「!…」
思わず俯いた顔を上げる彼女。その言葉はある意味赤石よりも待ち望んでいたであろう彼女だが、
「それでどうだ?」
「…赤石先輩が自由になれるのなら、わたしも喜んで」
どこか歯切れが悪い。
「あ?どうかしたか?」
「あの、約束が無くなっても…今まで通りの赤石先輩で、いてくれますか?」
彼女は怯えていた。約束というひとつの繋がりが切れることで、何かが変わってしまうことに。
「当たり前だろ。これからも今まで通りだよ。例え約束が無くなってもいじめを止めることはあるだろうが、それは縛られてるからじゃなくて俺がそうしたいからそうする、ってだけだ」
「なんつうか、俺も人のこと言えねえけどよ、約束を深く考えすぎなんだよレイリは」
「そう、ですね…」
赤石は言葉を交わすうちに気付いていた。自分以上に、その約束に他でもない彼女自身が縛られていたことに。
「とにかくこの瞬間をもって、約束は無効。それでいいか?」
赤石の二度目の確認に、
「はい…!」
彼女ははっきりと返事をした。
「あの、赤石先輩」
彼女はひとつ呼吸をして、先程の話から続けるように口を開く。
「ん?」
「わたし、赤石先輩に謝らないといけません」
「何だ?さっきのとは別件か?」
「はい、鶸櫨に一緒に行った時のことです」
それを聞いて赤石はその日のことを大まかに思い出す。
(なんかあったか?謝られるようなこと)
「別に謝ることなんか何もねえと思うが…」
「いえ…わたし、大胆になってました。寄り掛かったり、手を繋いだり…」
「!…ああ」
顔をほんのり赤くする赤石。視線も反射的に一瞬彼女から外した。
「パートナーとの信頼関係が大事とはいえ、赤石先輩に近付きすぎました。ごめんなさい」
(…なるほど。妙に積極的だなとは思ってたが、要はタッグデュエルのためだったってことか)
彼女が今話した行為の理由。その判明に赤石は納得すると同時に内心残念な気持ちを抱いた。
心のどこかで期待でもしていたのだろうか、と自問する赤石。どちらにせよ、謝られたという事実に赤石はあまり良い気はしなかった。
「謝らなくていいって。嫌じゃなかった、ってかむしろ嬉しかったし…」
赤石は若干照れながら自分の気持ちを伝える。心の中で彼女の謝罪を打ち消すように。
「えっ…?」
嬉しかった、という言葉を聞いて少し驚いた表情を浮かべる彼女。
「俺のことを知ろうとしてくれたわけだろ?その上俺を信じて頼ってくれたりとか…」
赤石は一瞬言葉に詰まるが、
「パートナーとしてこんなに嬉しいことはねえよ。だからこそ俺もレイリで良かったって思えたんだ」
照れ気味にそう言い放つと、首を横に向けた。
「赤石先輩…」
赤石は照れた顔を見られたくないのか、横を向いた状態を維持する。
「…」
そんな赤石に同調するように、彼女の顔も仄かではあるが赤みを帯びていく。
(自分で言っておきながら何恥ずかしがってんだよ俺は…!レイリもどう反応していいか困ってるじゃねえか…!落ち着け、とりあえず前向け)
赤石は自分に言い聞かせ首を前に戻した。
その様子を確認した彼女が口を開く。
「…でしたら、赤石先輩」
「…ん?」
「もっと近付いても、いいんですか…?」
「なっ…!」
再び赤石の顔が赤く染まっていく。いや、赤石だけではない。
「…」
言葉を放った本人も赤石を直視できないようだった。
とはいえ彼女のことなので、それが照れなのかどうか表情からは判別が付かないが。
「それって…!」
「…」
彼女は視線を逸らしたまま答えない。
赤石は自分のドキドキという鼓動の音が早くなるのを感じていた。
ある種の緊張状態の中、どちらも微動だにせず1秒、2秒と時が経っていく。
「…お」
さすがに耐え切れなくなったのか、赤石が何か言おうとしたその瞬間、
「!」
携帯電話の鳴動音が、この空気をつんざいた。
「うおっ…!」
発信源であるジャージのポケットから赤石は携帯電話を取り出す。
「悪い、ちょっと出てくる」
「はい」
赤石は席を立った。
数分後、通話を終えた赤石が席に戻る。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま。桜からの電話でな、外食してくるみたいで昼飯俺の分だけ作り置きしてるから、勝手に温めて食べろってさ」
「いい妹さんですね」
「ああ。本当によく出来た妹だよ。俺にはもったいねえくらいだ」
赤石は誇らしげに答えた。
ーーー
日曜のお昼時。
いつもなら兄貴と家で昼飯を食べる時間。だけど、今あたしは電車に乗っている。
「一緒にお昼ご飯食べよー」とアイコからの誘いを受け、一緒にその店へと向かい始めて30分。
ちょっと遠いとは聞いていたが、まさか電車に乗るとは思わなかった。
アイコの話によると、おいしいパンケーキが食べられるらしい。
どうやら先週鈴瀬と行ってきたようで味の方は期待していい、とのこと。
あたしとしては味はもちろんのこと、パンケーキもたまに作るので何か参考になるかも、とそっちの意味でも期待している。
そういうわけで、待ち遠しい気分だったりする。表に出すのは恥ずかしいからそんな素振りは見せないけど。