可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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1話 ♯2「暗い海へと」

「いらっしゃ…ん?」

 

店員は入店した少女を見ると怪訝そうな顔で近付く。

 

「道に迷ったんだね?」

 

「はい」

 

「わかってると思うけどここは子供が来ちゃいけない。少し休んだらすぐに出て行きなさい」

 

「わかりました」

 

「じゃあ仕事に戻るから」

 

(まず1つ目は大丈夫…)

 

この流れは半ば形骸化した警察への対策のようなもの。本当に追い返そうとしているわけでないことをお互いに理解している。

 

「お?そこの娘!」

 

入店した少女、いや彼女に声をかけたのは先程の若者。

この若者の一声で店内の視線が彼女に集中する。

 

「…わたしのこと?」

 

「お前以外に誰がいるんだよハハ。こっち来いよ」

 

若者は笑いながら手招きする。

店内は彼女以外は全て成人の男性、店員を除くと客は10人程度しかいないようだ。

 

「さっきまでやってた奴が帰ってさ、相手がいねぇんだよね。相手してくれや」

 

「…」

 

彼女は躊躇いながらも若者の対面の席に座る。

 

「おお、やっぱいいねえ!」

 

「?」

 

「こういう店に来るのは汚ねぇおっさんばっかでさ、お前みたいなかわいい子が来るとテンション上がるわぁ!」

 

若者はにやにやしながら興奮している。

 

「そうですか」

 

対照的に彼女は変わらず落ち着いていた。

 

「なぁ名前なんていうの?彼氏とかいんの?○○はもう済ませた?」

 

「答える必要はありません。ルールとレート、どうしますか?」

 

不躾な質問攻めをあしらい、本題に向かおうとする。

 

「おーおー冷静だねえ。でもいつまで冷静でいられるかなぁ?」

 

若者は含みのある言い方をする。

 

「そうだなぁ、ルールはここのハウスルールでやる。ちょっと変わってるけどまあまあおもしれぇぜ?」

 

「レートはそうだな、3回戦で500の5000、マッチ20000でどうだ?」

 

「…えっ!?」

 

彼女は驚き目を見開いた。

 

【レート】。端的に言うと賭けデュエルでの金額の大きさだ。順番に「デュエル終了時のライフ差」、「デュエルの勝敗数」、「マッチの勝敗」のレートを表している。

ライフは100ポイント差につき100円の場合は「1」、勝敗数は1勝につき100円の場合は「1」、マッチも同じく100円の場合は「1」

マッチについては、いわゆる勝者へのボーナスのようなものなので換算しない場合もある。

今回の場合だと500、5000、20000なので「ライフ差100につき5万円」、「1勝につき50万円」、「マッチ勝利で200万円」となる。

要するに一般のデュエルハウスでは到底考えられない逸脱したレートなのだ。彼女がフリードで戦った時の100倍以上のレートである。

 

「そんなレート受けられません」

 

(そもそもわたしがそんなにお金を持ってるようには見えないはず…)

 

「いや、お前に拒否権はないぜ?」

 

「…どうして?」

 

賭けデュエルはお互いが了承して成立する。片方が拒否しているなら成立しないのは至極当然である。

 

 

 

「おい、そこの娘」

 

と、そこに一連の様子を遠くから見ていたであろうスーツ姿の男が現れ、彼女に近付き胸ポケットから何かを取り出す。

 

成立しないなら成立させればいい。あらゆる手段を講じて。

 

(?…これって、警察手帳…!?)

 

表情には出さないが彼女の鼓動が早くなる。

 

「勝負を受けるなら不問にしてやってもいいが」

 

スーツの男と若者は不適な笑みを浮かべている。

 

(う…!まずい、もしかしてわたしのこと知ってる…?)

 

本来ならば高レートの勝負を持ちかけた者を止め、未成年である彼女を保護なり補導なりするのが警察官の仕事である。

しかし若者は何も慌てる素振りは無く、むしろ笑みを浮かべている。警察手帳を差し出した者もだ。つまり2人はグルである可能性が高い。そのことは彼女もわかっている。

そして彼女にとってまずいのはそれだけでは無い。彼女は賭けデュエルによって得たお金で生活しているのだ。

補導されるような事態になればこれまでの足跡を辿られ、最悪デュエルハウスに二度と出入りできなくなるかもしれない。彼女はそうなることを避けるため、これまでガサ入れされない低レートの店を利用してきた。

 

「ほう、逃げたり喚いたりしないのか?それともまだ状況が飲み込めていないか?」

 

「…あなたがそこの男とグルってことはわかってる。わたしのこと、どこまで知ってるの?」

 

「いや、お前のことは知らんな。ただ夜になると、この界隈のデュエルハウスにそれはそれはかわいい娘が現れるって噂は聞くがな」

 

(そんな噂は聞いたことない…わたしが知らなかっただけ?でもこの人はわたしのことを知ってる)

 

「へぇそんな噂初めて聞いたぜ。じゃあこいつがその噂の子か?」

 

若者も初耳だったようだ。

 

「さぁな。それよりどうするんだ?俺と署まで来るか?」

 

彼女に選択を迫る。

 

「…わたしに拒否権は無いんだよね」

 

2人は変わらず不適な笑みを浮かべている。

 

 

 

「ルール、説明して」

 

彼女は腹をくくった。

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