可憐なる博徒 レイリ   作:tres

40 / 145
4話 ♯4「感覚を忘れずに」

ーーー夜

 

 

 

「なー兄貴」

 

「あ?」

 

食事中、桜が赤石に話しかける。

 

「あとでデュエル教えて欲しい」

 

「構わねえが、いきなりどうした?」

 

「色々思うことがあってな…」

 

赤石は桜の様子がいつもとわずかに違うことを感じ取る。

 

「何かあったのか?」

 

「実は…」

 

桜も赤石の前で隠し通すのは無理と判断し、今日あったことを全て話した。

 

 

 

 

 

ーーー夜、同時刻

 

 

 

<<デュエルハウス「フリード」>>

 

 

 

「いらっしゃいま…あ、レイリちゃんこんばんは!久しぶりだね!」

 

彼女の入店と同時に店員が出迎える。

 

「こんばんは」

 

「せっかく来てもらって悪いんだけど、今空きが無いからちょっと待ってくれるかな?」

 

「わかった」

 

「ごめんね、すぐに空くと思うから」

 

「うん」

 

彼女は入口近くの椅子に座る。

 

今日彼女は稼ぐためにここに来たのではない。大勝負が続いて、勝負感覚が狂っていないか確かめに来たのだ。一度その感覚が狂うと取り戻すのは容易ではないと彼女自身把握している。

 

 

 

「ああーまた負けかよー!」

 

「へへー、ごち」

 

彼女は聞こえてきた声の方へと視線を向ける。

 

(あの人は…)

 

「ちくしょー!今日は仕舞いだー」

 

男が荷物をまとめ席を立つ。

 

 

 

「もうけもうけ…ん?」

 

男とデュエルをしていた女が、自分に向けられてる視線に気付く。

 

「おおー、レーリじゃねえか!久しぶり!」

 

「お久しぶりです、紫さん」

 

「ほらほら、空いたからこっち来なよ」

 

「はい」

 

彼女は招かれ席についた。

 

 

 

女の名は桃山紫(モモヤマ ユカリ)。25歳独身。

各地のデュエルハウスに存在する客たちの対戦相手となる、いわゆるフリーデュエリストの1人。

人手の足りないデュエルハウスだと店員としての仕事を手伝うこともある。

デュエルハウスに赴き生計を立てている彼女と本質的には似ているが、客側か店側かという違いがある。

彼女とはフリードで何度かデュエルしており、それなりに顔なじみだ。

 

 

 

「最近どない?」

 

「うまくいってます」

 

「そっかそっか。スピード、無し、5、50でいいか?」

 

「はい」

 

彼女と紫は話しながらデュエルの準備を進める。

補足するとスピードルール、LPマイナス超過計算無し、LP100差につき500、デュエル勝利で5000という意味だ。マッチ戦では無いのでマッチのレートは無し。

だいたい平均的なレートである。

 

「使うカードはこれで、コイントスは数字が裏な」

 

「表で」

 

「ほい…っと、表だな」

 

「先攻で」

 

「おけ。そんじゃあ始めるか」

 

テンポ良く準備が進み、デュエルが始まった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「なるほど。別の手段として、か」

 

「ああ」

 

「まあ見方によっちゃあデュエルも喧嘩の一種だと思うがな。考え無しの力比べよりよっぽど『喧嘩』してるさ」

 

しかし力は有るに越したことはない。手段の1つとして考えるのなら。

 

「それで、どこまで知ってんだ?」

 

「召喚と特しゃ、しゅ召喚の違いなら知ってる」

 

(噛んじまった…)

 

「…まあ、お前ならすぐ覚えられるだろうよ」

 

赤石は食事を終え、皿を下げる。

 

「後で部屋に来な。カード出しとくから」

 

「うん」

 

赤石は部屋へと戻った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「黒蠍で大勝ちしたんだってね。《虚無魔人》で《ボタニカル・ライオ》に攻撃」

 

「知ってたんですね。《棘の壁》発動します」

 

「風の噂でな。このレートじゃ物足りないんじゃない?《トラップ・ジャマー》発動」

 

「そんなことないですよ。何もありません」

 

「ま、そうだったらここに来てないよな。エンド」

 

「はい。ドロー、スタンバイ、メイン《幻惑のラフレシア》反転召喚。《虚無魔人》のコントロールを奪います」

 

「げ…伏せてたのそいつか」

 

「《虚無魔人》で攻撃します」

紫LP→0

 

「あちゃー負けたか」

 

「ごちそうさまでした」

 

「お?こいつー、夜はまだ始まったばかりよ?」

 

「存じております」

 

彼女と紫は次のデュエルへの準備に入った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「兄貴、入っていいか?」

 

赤石の部屋の前から桜が声をかける。

 

「ああ」

 

返事を聞いて桜は部屋へと入った。

 

「…これ、全部カードか?」

 

「ああ。これでも結構処分した方だ」

 

部屋の床には整然としたカードのタワーがいくつも出来上がっていた。

 

「色んなのがあるんだな」

 

桜はタワーからカードを抜き取り1枚1枚見ていく。

 

「組みたいデッキとかあるのか?」

 

「いや特には……あ」

 

桜は藍子のデュエルを思い出す。

 

「あ?」

 

「…植物。植物組んでみたい」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ふー、最後も負けかー」

 

「ありがとうございました」

 

彼女と紫は10回ほどデュエルをして、結果は彼女の約3万勝ち。

 

「まったく、レーリにはかなわんわ。これでもアタシ元プロよ?」

 

「運が良かっただけです」

 

彼女は謙遜してカードをまとめる。

 

「…感覚は変わってないみたいだね」

 

「…」

 

彼女の動きが一瞬止まる。

 

「気を付けなよ。金銭感覚もだけど勝負勘が鈍ったら、待ってるのは破滅だからな」

 

「…肝に銘じておきます」

 

彼女は静かに答えた。

 

「ま、アンタのことはあんまり心配はしてないけどね」

 

「そうですか」

 

彼女は少し微笑み、席を立つ。

 

「そんじゃあまたな。夜道には注意しなよ」

 

「はい、ではまた」

 

彼女は店を後にした。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「…むずい」

 

桜は赤石に教えてもらいながら覚えようとしているが、理解には程遠い。

 

「1日で何とかなるようなもんじゃねえからな。今日はもう仕舞いだ」

 

桜はカードテキストを何度も読み直している。

 

「カード持っていっていい?」

 

「ああ。好きなだけ持っていけ」

 

赤石は明日の学校の準備をする。

 

「じゃあ、これだけもらってく」

 

桜は60枚程手に取り、

 

「おやすみ、兄貴」

 

「おやすみ」

 

自分の部屋へと帰った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。