ーーー4月某日(物語開始から1ヵ月前くらい)
『なー兄貴、今日学校の帰りに洗剤買ってきてくれない?いつものやつ』
『ああ。洗剤だけでいいのか?』
『うん』
赤石は学校の帰り道、今朝の会話を思い出す。
(まさか2件とも品切れとはな…ついてねえ)
赤石は桐縹高校の近くの薬局とスーパーマーケットの2件に足を運んだものの、どちらにも目当ての品は無く、少し遠くの大型ショッピングモールでようやく手に入れることが出来た。今はその帰りだ。
(そういやこの辺は桑鴇のシマか)
桑鴇の制服を着た学生がちらほらと見かけるようになっていた。
(あんまり通りたくなかったが、わざわざ遠回りするのも面倒だ)
学生たちの一部は赤石を遠巻きに見たり、こそこそと噂話をしたり、目を逸らして関わらないようにしようとしている。
(おいあいつ赤石じゃねえか!)
(なんでここにいるんだよ)
(まさかまた喧嘩しにきたとか!?)
(バカ!目を合わすな)
(あいつとやり合うのはマジ勘弁だわ…)
小さな声があちこちから発生している。
(まあ、遠くから言ってくる分には気にしねえが)
赤石は気にせず歩いた。
(あ?)
しばらく歩いたところで赤石は立ち止まる。
「なあ桜(サクラ)ちゃんの番号教えてくれよ」
「じ、自分できいてよ」
赤石は人通りの少ない路地を曲がり、話声がする方へ行く。
「俺B組だからあんまり会えないんだよねえ」
「いいじゃん教えてくれよ、なあ」
「い、嫌です…」
桑鴇の制服を着た男子学生4人が、同じく桑鴇の制服を着た1人の女子生徒に詰め寄っていた。周囲に人はいない。
「ああ!?痛い目見たいんかコラ!?」
「いっ…!」
女子生徒は男子生徒の威圧に怯む。
「おい、てめえら」
男子生徒が女子生徒に掴みかかる寸前、赤石はドスの利いた声を飛ばした。
「ああ?なんだお前?」
「そいつ嫌がってんだろうが。離しな」
赤石はゆっくりと近づく。
「は?お前には関係ないだろ」
「つかお前誰?ヒーロー気取りとかならやめてくんね?」
男子生徒たちが赤石の方に近づく。
(まあ、口で言っても聞かねえわな)
男子生徒たちが女子生徒から離れたのを確認すると、赤石は手招きをした。
「おっ、4対1でやるつもりだぜこいつ!」
「ラッキー!ストレス発散しちまおうぜ!」
男子生徒たちは戦闘態勢に入る。
「来な」
赤石の言葉と同時に男子生徒たちは殴りにかかった。
「…え?」
男子生徒の1人が目の前で繰り広げられた光景を理解出来ずにいる。
赤石は数秒足らずで3人の男子生徒を片付けてしまっていた。3人は揃ってうずくまっている。
「おい」
赤石は無事な男子生徒に声をかける。
「は、はい!」
男子生徒は思わず声がうわずる。
「そいつら連れてさっさと失せろ」
「ひーっ!」
赤石がそう言うと男子生徒たちは尻尾を巻いて逃げ出した。
「あ、あの!」
赤石は路地へと戻る直前、女子生徒に声をかけられる。
「あ?」
「助けてくれてありがとうございます。お礼がしたいので連絡先を…」
「いいよ別に」
「で、でも」
「気をつけて帰れよ」
赤石は振り返らず路地へと戻って行った。
(…)
女子生徒は遠ざかる赤石の背中をぼーっとしばらく見つめていた。
「ただいま」
「おかえり、遅かったな」
「色々あってな。洗剤、洗面所に置いとくぞ」
「うん、ありがとう。ごはんもう出来るから」
赤石は洗面所から戻り私服に着替える。食卓には既にいくつか料理が並べられていた。
「おお、今日はハンバーグか」
「肉じゃなくて豆腐なんだけどな。豆腐が安かったから久しぶりに作ってみた」
赤石は食事中、今日の帰り道のことを思い出す。
「なあ、桑鴇での生活はどうだ?」
「いきなりどうしたんだよ」
「別に意味は無えよ、なんとなくだ」
「そうだな…まあまあってとこだな。友達もできたし」
「ほお、そいつは珍しーーー」
赤石が言い終わる前に、対面の少女は赤石のすねを蹴った。
「いてえな」
「珍しくて悪かったな」
「悪いとは言ってねえよ」
赤石はすねを手で撫でる。
「まあ、でも何かあったら言えよ?お前を守るためなら何だってしてやるからな」
「あー…うん、頼りにしてる」
対面の少女は照れくさそうに視線を逸らす。
(ったく、何でうちの兄貴は真顔でこんなこと言うかなあ…)
しかし少女はまんざらでもない感じだ。
(…でも本当に頼りにしてるよ、兄貴)
ーーー翌日、桑鴇高校
「それでね、その助けてくれた人がすごくかっこよかったの!」
「ふーん」
「でも連絡先教えてもらえなかったの…また会えるのかな」
「何か手がかりとかねーのか?」
「えっと、かっこよくて背が高くて…あ、桐縹の制服着てた!桜ちゃん何か知らない?」
「知らねーよ。そんな奴そこそこいるだろうし」
「そうだよね…うーん」
少女は考え込む。
「ま、そのうち会えるだろ」
「そうだといいなあ」
「…ありがとな」
「えっ?」
突然のお礼の言葉に少女は戸惑う。
「守ってくれたんだろ?あたしの情報」
「そ、そんな大したことしてないし、そもそも私守られた側だったし…」
少女は本当に大したことはしてないといった感じで伝える。
「そうか。でもアイコが無事で良かったよ、あたしもそいつに感謝しないとな」
ーーー同日放課後、帰り道
「じゃあ桜ちゃん、また明日!」
「おう」
(アイコの奴、助けられたのが相当嬉しかったみたいだな。…帰り際ずっとその話されるとは思わなかった)
少女は帰り道の途中にあるスーパーマーケットに入店する。
(さて、今日の夕飯どうすっかなー。昨日は確か…)
少女は安売りされている品々を見る。ラインナップは昨日とあまり変わらないようだ。
(さすがに2日連続で豆腐ハンバーグは、無しだな)