「さて、次どこ行こっか」
書店を出て一呼吸置いた後、藜霞は琥珀に尋ねる。
「そうですね…」
考える素振りを見せる琥珀だが、実のところ琥珀の中で次に行きたい場所やしたいことは決まっていた。
「藜霞お姉様は行きたい場所などは…」
しかし、どうやら自分からは言い出せないらしく琥珀は行き先を藜霞に委ねる。
「そうね…」
(さすがに言えませんわ…藜霞お姉様とデュエルがしたいなんて)
琥珀が自分の思いを胸に仕舞おうとしたその時、
「琥珀ちゃんとデュエルがしたいわ」
と、藜霞からの希望。
「…え、えっ?今なんと…?」
琥珀は一瞬固まり、目を見開いて聞き返す。
「だめかしら?」
「そんな…!願ってもないお話ですわ…!」
琥珀の表情が喜びへと変わっていく。
「よかった」
(やっぱり。だと思った)
藜霞は見抜いていた。琥珀がしたいこと、そしてそれを言い出せないことも。
「ですが宜しいのですか?藜霞お姉様のようなプロの方が素人の私とデュエルしても…」
「良いに決まってるじゃないの。さ、カードショップでもデュエルハウスでも案内してちょうだい」
補足しておくとプロが素人相手にデュエルをしてはいけないという規定は存在しない。ただ琥珀が遠慮していただけである。
「ふふ、デュエルハウスは私にはまだ早いですわ」
なお、これは遠慮ではなくハウスによっては未成年の琥珀は入店できないためである。
ーーー
デュエリア桐縹店。
特筆すべき点も無いであろうこのカードショップでは今日も数多くのデュエリストが訪れ、この瞬間もデュエルスペースではデュエリストたちによる熱い戦いが繰り広げられている。
そのような状況でにわかに注目を集めているのは、ある2人のデュエリスト。その2人同士のデュエルが今まさに行われていた。
注目を集める理由は単純明快、その2人がどちらも比率的に珍しい若い女性デュエリストであるということに他ならない。
もの珍しさで観戦している周囲の人間には思いも寄らないことだろう。
まさかそのうちの1人が変装した今年のブロッサムカップ優勝者などということは。
藜霞LP3500 手札2枚
琥珀LP3500 手札2枚
「ドロー、スタンバイ、メイン」
「《エヴォルテクター シュバリエ》召喚。《スーペルヴィス》発動、《エヴォルテクター シュバリエ》に装備」
「《エヴォルテクター シュバリエ》の効果、《スーペルヴィス》を墓地へ送り《降雷皇ハモン》を破壊」
「はい」
「《スーペルヴィス》の効果、墓地から《E・HERO アナザー・ネオス》を特殊召喚」
「バトル、《エヴォルテクター シュバリエ》で《宝玉獣 トパーズ・タイガー》を攻撃」
「受けます。《宝玉獣 トパーズ・タイガー》は破壊されますが、効果を発動して自身を魔法&罠ゾーンに置きます」琥珀LP3500-300=3200
「《E・HERO アナザー・ネオス》で攻撃」
「受けますが、《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果で戦闘ダメージを半分にします」琥珀LP3200-950=2250
「エンド」
藜霞LP3500 手札1枚
琥珀LP2250 手札2枚
(厳しい状況ですが、あと1種類揃えば…)
「ドロー」
(!…来ましたわ!)
「スタンバイ、メイン」
(引いたみたいね)
琥珀が望みのカードを引いたことを察する藜霞。
「《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を召喚します。召喚に成功した《宝玉獣 サファイア・ペガサス》の効果を発動、デッキから《宝玉獣 アメジスト・キャット》を魔法&罠ゾーンに置きます」
「これでフィールド、墓地に7種類の宝玉獣が揃いました」
「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を特殊召喚します」
その瞬間、観客たちから「おおお」といった歓声が上がる。
(ここは破壊効果のある《エヴォルテクター シュバリエ》の方を攻撃すべきよね)
「バトル、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》で《エヴォルテクター シュバリエ》に攻撃します」
「受けるわ」藜霞LP3500-2100=1400
「ターンエンドです」
藜霞LP1400 手札1枚
琥珀LP2250 手札1枚
(藜霞お姉様のLPは残り1400。手札は次のドローで2枚…私が有利であることには間違いありません)
「この状況で《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》はきついな。デュアルデッキじゃ4000以上の攻撃力はほぼ出せないし」
「だよなあ。しかもデュアルはただ召喚しただけじゃ通常モンスターだから魔法のサポートが不可欠なんだけど、宝玉獣が魔法&罠ゾーンに3体いるから…」
「1回だけとはいえ《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果で無効にされる、ってことか。」
「まあそこは《E・HERO アナザー・ネオス》の攻撃で《宝玉獣 サファイア・ペガサス》を破壊すれば問題はないけどね」
「どちらにしろこのターンで《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を破壊できなきゃ負けだな」
観客たちの言う通り、この状況は琥珀が有利であることは一目瞭然だ。琥珀自身もそれを理解している。
(ですが相手はあの藜霞お姉様…いくら貸し出しデッキとはいえ油断できませんわ!)
しかし、相手が相手なだけに気を緩めることは無い。むしろより引き締めている。
(ふふ、勝ちがすぐそばにあるはずなのに、琥珀ちゃんの顔を見るととても遠そうだわ)
固い表情の琥珀とは対照的に藜霞はリラックスしていた。といっても決して気を抜いているわけではなく、デュエルそのものを楽しんでいるかのよう。
(そうね、この状況をひっくり返しての逆転は難しいし、それに琥珀ちゃんとの久々のデュエルってことでここは…)
(ワタシが勝つわ)
「!?」
ほんの一瞬ではあるが、琥珀は形容し難い寒気のようなものを感じた。観客たちは何も感じていないのか平然としている。
(今のは…気のせいかしら?)
(そのためのカードはデッキに1枚だけ。でも関係ないわ)
藜霞はそんな琥珀をよそにターンへと入る。
「ドロー、スタンバイ、メイン」
(ね、引いちゃうもの)
そして引いたカードを確認すると小さく笑った。