可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯8「楽しむ2人」

ーーー

 

 

 

翌日、昼過ぎ。

 

琥珀は駅の手前でそわそわとしながら待ち人の到着を待つ。

 

(もうそろそろ到着される頃でしょうか…)

 

そう思いながら携帯電話で時刻を確認して数秒後、メールを1通受信する。

 

送信相手は琥珀の待ち人である、藜霞。

 

(藜霞お姉様から…?)

 

琥珀はメールを開く。

 

 

 

from藜霞

「6時の方向」

 

 

 

(えっと、真後ろよね?)

 

琥珀はその方向に藜霞がいる、と予想して振り向くも、

 

(…あれ?)

 

それらしき人物は見当たらず。

 

しいて言えば、きっかりと6時の方向に立ってこちらを見ているサングラスをかけた1人の若い女。

 

(まあ、別人でしょう)

 

琥珀は藜霞ではないと判断してその女から視線を外す。

 

(…え?)

 

しかし、その女がこちらへと距離を詰めてくるのが見えた琥珀は、反射的に再び視線を合わせる。

 

その女は琥珀の前に立つとサングラス越しにニッコリと笑った。

 

「あの、何か…?」

 

困惑しながら伺う琥珀。もちろん琥珀は気付かない。

 

 

 

 

 

「ふふ、琥珀ちゃんでも気付かないものね」

 

その女が待ち人であることを。

 

「え?…えっ、もしかして…!?」

 

髪が解かれ、サングラスが外されると、

 

「どうもー」

 

琥珀のよく知る藜霞が現れた。

 

 

 

 

 

「昨日から藜霞お姉様には驚かされっ放しですわ…」

 

道中、琥珀は苦笑いする。

 

「今日も琥珀ちゃんの反応面白かったわ、ふふ」

 

「もう…けれど考えてみれば当然ですわね。藜霞お姉様は有名人ですもの」

 

「プライベートはだいたいこの格好よ」

 

藜霞は既に変装した姿へと戻っている。

 

「できれば事前に言って頂けると良かったのですが」

 

「えーそれじゃ琥珀ちゃん驚かない」

 

「どうしてそう驚かせたがるのですか…」

 

「面白いからに決まってるじゃないの」

 

楽しそうに答える藜霞。はっきりと言い切るのもそうだが、その無邪気さ溢れる言動に微笑ましく思ったのか琥珀は何も言い返さなかった。

 

 

 

 

 

しばらく話しながら歩いているうちに時間もお昼時、ということで2人は飲食店へと入った。

 

メニューは琥珀が一度も食べたことがないという、お好み焼き。

 

(器用にひっくり返すのですね)

 

琥珀は興味深そうに、目の前で繰り広げられる店員の手捌きを見つめる。

 

(鉄板で焼く音も、なんだか心地良く感じます)

 

舌の前に目と耳で味わう琥珀。堪能しているうちに注文したお好み焼きが出来上がった。

 

「適当にカットして、あとはソースとかお好みでかけて食べて」

 

「わかりました」

 

琥珀は適当なサイズにカットすると、

 

「いただきます」

 

少し冷ましてから口に運んだ。

 

「どうかしら」

 

「美味しいです…!」

 

「でしょ。ワタシも初めて食べた時はハマったわ。ちょうど関西の方に遠征行ってたから毎日のように色んな店で食べ歩いてたのよね」

 

藜霞も思い出を語りながら口に運ぶ。

 

「毎日は飽きませんか…?」

 

「1週間くらいなら意外と飽きないものよ」

 

「そういうものなのですね…」

 

琥珀はとりあえず納得して食べ進めた。

 

 

 

「藜霞お姉様は普段どんなものを食べておられるのですか?」

 

食事中、ふと思った琥珀が質問する。

 

「んー、パンとかご飯とか麺とか」

 

「あの、おかずは…」

 

「もちろん食べてるわよ、色々。こういう生活だから外食が多いわね」

 

「外食ですか…」

 

(藜霞お姉様、きちんとバランスよく栄養を摂っているのでしょうか…?)

 

先程の毎日のように同じものを食べるという藜霞の話を思い出し、琥珀は藜霞の栄養事情を気に掛ける。

 

「大丈夫よ」

 

「えっ?」

 

「この生活が安定してからはちゃんと栄養バランスも考えながら食べてるから」

 

藜霞は琥珀の心配を読んでいるかのように答える。

 

「そうですか。それなら安心ですわ」

 

琥珀は笑顔で返した。

 

 

 

 

 

ランチを終えた2人は近所の書店へと足を踏み入れる。

 

「琥珀ちゃんは本読むの好きなのよね?」

 

「はい、図書館で勉強がてら様々な本を読んでいます。書店にもよく行きますわ」

 

「真面目ねー。ワタシは最近漫画くらいしか読んでないわ。琥珀ちゃんは読む?」

 

「漫画ですか?私はあまり読まないですね…」

 

「やっぱり真面目ねー。あ、これ最新刊出てる」

 

藜霞は1冊の本を手に取る。

 

「それは漫画ですか?」

 

「ええ。あるデュエリストが主人公の漫画なんだけど面白くて今ハマってるのよね」

 

「へえ、面白そうですね」

 

「面白いわよ。おすすめ」

 

(藜霞お姉様のおすすめということでしたら読んでみた方が良さそうですね)

 

「近いうちに読んでみますわ」

 

 

 

書店の中を見回る2人。

 

「あっ」

 

その途中、琥珀が立ち止まる。

 

「どうしたの」

 

「いえ、大したことではないのですが…」

 

琥珀は本棚から1冊の本を取り出す。

 

「今練習している曲と同じ本があったので」

 

琥珀が藜霞に見せたのはクラシック音楽の楽譜。今2人が居るこの一角は楽譜コーナーらしく、様々な楽譜やそれらに関する本が陳列されている。

 

「あ、ピアノ習ってるって昔言ってたわね」

 

「はい。小学生の頃から先生に教えて頂いています」

 

「琥珀ちゃんの演奏聴いてみたいわ」

 

「わ、私の演奏など藜霞お姉様に聴いて頂くには至らぬ点が多すぎて…!恥ずかしいですわ…」

 

声が尻すぼみとなりながら琥珀は本を棚に戻す。

 

「えー」

 

「そ、そういえば藜霞お姉様はバイオリンを弾けるのでしたわよね?」

 

多少強引ながら話題を変える琥珀。

 

「んーそんな時期もあったねー。でもここ数年弾いてないからもう弾けないと思うわ」

 

「そうですか…それは残念です。一度は拝聴したかったですわ」

 

「というわけで至らぬ点を解消したら聴かせてね」

 

そして不意打ちのように話題を戻す藜霞。

 

「う…前向きに検討致しますわ」

 

対し琥珀は一旦怯んだ後、お茶を濁すような返答をした。

 

(ですが、藜霞お姉様が聴きたいとおっしゃるならいつか必ず…そのためにも練習あるのみですわね)

 

しかし心中は藜霞の期待に応えようと改めて気を引き締める琥珀であった。

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