可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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3話 ♯1「再び夜が明けて」

ーーー午前9時

 

彼女は目を覚ます。

 

かばんに入ったままの札束が昨日の出来事を思い出させる。

あの後、シャワーを浴びてすぐ眠ってしまったようだ。

 

(学校…あ、今日は土曜日か)

 

座ったままうーん、と体を伸ばす。

 

(…デジャヴ)

 

先週と同じ流れになっている。だとするとこの次は

 

(…朝ごはん食べよ)

 

 

 

ーーー午前10時

 

食事を終えた彼女はベッドに腰掛け、ぼーっと天井を見上げる。

 

特に今日の予定は無い。

 

(…なんか、落ち着かない)

 

お金が入ったかばんに目を移す。

 

中にはおよそ600万、高校生が持つには大き過ぎる金額だ。

 

(どうしようかな、銀行に預けるわけにもいかないし…)

 

彼女は少し考え

 

(気にしないことにしよう)

 

考えないようにした。

 

 

 

(この列の3つのマスに4、5、8が入るから…)

 

(同じ行のこのマスの候補から7が消えて…)

 

(…解けた)

 

特に今日の予定も無い彼女は、趣味であるパズルを解いていた。

 

彼女曰く、パズルが解けた瞬間のそれはデュエルに勝利した瞬間のそれと良く似ているらしい。

 

(難易度7、自己ベスト更新)

 

 

 

ーーー午前11時

 

彼女にメールが着信する。

 

from綾芽

「あの、今日13時から図書館で一緒に勉強しませんか?」

 

to麗梨

「いいよ」

 

from綾芽

「良かったです。入口で待ってます」

 

to麗梨

「うん」

 

友人の綾芽と図書館で一緒に勉強する約束をした。

小松綾芽(コマツ アヤメ)。彼女の同級生。

クラス委員長を務めているいわゆる真面目な優等生タイプの子。

並外れた頭脳を持つ彼女を尊敬している。

 

 

 

ーーー午後1時

 

 

 

「綾芽」

 

彼女は図書館の入口近くに居る綾芽に声をかけた。

 

「あっ、こんにちは麗梨さん」

 

「こんにちは」

 

「今日は宜しくお願いします」

 

「かしこまらないで。入ろ」

 

「はい!」

 

 

 

<<市立図書館>>

 

 

 

「うーん…」

 

勉強中の綾芽が唸る。

 

「どうしたの」

 

「サイコロを4回振って一度も1の目が出ない確率ってどう求めるの?」

 

「1以外の目が4回連続で出ると考えて」

 

本を読みながら彼女が答える。

 

「あ、そっか!ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 

 

「ところで麗梨さん、何読んでるの?」

 

ふと一息ついた綾芽が彼女に問う。

 

「デュエルの本」

 

「デュエルって、麗梨さんもデュエルするんだ」

 

「うん」

 

「近いうちに私とデュエルしませんか?」

 

「いいよ」

 

(麗梨さん、どんなデュエルをするんだろう)

 

「ありがとうございます。楽しみが増えました」

 

綾芽は上機嫌で勉強を再開した。

 

 

 

ーーー午後6時

 

 

 

「今日は勉強に付き合ってくれてありがとうございます」

 

図書館の入口そばで綾芽はお礼を述べた。

 

「こちらこそ。わたしも色々学べた」

 

「じゃあまた学校で…あ」

 

去ろうとした綾芽が思い出したように立ち止まる。

 

「私デッキ持ち歩くようにするので、いつでもお願いします!」

 

「うん、わかった。ばいばい」

 

綾芽と別れ彼女は帰路についた。

 

 

 

 

 

<<デュエルハウス「黒蠍」>>

 

 

 

「珍しいですな」

 

青葉がグラスを拭きながらカウンターの長テーブル越しの客に呟く。

 

ここ黒蠍は土曜の夜のみバーとしても営業している。

 

「俺だって酒を飲むことくらいはあるさ」

 

カウンターに座ってる客、黒川は酒を飲みながら答える。

 

「お嬢さんのことですかな?」

 

「やっぱりお見通しってわけか」

 

黒川は敵わないといった表情で苦笑いを浮かべる。

 

「あいつは大物になるさ。いずれは…到達しちまうだろうな。問題はそれまでどうするかだ」

 

「ほう」

 

黒川は考え込みながら話を続ける。

 

「頭脳と精神力はもちろん、あの容姿にあの性格ときた。カリスマ性というか神秘性というか、人を惹きつける魅力が凄まじい」

 

「故に寄ってたかってくる。そしてそいつらはあいつをデュエリストではなく金や女として見る。実力が認められるまでは色物扱いは避けられんだろう」

 

「狭いこの世界だ、あいつの噂はすぐに広まる。そうなると手段を選ばずあいつを手に入れようと奴が必ず出てくる」

 

「拉致監禁の類い、いやそれ以上の脅威からあいつを守り切れるかどうか…無事高校を卒業させてやれるかどうか」

 

酒の影響か黒川の声は弱気だ。

 

「貴方も魅せられた一人のようですな」

 

「…そうかもな」

 

「最初からそうするおつもりだったのでしょう?」

 

「はは、青葉さんにはかなわねえなあ…」

 

「偶然ここに来て、偶然居合わせて、偶然高レートの勝負になって勝った。流石に無えよな」

 

黒川は酒を流し込む。

 

「引きずり込んだ責任は取る。面倒も見るさ。出来る限りのことはしてやる」

 

「何故そこまで肩入れするのです?」

 

「…知っちまったから、だろうな」

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