可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯7「従う人」

その数分後、

 

「よう、椎名」

 

再び何者かが椎名へと声をかける。

 

「?…誰だ」

 

(桑鴇の制服…2、3年の奴らか)

 

椎名が振り向くと、そこには2年先輩にあたる桑鴇高校3年の男子生徒4人がニヤニヤと笑いながら立っていた。

 

椎名にとっては初対面だが、男子生徒たちは椎名のことを知っている様子。というのも椎名はそのルックスや振る舞いからよく噂され、桑鴇高校の中で名の知れた生徒の1人となっていたのである。

 

「さっきの見てたぞお?ひょっとしてお前の彼氏かあ?」

 

その中には藍子とのデュエルに負け、桜に謝罪した森下の姿もあった。

 

「それともあれか、夜の商売相手って奴?」

「ははは、現場目撃しちゃったよ」

「いくら稼いだのー?」

 

「…」

 

椎名は無視して行こうとするが、

 

「待てよ」

 

森下に腕を掴まれる。

 

「離せ」

 

「お?そんな態度とっちゃう?言っとくがさっきの動画に撮ってるからな?」

 

森下は空いている方の手で制服のポケットから携帯電話を半分程ちらりと見せる。

 

「…脅しか?」

 

「人聞きが悪いなあ。せっかく会ったんだしちょっと付き合えよお」

 

「カラオケ行こうぜカラオケ」

「いいねえ!一緒に盛り上がろうぜ!」

「椎名歌上手いんだってな?ぜひ聴いてみたいなあ」

 

男子生徒たちは相も変わらずニヤニヤしながら椎名の返答を待つ。

 

「…わかった。変なことはするなよ」

 

椎名は反抗するのは賢明でないと判断したのか、要求に従った。

 

「しねえって!な?」

「おう!大丈夫大丈夫!」

「早く行こうぜ!」

 

椎名を含めた男子生徒たちはカラオケ店へと出発した。

 

 

 

 

 

「お、この部屋だな」

「結構広いじゃーん」

「何歌おっかな」

 

カラオケ店に到着し、男子生徒たちは個室に入る。

 

男子生徒たちがそれぞれ腰を下ろして間も無く、

 

「トイレ行ってくる」

 

椎名は立ち上がり部屋を出ようとする。

 

「おい、逃げるんじゃねーだろうな?」

 

個室に入って早々のトイレに怪しむ森下に、

 

「そう思うならついてくれば」

 

椎名は平然とした態度で返し、トイレへと向かう。

 

 

 

「おい、一応つけとけ」

 

「おう」

 

個室のドアが閉まった直後、森下の指示により男子生徒の1人が椎名の後をつけるため同じくトイレへと向かった。

 

 

 

「まさかあんな場面に出くわすとはなあ」

「こっそり撮っといて正解だったな」

「ってかやばいなあいつ。あんな状況でも全然物怖じしねえとか」

「おっさん共の相手してるうちに怖いもの知らずになったんじゃねえの」

「今日は俺らの相手してもらうけどな」

 

ハハハ、と男子生徒たちは盛り上がる。

 

「近くで見て思ったんだけどさ、やっぱあいつ可愛い顔してるわ。胸も割とあるし」

「なんだ?お前惚れたか?」

「そうかもしんねえ、ってかやべえ興奮してきた」

「でもおっさんに使われまくってるぞ?」

「構わねえよ。顔と体が良ければそれでよし!それにその方が後腐れなくていいだろ?所詮売ってる女だし」

「それもそうか」

 

男子生徒の1人が部屋を見回す。

 

「なあ森下、ここって防音大丈夫だよな?監視カメラとかも…」

「大丈夫に決まってんだろお?ここには何回か行ってるけど、防音もしっかりしてるしカメラも設置されてねえよ。だから安心して出来るぜ」

「おお!」

「あとは適当に頃合いを見計らって押し倒すだけさ。想像してみろ、あの生意気な顔が歪むところを」

「たまんねえ…」

「最初俺な!」

「お前やっぱ惚れてるだろ」

 

男子生徒たちは椎名が居ない間、下卑た笑みを浮かべながら会話を続けた。

 

 

 

椎名と後をつけた男子生徒が戻ると、森下は始まりと言わんばかりにマイクを握る。

 

「よし、開幕は俺から行くか!」

 

「おお!行け行け!」

 

曲が流れ出すと森下は上機嫌に歌い始めた。

 

 

 

「ねえねえ、次歌ってよ」

「椎名の歌声聴きたいなあ」

「そのためにカラオケ来たんだからさ」

 

森下が歌う途中、男子生徒たちが椎名に迫る。

 

「…」

 

(気持ち悪いな、どうせ目的はそれじゃねーくせに)

 

椎名は内心不快に思いながらも曲を予約した。

 

 

 

森下の曲が終わり、椎名はマイクを握る。

 

待ってました、と盛り上がる男子生徒たち。

 

しかし椎名が歌い始めると一変、

 

 

 

「え、マジ…?」

「ガチで上手くね?」

「何このギャップ」

 

当初は騒がしかった男子生徒たちだったが徐々に静まり返り、

 

「…」

 

歌が終わる頃には聴き入っていたのか余韻に浸るように呆けた顔をしていた。

 

 

 

静寂の中、椎名がマイクを置くと、その音で男子生徒たちは我に返った。

 

「すげえな!予想以上だったわ!」

「お前歌手目指せよ」

「いっそアイドルとか!?人気出そう」

 

男子生徒たちは称賛するが、当然椎名の表情は緩まない。

 

「次歌おうかと思ってたけど歌いづれえな…」

「じゃあ俺とデュエットしようぜ」

「お、いいね」

 

男子生徒の1人が次の曲を予約した時、

 

「お?誰の携帯だ?」

 

携帯電話のバイブ音と着信メロディが響く。

 

「ウチの」

 

椎名がそう言って携帯電話を手に取ると音は鳴り止んだ。

 

「なんだ椎名のか」

 

椎名は携帯電話を耳元に当てる。どうやら電話がかかってきたようだった。

 

「うん、何?今カラオケ…そう」

 

電話に出たタイミングで予約した曲が流れ始めたので、椎名は立ち上がり通話しながら退室する。

 

 

 

 

 

そしてそれを最後に椎名がこの個室に戻ることはなかった。

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