(おい、何で雷仙人で人喰い虫攻撃しなかったんだ?)
(する必要が無いからに決まってるだろ。人喰い虫なんぞいつでも葬れるし、貫通持ちのランス・リンドブルムもいるしな)
(ああ、なるほど。まあどっちにしろこのターン雷仙人を守り抜けば赤石の勝ちだな)
(モンスターは全部見えた。残るモンスターはお互い3体ずつ。でも機動砦のギア・ゴーレムを倒せない上に麗梨さんのフィールドに罠は無く、向こうにはまだ4枚もある…勝てる方法はあるの?)
綾芽は彼女の顔を見る。
(…気のせい?)
いつもの冷静な彼女の顔のはずだが、綾芽には彼女が笑っているように見えた。
それだけではない。綾芽は赤石の顔も見るが、彼女同様笑っているように見えた。
綾芽は戦況を見つめる瑞希に小声で話しかけた。
(中根さん)
(ん?なに?)
(あなたがもし麗梨さんの立場だったら、このターンどう動きますか?)
(うーん、そうね。まずランス・リンドブルムで雷仙人に攻撃するかな。通れば戦闘ダメージと合わせて5300削れるしね。あ、罠も発動してくると考えたら5800かな)
(…そのあとは?)
(そのあとはえーと………あれ?)
瑞希はその後の追撃が出来ないことに気付く。
(もしかして、れーりちゃん勝てない…!?)
「《ステルスバード》を裏側守備表示にします」《ステルスバード》表守→裏守
彼女は数秒時間を置いたあと、
「わたしの《ランス・リンドブルム》であなたの《ランス・リンドブルム》に攻撃します」
攻撃宣言 彼女LP3000ー500=2500
最後の攻撃宣言をした。
(麗梨さん…!)
(あいつバカだ!相打ちにしてくるとか)
(もう勝てないとわかって適当にやってんだろ)
(1万か2万くらいもらえないかな?)
赤石は真ん中のカードを選択する。
「罠発動」
その時、準備室の扉が勢いよく開く。
「やばい!先公来た!」
見張りの男子生徒が室内へと向かって叫ぶ。
「げっ!マジか!」
「カード隠せ隠せ!」
室内が慌ただしくなる。
「おい、早くそれ仕舞え」
赤石は彼女に札束を押し付けると、彼女もすかさず受け取り懐に仕舞う。
「なんだあお前ら!ここで何やってんだ!?」
証拠隠滅が完了した直後、教師が室内へと入ってくる。
「何もしてませんよ」
赤石が全く動じず答える。
「ああ!?そんなわけないだろう!こんなところで何やってたんだ赤石!?」
はぁ、と呆れたように息を吐く赤石。
「そこの女子生徒にきいてみればいいじゃないですか」
赤石は彼女たちに視線を向ける。
「おい!そこの女子!お前ら」
教師が彼女たちの顔を見るとそれまでの怒号が嘘のように静かになる。
「鈴瀬!?に小松まで…!何故こんなところにいる?」
「勉強とかお話とかしてました」
彼女も全く動じず答える。
「何だと?そんな見え見えの嘘で騙されると思っているのか!?」
「嘘は、ついてません」
彼女はやはり動じず答える。
嘘をついているとは到底思えない口ぶりを見て教師も強く言えなくなった。
「…まあ、鈴瀬が言うなら今日は見逃してやろう」
(けっ、赤石とまるで態度が違うじゃねーか)
(女子に甘いからな、あの先公)
「だが勉強するなら図書室へ行け。ここはそういう場所じゃない。分かったな?分かったらさっさと出て行け」
「へーい」
教師は生徒たちに退室を促す。
「おい、鈴瀬、小松、中根。お前らはちょっと残れ」
彼女たちも退室しようとするが教師に呼び止められた。
「もう一度きくが、本当はあいつらと何してたんだ?」
男子生徒たちが退室したあと、準備室の椅子に腰かけた教師が再び問う。
「勉強とかお話とかしてました」
「…そうか」
再現するかのように同じやりとりをする。
「分かった、何をしてたかはもうきかん。ただひとつ忠告をしておく」
「平和に学校生活を送りたければ赤石と関わりあうな」
教師は険しい顔をして忠告する。
「どうしてですか?」
「あいつは成績こそいいが、【桑鴇】の連中としょっちゅう暴行事件を起こしてる問題児なのだ」
桑鴇(クワトキ)とは隣町にある高校の名。ちなみに彼女たちの通っている学校は桐縹(キリハナダ)高校。
なお彼女の家からだと桑鴇高校の方が僅かに近かったりする。
「桑鴇はうちに比べて偏差値がかなり低い。こう言っちゃあれだが、ろくでもない生徒ばかりだ」
「そんな奴らと暴行事件を起こす赤石もろくでもない奴だというのは分かるな?」
「そんなこと無いと思いーーー」
教師は綾芽が言い終わる前に睨み付ける。
「い、いえ何でもないです」
「とにかく赤石と関わるな。お前らも巻き添えを食らうことになるぞ」
彼女たちは教師の話を黙って聞いている。
「分かったら帰ってよし。赤石らが待ち伏せしてるかもしれんから校門まで送ってやる」
「い、いいですよ!そこまでしなくても」
「お前らは赤石の怖さを知らんのだ。奴は女子だろうと躊躇いなく暴行を働くからな」
瑞希は断りの言葉を入れるが、結局教師は校門までついて行った。もちろん待ち伏せなどされていない。
「気を付けて帰るように、ではまた明日」
「さようなら」
彼女は教師に挨拶して帰路についた。
(けっ、鈴瀬を赤石なんぞに渡してたまるか)
彼女たちが見えなくなると、教師は校舎へと戻って行った。