「しかし、よくあんなことしたな。思ってても普通は出来ねえよ」
「わたしもそう思う…どうしてできたんだろう」
彼女はトイレの中で3戦目の戦略を考えていた、手札を覗かれてるという前提で。
3戦目、彼女は『手札の左端のカードを左端から2枚目のカードでほとんど覆い隠すような形』を維持し続けた。後々これが効いてくると信じながら。
「端のカードは私も見なかったからわからなかった。わかるのはモンスターってことだけ」
「間違っても彼に見られるわけにはいかなかった」
左端のカードがモンスター、さらに左端のカードを隠すカードがサイバー・ドラゴンというのも彼女にとっては良かった。
前者はカードの種類が多く、後者はモンスターゾーンを若干ではあるが操作できるためだ。
実質2枚分のディスアドバンテージを背負いながらも彼女はターンを凌いでいった。
そして、彼女の戦略が功を奏する。
残りデッキ3枚で迎えた彼女のターン、彼女は行動に出た。
「お前がした『イカサマ』、中継見てた奴は大体気付いてたな。社長が何の反応も示さないことに首を傾げてた奴もいたぜ」
黒川は笑みを浮かべる。村田が何の反応も示さないのは当然だ。
村田は気付いてなかった。彼女が気付かせなかった。
このターン、彼女はカードをセットした直後、『デッキ』と『魔法罠ゾーンにセットしたそのカード』を入れ替えた。
それと同時に、手札の端のカードをゆっくり広げて見せながら。
彼女は左手で村田の視線を釘付けにさせてる間、右手で勝利への布石を打った。
「フィールドを見られてたら終わりだった。気付かれなくて本当に良かった…」
彼女は思い出しながら安堵の表情を見せる。
「入れ替えはずっと狙ってたのか?」
「狙ってたわけじゃなかった。ただ条件が揃えばしようかな、って」
「条件?」
「ターン開始時に、デッキの残りが2枚か3枚、その内の1枚が鎖付きブーメラン、そしてそれ以外のカードが魔法カード、この3つが揃った場合。あと、相手の状況も」
「ああ、そりゃ厳しいな」
しかし運が彼女に味方したのか、その厳しい条件は満たされ、彼女は実行に移した。
(ん?待てよ?)
黒川がふとあることに気付く。
「あの時デッキは3枚だったはずだ。入れ替えたのなら伏せた所のカードが2枚にならねえか?」
「うん、だから『ドローする時2枚』引いた」
「!…ほう、涼しい顔して大胆なことしやがる。それでそのまま重ねた2枚を伏せて入れ替えたってことか」
黒川は一瞬驚いた後感心しながら答える。
「2枚目が鎖付きブーメランじゃなくて良かったな」
「うん」
「だがデッキの一番下が鎖付きブーメランとは限らねえんじゃねえか?」
「2枚ドローする時、1枚目もほんの少しずらして見た」
「へっ、ちゃっかりしてんな」
2枚目が手札抹殺というのは彼女にとっては幸運だった。次に引くカードは言うまでもないだろう。
終わってみれば綱渡り、薄い確率の綱を渡りきっての勝ち。虚を突けたのも偶然に近い。
(先週といい今日といい危な過ぎる。少しでも運が悪けりゃあっさり負けてた、そうなりゃ不意打ちも糞もねえ)
(頭脳と精神力は確かに並外れている。高校生の娘ってところも考慮すればこれ以上の素材は無いってくらいだ)
(だが裏世界の老獪な猛者共とやり合うにはまだまだ足りねえ。まあ、15歳のガキに奴等と同じレベルを求めるのは酷か)
(経験を積めばいずれ実力差も埋まるだろうが、それよりまだ発展途上なこの才能の塊、簡単に潰すわけにはいかねえ。が、放って置くのももったいねえ)
「なあ鈴瀬、俺と組まねえか?」
黒川は彼女に提案する。
「組むと言っても大したことはしねえ。俺は今回のようにお前に斡旋する。お前はそこに行ってデュエルするだけでいい」
「…」
彼女は黙って聞いている。
「しばらくは負けても比較的問題無い相手を紹介するつもりさ。もちろん詳細も話す。時間が無かったり気に入らなければその段階で拒否してくれればいい」
「深く考えず割のいいバイトだと思ってくれ。金が増えるか減るかはお前次第だがな」
「…」
彼女は考える。
(黒川さんの言葉がどこまで本当かわからないけど…)
しかし既に答えは出ているのだ。今日の昼に、屋上で彼女が取った行動がそれである。
「…はい、選択権がわたしにあるというのなら」
「そうか、まあこっちでも厳選はするが無理だったら遠慮なく言ってくれ」
「うん…」
かくして、ここに1つのペアが誕生した。
繋がりは薄いが、これも1つのタッグの形であろう。
「あの、黒川さん」
「ん?どうした?質問があれば何でも言ってくれ」
(警戒してるのか?まあ過程がこれだから無理もねえが…)
「…プリンも食べたい」
「あ?…ああ、遠慮せず頼めよ」
張り詰めた空気が心なしか緩む。警戒しているのではなく、食後のデザートのことを考えていたようだ。
黒川はプリンを美味しそうに頬張る彼女を見つめる。
(こうして見ると普通の高校生のガキだな。…こいつも年相応にお洒落だの恋愛だの興味あるんだろうか)
黒川はほんの少しの罪悪感と後ろめたさのようなものを覚える。
「…?」
彼女は自分を見つめる黒川の視線に疑問を抱く。
「ああ、何でもねえ。気にせず食ってくれ」
(まあ、俺が考えることじゃねえわな)
その後、食事を終えた二人は店を出た。
<<駅の改札>>
「組むと言った矢先にあれだが、しばらく相手は見つからんと思う。勝負勘が鈍らない程度にはデュエルしといてくれ」
「わかった。おごってくれて、ありがとう」
「礼には及ばねえ。気を付けて帰れよ」
彼女は改札をくぐり、電車に乗った。
(可憐なる博徒よ)
(どこまで行けるか見届けさせてもらうぜ)
黒川は夜の街へと消えて行った。
異彩を放つ1つのカードを手にして。
【第2話 終】