可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯12「縛る人」

ーーー

 

 

 

一方、同じ頃。

 

(まだ10時か、昼飯までどうすっかな)

 

ジムから出た赤石は時間を潰す方法を考える。

 

ジムに来たのはいいが、赤石の怪我はまだ治っていない。そのため今日は通常のトレーニングではなくインストラクターからの軽いマッサージとストレッチだけであった。

 

その結果、午後の昼食までの2時間以上が丸々空いたことになる。

 

(たまには近くでもぶらついてみるか)

 

 

 

ーーー

 

 

 

「はい、2人共お疲れさん」

 

掃除を終えて一息つく彼女と梅里に、大家は紙パックのお茶を差し入れする。

 

「ありがとうございます」

 

「どうも。じゃあ僕は寝るからね、ふああー…」

 

梅里はあくびをしながら一足先にアパートの階段を上っていく。

 

「お疲れ様です」

 

「うん、鈴瀬ちゃんもお疲れ様ー」

 

階段を上りながら振り向かず返事をすると、梅里は自宅へと戻った。

 

 

 

「あ、そうだ麗梨ちゃん」

 

大家は何かを思い出したかのように彼女を呼ぶ。

 

「はい」

 

「昨日ホームセンターに行ったんだけどバケツ買い忘れちゃってねえ…悪いんだけど、おつかい頼んでもいいかしら?」

 

「いいですよ。急ぎますか?」

 

「急ぎじゃないけれど、なるべく早めがいいわねえ。あ、お金渡しとくね」

 

大家はポケットから取り出した1000円札を彼女に渡す。

 

「わかりました。早めに買いに行きます」

 

「じゃあお願いね。私この後用事があるからまたねえ」

 

「はい、また」

 

大家は彼女に手を振り、アパートから離れて行った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

その後、シャワーで汗を流した彼女は私服に着替え、早速ホームセンターへと向かった。

 

(バケツって青くて丸いのでいいのかな?一般的な大きさって、どのくらいなんだろう)

 

そんなことを考えながらしばらく歩いていると

 

 

 

「あ」

 

途中、彼女は見知った顔を見つける。

 

「赤石先輩」

 

「!…レイリか」

 

突然の彼女の声に赤石は少し驚いてから彼女の方に振り向いた。

 

「トレーニングですか?」

 

いかにもな赤石のジャージ姿に彼女はそう予想する。

 

「ああ。今日は怪我がまだ治ってねえから軽いストレッチだけな」

 

「お怪我、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ。激しい運動ができねえだけで何も問題はねえよ」

 

赤石は彼女に笑いかける。

 

「それなら良かったです」

 

彼女も微笑み返した。

 

「レイリは今からどっか行くのか?」

 

「はい、ホームセンターまでお買いものです。バケツを買いに」

 

「そうか…なあ、俺もついて行っていいか?」

 

一瞬の間の後、赤石は彼女に同行の許可を求める。

 

「いいですよ、いっしょに行きましょう」

 

彼女の承諾。赤石はどこか安心したように頬を緩ませた。

 

あてどなくぶらつくはずだった昼食までの時間が、これより彼女と共に過ごす時間へと変わる。

 

(怪我の功名ってやつかな)

 

赤石はほんの少しだけ怪我も悪いことばかりではないな、と思うのであった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

買い物を済ませた後、2人はホームセンターに隣接する喫茶店で休憩を取っていた。

 

「…」

 

クリームソーダを美味しそうに頬張る彼女を、紅茶を啜りながら眺める赤石。

 

(そういや学校以外でこっちの姿を見るのは初めてだな…)

 

以前、共に鶸櫨に行った時の彼女は変装していたので、赤石にとってはこの組み合わせは初めてである。

 

(外見で判断するわけじゃねえが、やっぱりあの時のパートナーと同一人物とは思えねえよな)

 

思わず苦笑いをする赤石。

 

「?」

 

それに気付いた彼女は首を少し傾げる。

 

「ああいや、何でもねえ。その、服似合ってるって思ってな」

 

赤石は慌てるように口走る。

 

(何言ってんだ俺は…!)

 

心にもないことを言ったわけではない。実際、似合っていると思っていたからこそ出た言葉である。

 

だがそう口に出すつもりではなかったらしく、赤石は何故そう言ったのかと疑問に思った。

 

「ありがとうございます」

 

そのことが頭に引っ掛かっているのか、赤石は彼女のお礼にも「ああ…」と返すことしか出来なかった。

 

 

 

「赤石先輩」

 

少し間を置いて彼女が口を開く。

 

「ん?」

 

「わたし、赤石先輩を縛ってますか?」

 

「あ?何のことだ?」

 

唐突な彼女の質問。赤石には全く心当たりが無い。

 

「いじめをやめさせて、なんて曖昧なのに…さらに対価をつけてしまいました」

 

彼女はどこか申し訳なさそうに話す。

 

「ああ、そのことか」

 

話を聞いて赤石はその内容と彼女の態度を理解する。

 

「縛ってるかどうかって言われると、そうだな…縛ってるな」

 

ハハッ、と冗談っぽく笑う赤石。

 

「ごめんなさい」

 

「何で謝るんだよ。負けた以上約束を果たそうとするのは当然だし、それに対価を要求したのは俺だぞ?」

 

「でも、その約束はこれからもずっと赤石先輩を縛り続けると思います…」

 

いじめ、というものが持つ性質やその定義から果たすことはほぼ不可能と言っていい、そんな彼女との約束。

 

「俺はそれでもいいけどな」

 

しかし赤石は別に構わないといった様子で答える。

 

「確かに無くすのは無理でも、減らすという意味じゃあそんなに難しくねえよ。これからも約束を果たし続けるだけさ」

 

「まあレイリがそれを0にするという意味で言ったんじゃその約束は無理なものになっちまうけど」

 

「…そう捉えらえてるかもしれないとは、思ってました」

 

そう思っていながらも、彼女は赤石に何も言わなかった。

 

「そのつもりで言ってたとして、もし問い詰められたとしてもだ。明言しなかったことを持ち出し反故にしてたぞ俺は」

 

赤石はいたずらっぽく歯を見せる。

 

「…」

 

「対価にしても同じだ。それでも縛ってる、って思うか?」

 

「…はい。赤石先輩が良くても、わたしがだめって思ってしまいます…わたしって、勝手です」

 

俯く彼女。言わなかった理由、それは…

 

 

 

第三の選択肢を選んで欲しかったから、かもしれない。

 

「じゃあその約束は破棄だ」

 

彼女の様子を見て赤石は宣言した。

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