ーーー
(あれ?あの人は…)
瑞希は階段を下りる途中、ある男子生徒に遭遇する。
「あの!」
「ん?…あ、お前は確か」
昨日のデュエルで見張り役をしていた1人だ。
「はい、1年の中根です。少しお聞きしたいことが…」
男子生徒は瑞希の疑問に答え始めた。
「去年の秋にな、桑鴇の奴らが『狩り』と称してうちの奴らを何人もボコってな、金を巻き上げられるということがあったんだ」
「えっ!?それって犯罪じゃ…」
「ああ。だがそいつらでっかいマスクで顔隠してたし、何よりサツに言えばさらに狩りをすると言いやがった」
「ひどい…!」
「仕返ししようにも顔がわからんし、集団でいると襲って来ねえしで、厄介な連中だったんだわ」
「ある時、その話を聞いた赤石が自らおとりになるって言いだしてさ、1人で桑鴇のシマをうろつき始めたんだ」
ーーー去年の秋
「おい、護衛無しとか正気か!?」
「ああ。どうもあいつらは俺らが思っている以上に慎重な奴らみてえだしな。近くに誰もいないと判断されない限り襲って来ねえだろうよ」
「心配するな。何かあったら連絡するからよ」
自分を心配そうに見つめる男子生徒たちにそう言い残すと赤石は教室から出て行った。
ーーー桑鴇学区内某所
「おい、見ろよ!桐縹の奴が1人で歩いてるぜ!」
「絶好の獲物だな。次の道曲がったら、やるか」
大きなマスクをした6人組の少年たちが、赤石の背後からじりじりと詰め寄る。
(その日のうちにお出ましか。ついてるな)
赤石は後ろを振り返った。
「なあなあ、そこの兄ちゃんよお、お金置いてってくれないかなあ?痛い目に会いたくないだろお?」
「お前らか。桐縹の生徒を狩ってるとかいう雑魚共は」
少年たちの目付きが険しくなる。
「あ?今なんつった?」
「おいおいこんな状況のわからない馬鹿は初めてだなあ」
「今謝ったら全治1週間くらいで許してやるよ?」
「いいから来な、雑魚共」
赤石は手招きをする。
「てめえ!半殺しにしてやるわ!」
ほぼ同時に少年たちは赤石に向かって行った。
ーーー
「《椿姫ティタニアル》でダイレクトアタックします」
「う…くそ!」
森下LP→0
場が一瞬静まり返る。
「おいおいマジかよ…」
「あの女結構つえーぞ!」
「今度植物組むわ」
「勝った…のか?」
桜は勝者が藍子だということを雰囲気で察しているが、デュエルというものをあまり知らないので一応確認する。
「…」
しかし藍子は黙ったままだ。
「…アイコ?」
「…あっ、うん。勝ったよ桜ちゃん!」
数テンポ遅れて藍子は桜に笑顔を向ける。
「そっか、ありがとな」
桜もそれに応え笑顔を見せた。
(何かアイコの表情がいつもと違う感じがしたが…気のせいか)
「おい森下!ぼーっとしてねえで謝れ!」
「そうだそうだ!男なら約束守れー!」
「土下座しろ土下座!はい土下座!」
観戦していた男子生徒の掛け声と共に土下座コールが巻き起こる。
「う、うるせえ!土下座は要求されてねえだろうが!謝れと言われただけだ!」
森下は男子生徒たちに言い放つと、
「…す、すまん。俺が悪かった、俺の負けだ」
桜に頭を下げてぎこちなく謝った。
森下は謝る気が無かったが、男子生徒たちが見ている手前、約束を反故にすることは出来ない。
それを聞いた桜は藍子に一瞬視線を向けてから
「しゃーねえ、今日のことは忘れてやる」
と穏やかな声で言った。
ーーー
マスクをした少年たちは揃ってうずくまる。
(くそっ!なんなんだこいつは…!)
(桐縹にこんな奴がいるなんて聞いてねえぞ…!?)
赤石は少年たちに近付くと1人1人、マスクを剥がしていった。
「ほお、そんなツラしてたのか」
「ぐっ、てめえ何者だ…!?」
「俺は2年の赤石だ。お前らは桑鴇のどいつだ?」
少年たちは答えない。
「まあいい、てめえらのツラは覚えたからな。次狩りなんぞふざけた真似しやがってみろ、こんなもんじゃ済まさねえぞ!」
赤石の睨みを利かせた剣幕に少年たちはただ恐れ慄いていた。
ーーー
「それ以来狩りは無くなったんだが、それから2週間後くらいだったか。桑鴇の奴らが赤石を呼び出したんだ」
「さすがに赤石1人で行かせるわけにはいかんかったから、俺らも結構な人数でついて行ったわけよ。そしたら20人くらいが鉄パイプだの金属バットだの武装して待ち構えてやがったんだ」
「『やべえ殺されるかもしれねえ』って思って俺らが後ろで尻込みしてたら赤石の奴、何の躊躇いも無く突っ込んで行ってな」
「だ、大丈夫だったんですか…!?」
瑞希は目を大きく見開いてきく。
「ああ、大丈夫も何も無傷だったよ。ばったばった薙ぎ倒していくのを、すげえって思ってぼーっと見てたら『早く武器を回収しろ!』って赤石に怒鳴られちまった、ハハハ」
「それがあってから桑鴇の奴らはもうケンカ売らねえだろうな、って思ってたんだがまた2週間後くらいに赤石を呼び出してな」
「ほぇー…」
(懲りないね…)
「前と同じようについて行ったんだが、どういうわけかデュエルで白黒つけようって言いだしてな、ケンカじゃ勝てねえって思ったんだろうな」
「まあデュエルでも赤石が完勝さ。奴らは赤石が体だけの男だとでも思ったんだろうが、あいつは頭も相当キレるからな。どのみち勝ち目は無かったってわけだ」
「すごい人なんですね…!」
「ああ、あいつはすげえよ。赤石がいる限り桐縹は安泰さ」
「裏を返せば、赤石が卒業してからが問題だな。今の1、2年に赤石レベルの抑止力を持つ者はまず居ねえだろうし」
「…また狩りが再開される可能性がある、と?」
「そうだな。抑圧されてた分、何してくるかわかんねえ」
「…」
空気が重くなる。警戒すべき相手は同じ高校生とは思えない輩たち。
「ま、そう心配するな。卒業するまでにはケリを付けるようにはするさ。無責任な先輩だと思われたくねえしな」
男子生徒は携帯電話を取り出し時間を確認する。
「おっと、そろそろ戻るわ。昼休み終わっちまう」
「あ、お話してくれてありがとうございました!」
「おう」
男子生徒は3年の教室があるフロアへと戻って行った。
(れーりちゃん、すごい人に勝ったんだね…)
(そういえばみんな、デュエルに負けたって聞いてもれーりちゃんがすごいって言ってて、赤石さんが弱いって言う人は誰もいなかったなあ…)
(すごい人って意外と身近にいるんだね…っと、私も戻らなきゃ)
瑞希も自分の教室へと戻って行った。
ーーー帰り道
「桜ちゃん、まだ気にしてる?」
藍子が桜に問う。もちろん今日の森下との一件だ。
「あたしさ、桑鴇に入った時からこういうことは覚悟してたんだ。なのに…!」
桜は下を向きながら歩く。
「ケンカに負けるならまだしもアイコまで巻き込んじまった…!あたしのせいで…!」
桜は悔しさをあらわにする。
「…桜ちゃん、それは違うよ。私は桜ちゃんを守りたくて勝負したの」
「私、いつも桜ちゃんに守ってもらってばっかりだから…ケンカはできないけどデュエルなら、ってね」
「それとも桜ちゃんは私に何かあるたびに『こいつ、また巻き込みやがって』とか思ってたりするのかな…?」
藍子は悲しそうに問う。
「んなわけねーだろ。友達を守るのに理由なんてねーよ。…あ」
桜は自分の発言が、藍子が自分に対して抱いてる『それ』と同じということに気付く。
「よかった」
そんな桜に藍子は笑顔で答えた。
「…でもさ、やっぱりケンカじゃ男には敵わねえのかな。不意打ち食らったとはいえ一撃であのザマじゃあ…」
「力だけが全てじゃないよ」
落ち込み気味の桜に対し藍子は微笑みながら答える。
「確かにケンカ勝負なら力不足かもしれないけど、わざわざ相手の得意分野で勝負することないんじゃないかな」
「それは、逃げじゃねーのか?」
「逃げなんかじゃないよ。戦い方が違うだけ。別の手段で戦うことは決して逃げなんかじゃない」
藍子は断言する。
「桜ちゃんはね、真正面から立ち向かいすぎっていうか、不器用って言った方がいいのかな?」
「そこが桜ちゃんの魅力でもあるんだけどね。でも見てて心配っていうか、出来ればケンカして欲しくないなあ…なんて、いつも守ってもらってる私が言うことじゃないよね」
「…そっか。心配かけさせて悪かったな」
桜は藍子の意を汲み取る。
「あ、謝らないで!私の方こそなんか指図してるみたいでごめん」
「いや、はっきり言ってくれてあたしは嬉しかった。ありがとな」
桜は笑顔を見せ、藍子もそれに応え笑顔を見せた。
(不器用、か…兄貴に憧れているうちにあたし自身もいつの間にかそうなってたのかもな)
(…デュエル、また覚えてみるかな。兄貴に憧れてじゃなく、アイコを守れるように)