのだったわね。大丈夫なの?」

 

琥珀は関係ないと言わんばかりに文句を続ける、かと思いきや一転して赤石を心配するような態度を見せた。

 

「ああ、痛みもねえし平気だ」

 

「そう。それならいいのだけれど…お大事にね」

 

「おう。心配してくれてありがとな」

 

赤石は穏やかな笑みを浮かべる。

 

「生徒会長として生徒を気に掛けるのは当然のことよ。それじゃ私はこれで」

 

琥珀は礼には及ばない、といった態度で答えるとその場を去った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

放課後、赤石は今日も普段通りに公園を横切る道を歩く。

 

途中、公園に目を向けてみるが今日は人が誰も居ないようだった。

 

(今日は居ねえか。まあ、昨日偶々居合わせたってことだろうな)

 

 

 

「おにーさん!」

 

「!」

 

背後からの聞き覚えがある声に赤石は振り返る。

 

「おう、体は大丈夫か?」

 

声の主は昨日赤石が助けた女の子であった。

 

「うん!どこもいたくないよ!」

 

女の子は元気良く答えると、赤石の元へと駆け寄る。

 

「それは良かった」

 

「おにーさんこそひざ、いたくない?」

 

「全然痛くねえぞ。血も止まったしな」

 

赤石も余裕の表情を見せる。

 

「よかった。…えっとあの、おにーさん」

 

「ん?」

 

「おはなし、しませんか?」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「なるほど、昨日みたいなやつを最近よくやられてるってわけか」

 

公園内のブランコに座った赤石は女の子の話を一通り聞き、口を開く。

 

「うん…」

 

女の子もブランコに揺られながら頷いた。

 

 

 

女の子はクラスで浮いていた。理由は言動や態度が年相応のそれとは少しばかり異なるから。

 

周囲からの評判は当初『冷めている奴』止まりであったが、時が経つに連れ『人を見下すいけ好かない奴』『小さいくせに大人ぶってる生意気な奴』等と悪化していった。

 

もちろん本人にそんな気は一切無い。しかし無意識ながらそういった言動や態度を見せてしまうことがないとも言い切れなかった。要は周囲より成長するのが早かったということなのだろう。

 

何人かいた友人たちも次第に離れて行き、女の子は孤立した。

 

ただ、孤立自体は女の子も『自分と合わない人と仲良くしたってしょうがない』、と思っていたこともあり未練は無かった。

 

孤立してからというもの女子たちには無視され、男子たちにはからかわれ、女の子は1人耐えていた。

 

そんな日々が続くうちに、女の子の心の中に不安や絶望の暗雲が立ち込め始める。

 

女の子は焦った。早く大人になりたがった。大人になれば強い自分に変われる、今自分を縛っているものから解放されると信じて。

 

大人になれば、という希望が雲間から差す唯一の光だった。

 

 

 

「なにがたのしいんだろう。つまんないよね、あんなことしても」

 

「…まあな」

 

「おにーさんってこうこうせい?」

 

「そうだ」

 

「あんなことする人って、いる?」

 

「今は、いねえな」

 

赤石は彼女と交わした約束を思い出す。彼女も言っていた通り完璧に守り切れていると断言はできないが、少なくとも赤石自身は可能な限り約束は守り続ける心持ちでいるようだ。

 

「やっぱり。おとなはしないよね」

 

「…高校生も子供だと思うけどな」

 

「わたしにとっては、おとなだよ」

 

「大人、か」

 

赤石は遠い目をして呟く。

 

(そういや深く考えたことなかったな。年齢的には俺も大人に片足突っ込んでるんだろうが…)

 

「なあ、1つ訊いてもいいか?」

 

「なーに?」

 

「お前にとって大人って、どういう人なんだ?」

 

「えっとね、ひとりでなんでもできて、じゆうで、だれかをなかまはずれなんてしなくて、それから…」

 

女の子は次の言葉が出ずに「うーん…」と考える。

 

「おにーさんはどんな人がおとなっておもう?」

 

考えた末思い浮かばなかったのか女の子は赤石に質問し返した。

 

「そうだな…よくわからん」

 

「よくわかんない?」

 

「ああ。大人ってどんな人かなんて具体的に考えたことなかったし、気が付いたら大人になってるもんだと思ってたからさ」

 

「そうなんだ…」

 

「だからよくわかんねえ。わかんねえけど、ただはっきりと言い切れるのは…」

 

「のは?」

 

「大人になりたいと思ってるうちはまだまだ子供なんじゃねえかってことだ」

 

「!…」

 

目から鱗が落ちる、と表現するには大袈裟かもしれないが、赤石の観念に女の子は感銘を受けたようで、揺れていたブランコと揺らしていた体が共にピタッと動きを止めた。

 

(おとなになりたいのは、こどもだから…)

 

静かな時間が流れ行く。大人とは何か、子供との違いは何か。各々いずれはその答えを見つけるのだろう。

 

もっとも、その答えを見つける頃にはもう子供ではないかもしれないが。

 

「わかんねえことも多いし、俺もまだまだ子供なんだろうな…」

 

赤石は再び遠い目をして呟く。

 

「…いえ、おにーさんはやっぱりおとなです」

 

女の子はどこか吹っ切れたような笑みを浮かべ呟き返した。

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