可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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2話 ♯8「狙い通りに」

「黒川、悪いんやけど立て替えとってもらえんか?近いうちに振り込んどくからさ」

 

「構いませんよ。ではこちらにご記入を」

 

黒川はビジネスバッグから封筒を取り出し、その中にある借用書を村田の前に置く。

 

次にスーツの内ポケットから札束を取り出し彼女の前に置く。

 

(!…また、札束…)

 

そしてさらに財布から1万円取り出し彼女の前に置く。

 

「ほら受け取れ、351万だ」

 

「…いいの?」

 

「いいも何も、お前は勝ったんだ。受け取れ」

 

彼女はまだいまいち実感が湧いていない様子だ。

 

半ば固まってる彼女をよそに、記入し終わった村田が席を立つ。

 

「社長、どこへ行かれるんです?」

 

「会社に戻るわ。やり残したことがあってな」

 

黒川の問いに村田は淡々と答える。

 

 

 

「おい、鈴瀬」

 

村田は店の扉に手をかけ出ようとする寸前、彼女に背を向けたまま名を呼ぶ。

 

「何でしょうか?」

 

「ワイを負かせたこと忘れんからな。…またデュエルしてくれや」

 

村田はそう言い残し去って行った。

 

 

 

村田が去った後、彼女の周りに観戦していた客がぞろぞろと歩み寄る。

 

「すごいねえ。本当すごい」

「おじさん君に惚れたよ」

「この子前もすごかったで」

「せがれの嫁になってもらえんか?」

「おめえのせがれにはもったいねえ」

 

客同士が彼女の周りで盛り上がる。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「はいはい、デュエルは終わりましたよ。離れて下さい」

 

店員が客に対し、彼女から離れるように促す。

 

「えー固いこと言うなよー」

 

「駄目です。ここはそういう店じゃありません」

 

「君も片づけて帰りなさい。そこのスーツの人と一緒に」

 

店員は黒川に目を向ける。

 

「だとさ、どうする?」

 

黒川は彼女に問う。

 

「…はい、帰ります。そこのスーツの人と一緒に」

 

黒川は思わずフッと苦笑いを浮かべた。

 

「でも少し時間ください」

 

彼女は荷物をまとめ席を立つと青葉のいるカウンターへと向かった。

 

 

 

「あの、青葉さん。審判ありがとうございました。それと…」

 

「何ですかな?」

 

「これ、前に支払い忘れてたスリーブ代です」

 

彼女は青葉に1万円札を差し出す。

 

「ふむ、そんなこともありましたな」

 

しかし青葉は受け取ろうとしない。

 

「あの…」

 

「財布にお仕舞いなさい、お嬢さん。既に貴女から代金は頂いております」

 

「えっ…?どういうこと?」

 

彼女は記憶を掘り返すが、それらしきことをした覚えは無い。

 

「簡単なことだ、青葉さんも一人の客としてデュエルを見てたってことさ。特等席でな」

 

「…」

 

彼女は数秒考え黒川の言葉を理解する。

 

(青葉さん…)

 

口に出すのは違うような気がしたので

 

(ありがとうございます)

 

心の中でお礼を述べた。

 

「じゃあ青葉さん、また来るぜ」

 

「ふむ、お気を付けて」

 

黒川は店を出る。

 

彼女も黒川と一緒に店を出ようとするが、入口付近で立ち止まって振り返る。

 

 

 

(青葉さん、いつかきちんとお礼します)

 

そして青葉に向かって一礼をしてから店を出た。

 

 

 

先週と同じく彼女は黒川の後ろをついて行くように歩く。

 

「前と同じ所でいいか?」

 

「あ、うん…」

 

彼女は考え事をしながら気の抜けたような返事をする。もちろん考え事とは黒川のことだ。彼女には色々問いたいことがあった。

 

「話は店に着いてから聞こう。俺もお前に話したいことがあるんでな」

 

黒川も彼女に話があるようだ。

 

 

 

<<駅前のファミレス>>

 

 

 

「お待たせしました。コーヒーとミートソーススパゲティセットです。ごゆっくりどうぞ」

 

「おう、ありがとう」

 

「…いただきます」

 

注文した品が運ばれ彼女は食事にありついた。

 

 

 

「…ねえ、いつもそんな大金持ち歩いてるの?」

 

彼女が思い出したように質問する。

 

「いつもってわけじゃねえ。必要な分だけ持ち歩いてるだけだ」

 

(必要な分…)

 

彼女はこの言葉を聞いて自らの考えを黒川に話し始めた。

 

「…黒川さんの思惑通り、物事が進んだってことですか?」

 

「ほう、何故そう思うんだ?」

 

「彼に提示されたレートは低かった。黒川さんもそういうレートを彼が提示するのを知ってたはず。しかし黒川さんは少し上かもと言った」

 

「わたしが札束を見せると彼の態度が変わって100倍なら受けてもいいと言った。そうなることも黒川さんは知っていた」

 

「彼にわたしの情報を与えて、彼の道楽の相手としてわたしを向かわせた」

 

「でもわたしの所持金とか一部の情報は彼に与えなかった。彼がレートを上げるように、わたしが勝負を受けるように」

 

「黒川さんはこのような結果になることを望んでいた。…どう?」

 

 

 

「悪くない推理だな。だがお前が勝つことを望んでた証拠が無いぞ?」

 

黒川は彼女を試すように問う。

 

「それは2戦目終了時、黒川さんは彼にわたしの所持金を教えたよね」

 

「あの時わたしは、わたしを動揺させ彼を優位にさせるために教えたのかと思った」

 

「でもそれは違った。教えた理由は彼を油断させるため。証拠にはなってないかもしれないけど…」

 

「まあな。それじゃあ憶測の域を出ない」

 

「だがお前が言った通りだ。俺はお前が勝つことを望んでいた」

 

「あの社長は最近天狗になってたからな。ちょっとばかりお灸をすえる必要があった」

 

黒川曰く、村田は黒川に若い女を紹介して欲しいと頼まれ、都合がつく女がいればその地域の特定のデュエルハウスへと村田を向かわせた。

村田はその対戦相手の女に対しレートを設け、着用していた衣服を要求し、相手が拒否すれば地位や金銭をちらつかせつつ、黒川の名を出しては勝負の席につかせた。

言うまでもないが黒川は村田や勝負のことを教え、相手となる女の同意を得て村田に紹介している。

 

「実は一度、社長との高レート勝負をした女がいてな」

 

2ヵ月前、今日と同じような流れで勝負をした女がいた。黒川はその時に多額の現金を見せれば村田は高レートの勝負を受けることを知る。

 

結果は村田の200万勝ち。黒川もこの件についてはあまり語らず

 

「まあ、今も無事に生きているとだけ言っておく」

 

そう言い口を閉じた。

 

「わたしに彼のことや勝負のことを教えなかったのはどうして?」

 

「その方が自然な形で高レート勝負になると思ったからさ。それにお前が知らなかったことで少しではあるが気が緩んだはずだ」

 

「…なるほど」

 

「社長は容姿端麗な若い女としかデュエルをしないからな」

 

黒川は呆れたように言う。

 

「俺の知る限りじゃ勝てるのはお前しかいなかった」

 

勝負できる条件を満たしてる人はそれなりに居るが、その中で村田に勝てる見込みがある人はかなり少ない。何故なら…

 

 

 

「…小型カメラ?」

 

「ああ。デュエルを見る限り気付いていたようだが」

 

村田はあらかじめ設置した小型カメラを通して彼女の手札を覗いていた。出力先はテーブルの下の彼女からは見えない死角。

村田はこのイカサマを使ったデュエルでは1度も負けたことが無かった。故に少なからず慢心もあった。結果的にはそれも初の敗北に繋がったと言える。

 

「…何らかの方法で覗かれてるとは思ってた。迷い無く攻撃してくるっていうことは、たぶんそういうことなんじゃないかって」

 

「俺は3戦目しか見てないからわからんが、前と同じような流れで気付いたってことか」

 

「うん」

 

黒川はコーヒーを啜り一息つく。

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