可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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11話 ♯15「頼れる人」

ーーー

 

 

 

同時刻、赤石は図書館で本を読んでいた。

 

家を出た当初はランニングでもしようかと思っていたが、自身の体の状態を考慮してそれは控えることにした。

 

行き先を図書館に選んだ理由は特に無い。しばらくぶらついていたら偶々そこが目に入った、あるとすればそれくらいである。

 

結果的に静かに涼めて本を読める、という頭を冷やすには最適な場所だったため、赤石の頭のモヤモヤはすっかり晴れていた。

 

(たまには図書館も良いな。思ったより落ち着ける)

 

赤石は読んでいた本を閉じる。

 

(この本も読み終えたし、そろそろ帰るか)

 

本を戻そうと本棚へと向かう途中、

 

 

 

「赤石さん…?」

 

控えめな声が後方から届けられた。

 

赤石は声のした方へと振り返る。

 

「ああ、確かお前は…小松、だったか」

 

「はい。会うのはこれで3度目ですね」

 

声の主は綾芽だった。図書館ということでその声は小さめに抑えられている。

 

「そうだな」

 

「えっと…何か調べ物ですか?」

 

「いや、近くに来たから寄っただけでもう帰るところだ」

 

「そうですか…」

 

(やっぱり赤石さん、ちょっと怖いかも…)

 

綾芽にとっては赤石と初めての面と向かっての会話ということもあり、その鋭い目付きに内心萎縮する。

 

(いえ、見た目で判断してはいけませんよね…あ、そういえば)

 

しかしすぐに偏見を取っ払うと同時に、綾芽はふと思い出す。

 

(せっかくの機会ですし赤石さんにあのこととか、他にも色々きいてみようかな…?)

 

「あの、私も丁度帰ろうと思ってたのですが、良かったら途中まで一緒に帰りませんか?」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「へえ、図書館で勉強してたのか。真面目なんだな」

 

「いえ、そんなことは…こちらの方が落ち着いて勉強できるってだけで…」

 

「そうか。確かに勉強するには良い環境かもな」

 

「そうですね」

 

図書館からの帰り道。

 

「あの、赤石さん」

 

綾芽はタイミングを見計らって以前より気になっていたことを質問する。

 

「ん?」

 

「ひとつお伺いしたいのですが…」

 

「何だ?改まって」

 

「栃浦先生と以前、何かありました…?」

 

その質問が飛んだ瞬間、赤石の口元が微かにピクっと動いた。

 

「いきなりだな…」

 

「いえ、その…赤石さんに対して敵意を持っているように思いましたので、もしかしたら、と…」

 

きいちゃいけないことだったかな…と、綾芽は少々焦るものの、

 

「そうだな、まあちょっと喧嘩したくらいだ」

 

赤石は平然とした声で答えた。

 

「喧嘩、ですか…?」

 

「ああ。ってか何でそんなこと知りてえんだ?」

 

「実は…」

 

軽く息を整えて、綾芽はその質問に至った経緯を話していく。

 

赤石らが去った後の準備室でのやりとりや、琥珀からの忠告はもちろんのこと、赤石とは直接関係は無いが栃浦に対しての生徒会への苦情、そして自身も栃浦に触れられそうになったことを。

 

 

 

「なるほど、そんなことがあったのか」

 

「はい…」

 

話の顛末を聞き終えた赤石の表情が厳しくなる。

 

(橡が心配するのもわかるな。こういう大人しそうな子は狙われやすい…まあ、あいつの本命はレイリだと思うが)

 

赤石は少し考えてから口を開いた。

 

「…ここまで話してもらって悪いが、俺と栃浦は喧嘩したことがあるってだけで別に大して話したこともねえんだ。まあ、栃浦が俺を嫌っているのはわかってたが」

 

「い、いえ…何かあったのかなって質問したのは私ですから」

 

「そうだな、俺から言えることがあるとすれば…」

 

綾芽は赤石の顔を見上げながら次の言葉を待つ。

 

「橡も言ってたと思うが毅然とした態度で拒否しろ。それが出来なきゃなるべく近付かないことだ」

 

「はい、気を付けます」

 

綾芽はしっかりと返事をする。が、赤石はどうも手応えの無さを感じていた。

 

(…やっぱりなんか心配だな。何かあってからじゃ遅えし、ここは)

 

「ただ、それでも自分じゃ対処出来ねえとかしつこく接触してくるって時がこれから先あるかもしれねえ。そん時は」

 

「時は…?」

 

綾芽の疑問に、

 

「遠慮せず俺に言え。何か起こる前にお前を守る」

 

赤石は真剣な眼差しで答えた。

 

「!…そ、そんな、赤石さんに迷惑じゃ…」

 

お前を守る、その言葉に綾芽は一瞬ドキっとすると同時に、『わたしが守る』という彼女の言葉を思い出す。

 

「迷惑じゃねえよ。実際に危ない目にあいかけたって奴をそのまま放っとけねえだけだ」

 

「赤石さん…」

 

(麗梨さんと一緒…私なんかを守るって言ってくれて…)

 

綾芽は赤石の顔を見上げる。

 

「俺の助けなんか必要ねえってんなら別にそれでもいいが」

 

(やっぱり見た目なんて関係ありませんよね)

 

図書館では怖く感じたその鋭い目付き、しかし今その目から綾芽は頼りがいと優しさを感じ取った。

 

「…いえ。何かありましたら、その時は頼らせていただきます」

 

綾芽は少々恥ずかしそうに赤石に向かって微笑んだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ただいま」

 

図書館から帰宅して赤石が靴を脱ごうとした時、

 

(あ?)

 

玄関に見慣れない靴が一足増えていることに気付く。

 

(誰か来てんのか?)

 

そう思っているうちに桜が階段を下りて現れた。

 

「おかえり。今アイコいるんだけどさ、あたしの部屋に来てくれない?カード持って」

 

「あ?ああ。ちょっと待ってろ、着替えてから行く」

 

桜は「うん」と頷くと階段を上がって行った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「あ、修せんぱい!お邪魔してます!」

 

赤石が桜の部屋に姿を現すと、藍子から元気な声が飛んだ。

 

「おう。デュエル中だったか」

 

テーブルを挟んで対峙している桜と藍子。テーブルに置かれたカードの並びから今まさにデュエル中のようであった。

 

「はい!あの、修せんぱい」

 

「ん?」

 

「次、私とデュエルしていただけますか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「ありがとうございます!…じゃあ桜ちゃん、このターンで決めるよ」

 

藍子は途中だったデュエルに意識を向ける。

 

「《死者蘇生》を発動して墓地から《ブラック・ローズ・ドラゴン》を特殊召喚」

 

「お?」

 

「墓地の《グローアップ・バルブ》を除外して《ブラック・ローズ・ドラゴン》の効果発動、桜ちゃんのセットモンスターを攻撃表示にして攻撃力を0にするよ」

 

「うっ…!」

 

「バトルフェイズ、《ブラック・ローズ・ドラゴン》で攻撃力0の《ファーニマル・シープ》に攻撃」

 

「ああ、また負けたかー…」

 

桜はデュエルに使用したカードをまとめて手に持ちテーブルから外れる。

 

「じゃあ兄貴、交代」

 

「ああ」

 

桜が外れたことによって開いたその場に赤石が座る。

 

「修せんぱい、よろしくお願いします!」

 

「こちらこそよろしくな」

 

赤石と藍子によるデュエルが始まった。


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