可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯13「近付く人」

「!…」

 

思わず俯いた顔を上げる彼女。その言葉はある意味赤石よりも待ち望んでいたであろう彼女だが、

 

「それでどうだ?」

 

「…赤石先輩が自由になれるのなら、わたしも喜んで」

 

どこか歯切れが悪い。

 

「あ?どうかしたか?」

 

「あの、約束が無くなっても…今まで通りの赤石先輩で、いてくれますか?」

 

彼女は怯えていた。約束というひとつの繋がりが切れることで、何かが変わってしまうことに。

 

「当たり前だろ。これからも今まで通りだよ。例え約束が無くなってもいじめを止めることはあるだろうが、それは縛られてるからじゃなくて俺がそうしたいからそうする、ってだけだ」

 

「なんつうか、俺も人のこと言えねえけどよ、約束を深く考えすぎなんだよレイリは」

 

「そう、ですね…」

 

赤石は言葉を交わすうちに気付いていた。自分以上に、その約束に他でもない彼女自身が縛られていたことに。

 

「とにかくこの瞬間をもって、約束は無効。それでいいか?」

 

赤石の二度目の確認に、

 

「はい…!」

 

彼女ははっきりと返事をした。

 

 

 

「あの、赤石先輩」

 

彼女はひとつ呼吸をして、先程の話から続けるように口を開く。

 

「ん?」

 

「わたし、赤石先輩に謝らないといけません」

 

「何だ?さっきのとは別件か?」

 

「はい、鶸櫨に一緒に行った時のことです」

 

それを聞いて赤石はその日のことを大まかに思い出す。

 

(なんかあったか?謝られるようなこと)

 

「別に謝ることなんか何もねえと思うが…」

 

「いえ…わたし、大胆になってました。寄り掛かったり、手を繋いだり…」

 

「!…ああ」

 

顔をほんのり赤くする赤石。視線も反射的に一瞬彼女から外した。

 

「パートナーとの信頼関係が大事とはいえ、赤石先輩に近付きすぎました。ごめんなさい」

 

(…なるほど。妙に積極的だなとは思ってたが、要はタッグデュエルのためだったってことか)

 

彼女が今話した行為の理由。その判明に赤石は納得すると同時に内心残念な気持ちを抱いた。

 

心のどこかで期待でもしていたのだろうか、と自問する赤石。どちらにせよ、謝られたという事実に赤石はあまり良い気はしなかった。

 

「謝らなくていいって。嫌じゃなかった、ってかむしろ嬉しかったし…」

 

赤石は若干照れながら自分の気持ちを伝える。心の中で彼女の謝罪を打ち消すように。

 

「えっ…?」

 

嬉しかった、という言葉を聞いて少し驚いた表情を浮かべる彼女。

 

「俺のことを知ろうとしてくれたわけだろ?その上俺を信じて頼ってくれたりとか…」

 

赤石は一瞬言葉に詰まるが、

 

「パートナーとしてこんなに嬉しいことはねえよ。だからこそ俺もレイリで良かったって思えたんだ」

 

照れ気味にそう言い放つと、首を横に向けた。

 

「赤石先輩…」

 

赤石は照れた顔を見られたくないのか、横を向いた状態を維持する。

 

「…」

 

そんな赤石に同調するように、彼女の顔も仄かではあるが赤みを帯びていく。

 

(自分で言っておきながら何恥ずかしがってんだよ俺は…!レイリもどう反応していいか困ってるじゃねえか…!落ち着け、とりあえず前向け)

 

赤石は自分に言い聞かせ首を前に戻した。

 

その様子を確認した彼女が口を開く。

 

「…でしたら、赤石先輩」

 

「…ん?」

 

 

 

「もっと近付いても、いいんですか…?」

 

「なっ…!」

 

再び赤石の顔が赤く染まっていく。いや、赤石だけではない。

 

「…」

 

言葉を放った本人も赤石を直視できないようだった。

 

とはいえ彼女のことなので、それが照れなのかどうか表情からは判別が付かないが。

 

「それって…!」

 

「…」

 

彼女は視線を逸らしたまま答えない。

 

赤石は自分のドキドキという鼓動の音が早くなるのを感じていた。

 

ある種の緊張状態の中、どちらも微動だにせず1秒、2秒と時が経っていく。

 

「…お」

 

さすがに耐え切れなくなったのか、赤石が何か言おうとしたその瞬間、

 

「!」

 

携帯電話の鳴動音が、この空気をつんざいた。

 

「うおっ…!」

 

発信源であるジャージのポケットから赤石は携帯電話を取り出す。

 

「悪い、ちょっと出てくる」

 

「はい」

 

赤石は席を立った。

 

 

 

 

 

数分後、通話を終えた赤石が席に戻る。

 

「おかえりなさい」

 

「ああ、ただいま。桜からの電話でな、外食してくるみたいで昼飯俺の分だけ作り置きしてるから、勝手に温めて食べろってさ」

 

「いい妹さんですね」

 

「ああ。本当によく出来た妹だよ。俺にはもったいねえくらいだ」

 

赤石は誇らしげに答えた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

日曜のお昼時。

 

いつもなら兄貴と家で昼飯を食べる時間。だけど、今あたしは電車に乗っている。

 

「一緒にお昼ご飯食べよー」とアイコからの誘いを受け、一緒にその店へと向かい始めて30分。

 

ちょっと遠いとは聞いていたが、まさか電車に乗るとは思わなかった。

 

アイコの話によると、おいしいパンケーキが食べられるらしい。

 

どうやら先週鈴瀬と行ってきたようで味の方は期待していい、とのこと。

 

あたしとしては味はもちろんのこと、パンケーキもたまに作るので何か参考になるかも、とそっちの意味でも期待している。

 

そういうわけで、待ち遠しい気分だったりする。表に出すのは恥ずかしいからそんな素振りは見せないけど。

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