「おい、鈴瀬いるか?」
赤石が彼女の所属してるクラスの扉を開けた途端、好奇の視線が集中する。
「ここにいます」
赤石は返事をした彼女の方へと視線を向ける。
「話がある。ちょっと来てくれねえか?」
「はい」
彼女は席を立ち、赤石と共に人気の無い所へと去った。
「今のって赤石先輩だよな?」
「鈴瀬に何の用があるんだろ。まさか告白とか!?」
「えっ!嘘っ!?麗梨に赤石先輩とられちゃうの!?」
「そういやこの前あの2人デュエルしてたよな?」
「でも美男美女で似合ってるよなあ」
2人が去った教室では様々な憶測が飛び交う。
(れーりちゃんに何の用なんだろ?)
瑞希や綾芽も教室を去る彼女の姿を見つめていた。
ーーー校内、とある場所
「悪いな、他の奴には聞かれたくねえんだ」
周囲に人がいないことを確認すると赤石は足を止めた。
「話とは何でしょうか?」
足を止めたのを確認して彼女は赤石に問う。
「実はな…」
赤石は黒川との通話の内容やそれらに関連することを話し始めた。
「パートナーですか」
「ああ。頼めるか?」
「いいですよ」
「そうか、やっぱ…あ?いいのか?」
彼女の表情を変えないままの即答に赤石は思わずきき返す。
「はい、わたしで良ければ」
「そうか…よろしく頼む」
それを聞いた赤石は彼女に不器用な微笑みを見せた。言葉は少なくても意思はお互いに伝わったであろう。
その後2人は連絡先を交換して、教室へと戻った。
ーーーその日の夜
赤石にメールが着信する。
from麗梨
「こんばんは。あの、土曜日朝から行けますか?」
to赤石
「朝から?何か用でもあるのか?」
from麗梨
「鶸櫨を散策してみたいです」
目的の場所、鶸櫨会館がある鶸櫨は県内1の繁華街である。赤石は何度か訪れたことはあるが、彼女は今回のデュエルで初めて赴く場所だ。
(俺も鶸櫨は久々だし、散策ついでに何か買っていくか)
to赤石
「ああ、それなら10時に桐縹駅前でどうだ?」
from麗梨
「ありがとうございます。ではそれでお願いします」
赤石は「了解」と返信をして携帯電話をポケットに仕舞う。
(土曜は早く起きるか)
ーーーそして土曜日、朝
「兄貴、おはよ」
寝ぼけ眼の桜が朝食の準備をしている赤石に挨拶する。
正確に言うと赤石はもう食べ終わっており、洗い物をしながら桜の分を作り終えたところだ。
「おはよう。朝食置いとくからな」
「今日は早いね。…もしかしてデュエル?」
「ああ」
いつもの赤石の返事だが今日はどこか桜には素っ気なく感じられた。
「…」
桜は心配そうに赤石を見つめる。
「心配すんな。俺を信じろ」
「あの、無事に、帰ってきて」
桜はぎこちなくも自分の思いを口にする。
桜にとってはお金や勝つことよりも、兄が無事に帰って来ることの方が大切である。言うまでもなく勝って稼いでくれば、それが最良だ。
出来ることなら危ない勝負はしないで欲しい。しかし、そうもいかない事情がある。だから桜は自分の思いを伝えるだけ。
もちろん、赤石も桜のそんな気持ちを理解している。
「ああ」
赤石は寝起きで乱れた桜の頭を軽く撫でると、
「行ってくる」
戦場へと向けて出発した。
ーーー同時刻
(準備はできた)
(あとはわたし自身だけ)
彼女はすーっと息を整えると
(そろそろ、行こう)
戦場へと向けて出発した。
ーーー桐縹駅前
(9時45分か)
赤石は時間を確認する。予定時刻の15分前に到着したようだ。
(見つけやすい所に立っとくか)
数分後、メールが着信する。
from麗梨
「つきました」
赤石がメールを見て間も無く、
「赤石先輩」
後方から自分を呼ぶ声がした。
「おお、来たか」
赤石は声のする方へと振り向く。
声の主を見て赤石は目を細めた。
「…誰だ?」
「わたしです」
「そうだろうな」
赤石は彼女だと確信していたが一応尋ねる。赤石が初めて見る彼女の姿。
長い髪を短く見せるようにくくり、帽子をかぶり度の入ってない眼鏡をかけ、顔には薄く化粧が施されている、学校に通う彼女とはまるで別人のようだ。
「戦いに赴く時は、いつもこの格好です」
「そうか。変装としちゃ弱いな、見た目は変わってもそれ以外は同じだ」
「生徒のわたしと同じじゃなければそれで構いません」
(本当、言い回しが独特だな、俺は嫌いじゃないが)
「まあ、私服として見れば俺は良いと思うぞ。似合ってる」
「ありがとうございます」
彼女は小さく顔を綻ばせた。
(学校の奴らにバレなきゃそれでいいみてえだし、俺が気にしたってしゃあねえか)
「行くか」
「はい」
2人は電車に乗り、鶸櫨へと向かった。
ーーー電車内
彼女は窓際の席に座り、流れる風景を眺めている。
「なあ、鈴…」
彼女の隣に座っている赤石が何かを言いかけて止まる。
(そういや名前で呼んでいいのか?)
「レイリって呼んでください」
彼女は赤石の考えを読んでるかのように要望する。
「…鈴瀬じゃなくてか?」
赤石は二重の意味で問う。
「はい、レイリって呼んで欲しいです。親しみを込めて」
彼女も質問の意図を理解して返答する。
「…レイリ」
「はい、何でしょう?」
「腹減ってねえか?」
「朝ごはん食べてきたので大丈夫です」
「そうか」
「お昼ごはん楽しみです」
「何か食いたいもんあるか?」
「赤石先輩おすすめのお店で食べたいです」
「じゃあ俺の知ってる店にするか」
「はい、ぜひ」
彼女は笑みを浮かべ答えた。
やがて電車は鶸櫨へと到着する。
「人が多いからな、気をつけろよ」
「はい」
彼女と赤石の1日が始まった。