可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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3話 ♯10「望む物の価値」

「くっそー、まさか負けるとはなあ」

「約束がパーかよ」

「ああ、もったいねー」

 

男子生徒たちは落胆の声を上げる。

 

それと同時に北林は見張りに入って来るよう手招きした。

 

「おお、終わったのか?」

 

見張りだった男子生徒はのんきに北林に話かける。

 

「てめえ…まさかとは思うが」

 

北林は男子生徒に詰め寄る。

 

「な、何だよ!?」

 

「北林、見苦しい真似はやめろ」

 

心当たりのない北林の言動に戸惑う男子生徒に、デュエル中から静観を貫いてきた赤石が口を開き北林を睨む。

 

赤石の睨みに気圧されたか、北林は男子生徒から離れた。

 

「お前の考えてることは大方予想がつく。誰も裏切っちゃいねえよ」

 

「…」

 

「目に入ってきた情報を疑わなかったお前の負けだ」

 

「あ?」

 

(情報を疑わなかっただと…?どういう意味だ?)

 

北林は赤石の言葉の意味を考える。

 

 

 

「瑞希、綾芽。行こ」

 

その間に彼女は立ち上がり準備室の出入り口に向かおうとする。

 

「待てよ」

 

赤石が彼女を呼び止める。

 

「こいつはお前との勝負を受けた。まだ半分残ってるだろ?」

 

「…」

 

彼女は赤石から放たれるであろう次の言葉を待つ。

 

「次は俺との勝負、受けな」

 

 

 

「まあ無理にとは言わねえ。嫌なら断ればいい」

 

赤石からの勝負の誘い。それに対する彼女の彼女の答えは既に決まっていた。

 

ここに入った時から彼女は赤石と対峙するような、そんな予感がしていたからだ。

 

「いいですよ」

 

おおっ、という歓声が男子生徒たちから上がる。

 

「赤石のデュエルが見れる!」

「久しぶりに見るぜ」

「楽しみだ」

 

そんな男子生徒たちとは対照的に困惑しているのは彼女側の2人。

 

瑞希も綾芽もどうして受けるの?受けて大丈夫?と不安げな表情を浮かべる。

 

「おいお前、本当に受けるんだな?」

 

赤石ではなく、北林が彼女に再確認する。

 

「わたしも瑞希を泣かせた人たちに、何もせず帰るつもりはありませんでしたから」

 

(…おい、さっき帰ろうとしてなかったか?)

 

見張りだった男子生徒が思わず心の中でツッコミを入れる。

 

実は先程の彼女の行動は本当に帰ろうとしていたわけではない。赤石や男子生徒たちがどういう行動をとるか試したのである。

 

9割方予想はついていたが、もしもの時に備えて彼女は瑞希と綾芽を連れてこの場から逃げられるような態勢は取っていた。

 

「そうか、そいつは楽しみだ。ほら、それならさっさと席に座れよ」

 

北林に促され彼女は再び席についた。

 

 

 

赤石も席について数秒後、

 

「まずは何を賭けるかだな。望みは何だ?」

 

赤石が彼女に問う。

 

「いじめを、やめさせて下さい」

 

「えっ…?」

 

彼女の回答に瑞希は思わず声が出る。

 

「具体的に頼む」

 

「もしあなたたちがいじめをしてる人を見かけたら、その人にやめるように言って欲しいです。今後しないようにも」

 

(れーりちゃん、もしかして私のために…?)

 

「…俺は構わないが、それで無くなるようなもんじゃないと思うぞ」

 

「わたしも無くすのは不可能だと思ってます。人間関係ってとても複雑だから…」

 

彼女は遠い目をする。

 

「今より良くなれば、それでいいの」

 

「そうか」

 

「あなたは何を望みますか?」

 

「そうだな…」

 

「赤石、勝ったらさっきの勝負無効にするようにしてくれ!」

 

北林は赤石の言葉を中断するように口を挟む。

 

「ああそうしてくれ!」

「頼むわ赤石!」

 

同じように男子生徒たちも赤石に要請する。

 

「馬鹿が!てめえらの負けを消すために勝負するんじゃねえ!」

 

赤石は声を荒らげる。

 

「それにあいつの気持ちを考えな」

 

赤石は視線を瑞希に移す。

 

「この2戦、強い不安と緊張に晒され相当参ってるはずだ。デュエルのきっかけを作ったのはあいつだが、これ以上追い詰めることも無えだろ」

 

赤石の一言で男子生徒たちは口をつぐんだ。

 

「ありがとう、気を遣ってくれて」

 

「ああ」

 

彼女のお礼の言葉を赤石は少々ぶっきらぼうに返した。

 

 

 

「俺が望む物は今のところ特に思い当たらねえんだ。だからお前の望む物にお前自身がそれに見合う値段をつけてくれ」

 

「わかりました」

 

彼女は躊躇うことなく懐に入れてた物を机の上に出した。

 

 

 

「なっ!?」

 

ここまで表情を全く変えなかった赤石も思わず目を見開いた。

 

「これ本物か!?」

「マジかよ!?」

「俺、札束初めて見た…」

 

赤石だけでなく、彼女以外この場にいる全員が驚いている。

 

 

 

「ちょうど100万あります」

 

彼女が出したのは家を出る直前、懐に入れた札束だった。

 

「ちょ、ちょっとれーりちゃん!」

 

瑞希が慌てて口を挟む。

 

「本気なの!?100万って冗談じゃ済まないよ!?私のために勝負しようとしてるなら、そんな大金賭けないで…!」

 

「わたしは最初から本気だよ。大丈夫、わたしを信じて」

 

「で、でも…!」

 

その時、綾芽が瑞希の肩に手を置いた。

 

「中根さん、麗梨さんは止められません」

 

「な、なんで…!」

 

「中根さんも薄々感じてるのでしょう?私たちと麗梨さんとは住んでる世界が違うってことに」

 

「そんなこと…」

 

「気持ちはわかります。でもここは麗梨さんの勝ちを信じて見守りましょう。それが今私たちに出来ることです…!」

 

綾芽は瑞希を落ち着かせる。

瑞希は言い返そうとしたが、綾芽の手から伝わってくる無力感に何も言い返せなくなった。

 

「…その金額でいいのか?」

 

「はい。あなたに対するわたしの望む分です」

 

彼女は遠回しな言い方をするが

 

「…ならその分だけ、答えよう。本当の『度胸試し』でな」

 

赤石は意図を汲み取った。

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