「白さん」
彼女は先に駅前で待っていた藜霞に声をかける。
「あら、3日ぶりね」
「ですね」
「表裏一体だわ」
突拍子もない藜霞の発言だが、
「鏡越しの、わたしみたいです」
意図を理解したのか彼女はそう返す。
「ふふ、そこにワタシが映ってるのかしら」
「少なくとも、今わたしの瞳には」
「それだとワタシ自身が鏡だわ」
「わたしもそうなりますね」
「では鏡よ鏡、今日のお食事処はどこかしら?」
「はい、鏡さま。ご案内致しましょう」
「ん、結構おいしいわね」
彼女の案内によって訪れた飲食店で食事をする2人。
「桐縹も中々侮れないわ。ねえ」
「はい」
「そっちの野菜炒めもおいしそうね、ひとくちちょうだい」
「どうぞ」
「ありがと。ん、おいしいわ」
「それは良かったです」
2人は口数は少ないながらも和やかな雰囲気のまま食べ進めていった。
「ねえ、気付いちゃったんだけど」
「?」
デザートのアイスクリームを頬張りながら彼女は藜霞に視線を向ける。
「ホテル代の節約方法」
「どんな方法ですか?」
「アナタのお家に滞在する」
ニッコリと笑う藜霞。
「それは良い方法ですね」
彼女も合わせるように微笑み返す。
「でしょ?というわけで本番までお世話になるわ」
「わかりました」
彼女が返事すると、2人の間に沈黙が訪れた。
「ちょっと、ワタシが言うのもなんだけどテンポが早すぎるわ」
表情を戻し、時間差でつっこむ藜霞。
「さくさくでしたね」
「まるで他人事ね、っていうか本当にいいの?ワタシすっかりその気になっちゃったんだけど」
「いいですよ」
彼女の答えは変わらない。
「そう、じゃあ明日からお世話になるわ。今日はホテルに戻るから」
「わかりました」
「ねえ、気付いちゃったんだけど」
一旦会話が途切れた後、声をかける藜霞。
「?」
デザートのアイスクリームを頬張りながら彼女は再び藜霞に視線を向ける。
「アナタ甘党ね」
「気付かれちゃいました」
「見てればわかるわよ」
藜霞は小さく笑った。
ーーー
藜霞と別れ、帰宅して間もない彼女に1本の電話が届く。
「はい」
「俺だ。今大丈夫か?」
電話の相手は黒川。
「大丈夫です」
「次の仕事だ。来週の土曜午後7時、場所は鶸櫨のデュエルハウス六武衆。レートは今のところ不明だが、鈴白の時よりは高くならんだろう」
(土曜午後7時、六武衆…)
「…はい」
彼女は少し考えて返事をする。
「受けるかどうかは来週の、そうだな…水曜までには決めてくれ」
「わかりました」
彼女がそう答えると通話が終了した。
ーーー
翌日の朝。彼女の住むアパートの前。
(ふう、ちょっと暑いかも)
彼女は箒とゴミ袋を持ってアパート周辺を掃除していた。
このアパートの掃除は住人たちが交代で担当する当番制となっており、今回は彼女の当番であった。
「この暑さ、もう夏だねえ」
「ですね」
隣で同じように掃除をする大家の言葉に相槌を打つ彼女。大家は彼女と違ってその立場上、当番という概念は無い。強いて言うならば毎回が当番である。
そして当番は他にもう1人。
「ふああー…」
大きなあくびから眠そうな顔をする、梅里だ。
「こら梅里君!シャキッとしなさい!」
梅里の態度に大家から喝が飛ぶ。
「勘弁して下さいよー…夜勤明けで眠いんすよー」
夜勤明けという梅里の声からは、あまり元気が感じられない。
「集中してやれば10分で終わるわよ。まだ若いんだから頑張りなさいな」
「はーい…」
梅里が渋々といった様子で掃除に取り掛かろうとした時、
「梅里さん」
彼女が声をかけた。
「ん…何?鈴瀬ちゃん」
「お疲れでしたら、お休みしますか?」
心配そうに梅里を窺う彼女。
「あー…いや、大丈夫だよ」
(そんな目で見られたら、男としては休むわけにいかないよなあ…)
梅里は少し苦い笑みを浮かべると箒を持つ手を動かした。
「いっしょに、がんばりましょう」
その様子を見て彼女も微笑む。
「うん!さっさと終わらせて寝るぞー」
(まあ鈴瀬ちゃんと一緒に掃除ってのも、考えようによっては役得かな)
梅里は元気を取り戻したかのようにテキパキと掃除を遂行した。