可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯6「応える人」

「あ、そういや昨日のあれはちゃんと拾えたか?」

 

「うん!ぶじだったよ。ほら」

 

女の子はブランコから立つと得意気にランドセルを見せる。

 

「そいつは良かった。この横のストラップか?」

 

正確にはランドセルの側面からぶら下がってるストラップを。

 

「おねーちゃんがたんじょうびにプレゼントしてくれたの」

 

「へえ」

 

「さてクイズですおにーさん。このストラップの先についてるものはなんでしょう?」

 

「いきなりだな。っと…」

 

赤石はまじまじとストラップを見つめると、

 

「わかった、柚だ」

 

迷うことなく回答した。

 

「せいかいー。よくわかったね、おにーさん」

 

「蜜柑にしちゃあ色が黄色過ぎるからな」

 

「ゆずって、わたしのなまえにもあるんだよ」

 

女の子は柚を象ったストラップの先端を指で摘む。

 

「名前?」

 

「うん。柚葉(ゆずは)ってなまえなの。ゆずのはっぱで、ゆずは」

 

「良い名前だな」

 

「えへへ、ありがとう。おにーさんのおなまえは?」

 

「修哉。赤石修哉だ」

 

「しゅうや…いいなまえだね!」

 

「ありがとな」

 

「えっと、修(しゅう)おにーさんでいい?」

 

「ああ、好きに呼んでいいぞ。柚葉」

 

「!…」

 

名前を呼ばれた瞬間、女の子こと柚葉は反射的に赤石から顔を背ける。

 

「あ?どうした、その呼び方は嫌か?」

 

「あ、ちがうの…おとなのおとこの人に、なまえよばれたのひさしぶりだったから…ちょっとびっくりしただけ」

 

「…そうか」

 

柚葉の話を聞いて、赤石は察してしまった。柚葉自身はおそらく単純に顔を背けた理由を言っただけだろう。しかし受け取る側は例え意図が含まれていなくとも、そう解釈してしまう。

 

「びっくりしたけどうれしい。わたし、修おにーさんにゆずはってよばれるのすきかも」

 

柚葉は照れながら話す。その様子だと柚葉は察していないだろう。赤石が察していることを。赤石が一瞬躊躇ってから返事した意味を。

 

(…何勝手に知った気になってんだ俺は。ちっ、思い込みもたいがいにしやがれってんだ)

 

純粋さ溢れる柚葉を見て、赤石は自分に嫌気が差した。まるで当然のように環境や境遇を作り上げ、さらには感情まで決めつけてしまっていたことに。

 

察することができるということは見て、聞いて、知ってきたからに他ならない。が、そうであるが故に構築してしまう。既知の欠片で人形を。

 

(何より俺自身そうだっただろうが…!)

 

「?…修おにーさん?やっぱりまだいたむの?」

 

歯を食いしばっているかのような表情を浮かべる赤石に柚葉は心配そうに声をかける。

 

「いや、大丈夫だ。本当に痛みはもう消えたからさ」

 

正直に言えば昨日ほどではないが、まだ痛みは残っている。しかし心配させてはいけないと赤石は笑顔を作る。

 

(やっぱり俺は、まだまだ大人には程遠いな)

 

「さて、そろそろ帰るかな」

 

それまでの流れを切るようにブランコから立ち上がる赤石。

 

「もうかえっちゃうの?」

 

柚葉は少し寂しそうな顔をして赤石を見上げる。

 

「ああ。この後寄る所もあるしな」

 

「そっか…あの、修おにーさん」

 

「ん?」

 

柚葉はランドセルを肩から外し、膝の上に置く。

 

「えっと…」

 

続けてランドセルを開け、中から何かを取り出すと赤石に差し出した。

 

「きのうの、おれい」

 

「これは…」

 

差し出したのは折り紙の花。今度は折れておらず、綺麗な状態を保っている。

 

いや、ただの一輪の花ではない。花は複数連なっており、全体の形はまるで花束のよう。

 

色鮮やかな花びらの上には同じく折り紙の鶴が飾られている等、実に芸が細かい仕上がりとなっている。

 

「わたしにはこんなことしかできないから…あの、いつかちゃんとおれいするね」

 

柚葉は昨晩、赤石にどうお礼をしたらいいのか考えていた。とはいえ、いくら考えたところで子供である自分に出来ることなど限られており、答えまでの時間は短かった。

 

いつも以上に強烈な無力感に苛まれた。自分を助けてくれた人に対して見合ったお礼ができない、と子供である自分が嫌になった。

 

しかし、それでも何もしないという選択はしなかった。赤石の顔を思い浮かべると、たとえ無力な自分でも何か出来ることをしよう、という意思を持つことが出来たからである。

 

その強い意思によって柚葉はそれらを跳ね除け、今持てる力を出し切ることができた。この折り紙はそんな柚葉が作り上げた、いわば想いの結晶である。

 

 

 

そんな想いに、赤石はしっかり応えた。

 

「すげえな、柚葉は」

 

赤石がその言葉と共に受け取ると、柚葉は「えっ…?」という表情で赤石を見つめる。

 

「作るの大変だっただろ?ありがとな。柚葉の気持ちがしっかり伝わってくる最高のお礼だ」

 

受け取った赤石は労いと感謝の言葉を笑顔で柚葉に送った。

 

「ううぅ…修おにーさあああん…!」

 

赤石の返答によって柚葉の中で感情が決壊する。

 

「おっ、と」

 

柚葉に抱き着かれる赤石。

 

「うえっ…ぐすっ」

 

赤石は柚葉が泣き止むまでその場を動くことは無かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

同日夜、午後8時。

 

繁華街のCDショップから1人の少女が退店する。

 

「お?椎名ちゃん?」

 

直後、何者かがその少女、椎名へと声をかけた。

 

「?…ああ、おっさんの連れか」

 

「梅里って呼んでよー。名前知ってるでしょ?」

 

声をかけたのは警察官、梅里。

 

「で、何?」

 

「普通に無視しないで欲しいんだけど…って今日は制服じゃないんだね?」

 

これまでと違い椎名は制服ではなく、私服を着用していた。

 

「またあんなとこに連れてかれるのは嫌だからな」

 

「そうだよねー。これからもそうしてくれると僕らも助かるよ」

 

(黒川さんが署まで連れて行ったのが効いたのかな)

 

そう推察する梅里。

 

「…」

 

機嫌の良い梅里とは対照的に、椎名はというと面倒くさそうに梅里を細目で捉える。

 

「あ、制服じゃないなら良いんだ。呼び止めて悪かったね」

 

梅里の話が終わると、椎名は梅里に背を向けスタスタと歩き出した。

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