電車から降りてしばらく歩くと、
「このお店だよー」
到着を知らせるアイコの声。
「ここか」
「うん!桜ちゃん」
「ん?」
「ちょっとびっくりするかも?たぶんだけど」
「何のことだ?」
あたしがきき返すとアイコは「何でもないよー」とちょっと笑いながらごまかす。
よくわからん。料理にか?内装にか?それとも値段とか?
そんなことを思っているとアイコが入口のドアを開けた。
「いらっしゃいませー」
入店したあたしらの方へと1人の店員が近付いてくる。
「2名様ですか?こちらの席へ…あ?」
そのまま席に案内してくれるのかと思いきや、店員はあたしらの顔を見るとなんか怪しむような顔をした。
何だ?おかしな店員だな、と思う前に
「あ?」
その怪しむ顔を見て反射的にあたしも同じような声が出た。
…まさかこんなところで会うなんて思わねーだろ。
「椎名…!?」
「何だよ」
「お前、ここでバイトしてんのか?」
「見りゃわかるだろ」
「わあ、先週と同じ流れー」
あたしの驚きをよそに楽しそうなアイコ。ちょっとびっくりするかも、ってこのことか。ちょっとどころか結構びっくりしたわ。
ってか愛想のカケラもねーな。といっても笑顔で明るく接客されてもそれはそれで困るから別にいいんだけど。
「椎名がバイトしてんなら言っといてくれよ…無駄にびっくりしちまったじゃねーか」
「えへへ、ごめんね。やっぱり日曜は毎週ここで働いてるんですか?椎名さん」
まあ椎名が働いてる時間と被るとは限らねーか。
「さあな。それより突っ立ってたら邪魔だ。席案内するから」
案内すると言いながら椎名は先にスタスタと歩く。せめてゆっくり歩け。
ーーー
「ふう…」
昼食を食べ終えて、改めて考える。
頭に浮かんで消えない、あの言葉について。
『もっと近付いても、いいんですか…?』
どう解釈したらいいんだろうか。
何か考えがあってのことなんだろうが…鶸櫨の時と同様の理由か?
いや、あの時と違って俺はパートナーでも何でもねえ。
ってことは単純に俺と近付きたくて言ったのか?いやいやいや流石にそれは…違うはず。
「あー…」
頭を掻く。わからん。考えたって仕方ねえのかもな…
何せ他でもないレイリのことだ。経験則なんか全くあてになんねえしな。
つーか何でこんなモヤモヤしてんだ俺は。やっぱりレイリのことが…
「…」
どうだろうな…わかんねえ。ああもうわかんねえことばっかだな…!
…頭冷やしてくるか。
ーーー
「わあ…!ここが桜ちゃんのお部屋…!」
「なんか飲み物取ってくる」
午後2時、桜は藍子を連れて家へと戻っていた。
パンケーキを食べた後、デュエルがしたいという藍子に桜はカードショップではなく自分の家を提案した。
自分の家なら落ち着いてデュエルをしたりデュエルについて教われる、という理由を伝えると藍子も「ぜひお邪魔したい」と乗り気で承諾。
カードを取りに藍子が一旦家に戻って合流した後、今に至る。
「麦茶だけどいいか?」
「いいよー!ありがと」
藍子は手渡された麦茶で喉を潤す。
「桜ちゃんのお部屋、片付いてて綺麗だね!」
「そうか?」
「うん!私の部屋なんか散らかりまくりでそれはもう…」
自嘲気味に語る藍子。
桜の部屋は元々物がそれほど多くないというのもあるが、本や小物等がきちんと並べられており全体的に綺麗に整頓されていた。
「まあ散らかるほど物ねーからな」
「桜ちゃんのことだから枕元にぬいぐるみとかいっぱい転がってると思ったのになー」
「なっ!んなわけねーだろ!」
桜は少し大きな声で否定する。
「あやしいなー、ひょっとして隠してるとか?」
「隠してねーよ!…昔は持ってたけどさ」
恥ずかしさからか、後半声が尻すぼみになる桜。
「そっかそっかー」
「ってかそれよりデュエルだろデュエル!ほら、アイコもカード出して」
話題を変えるかのように桜はデッキを取り出す。
「ふふっ、そうだね」
藍子も同じくデッキを取り出した。
ーーー
「あ、そういえば桜ちゃん」
「ん?」
デュエル中、藍子は思い出したように話しかける。
「修せんぱいはお出かけ?」
「さあな。友達と遊びにでも行ってるんじゃねーか?」
「そっかー…」
少し残念そうな顔をする藍子。
「何だ?あたしじゃ物足りねーってか?」
それを見て桜が冗談めかして問う。
「あ、違うの!桜ちゃんとのデュエルは楽しいよ?でも修せんぱいともデュエルしてみたいなーって…」
藍子の弁解に桜はクスッと笑った。
「わかってるよ。さあ、まだアイコのターンだろ?」
「むー…」
余裕そうな笑みを浮かべる桜に藍子は少し悔しそうな顔を返してデュエルを再開した。