昼食後、2人が向かったのはファッション街。
「なんだか、洗練されてますね。こちらでは見ない服ばかりです」
彼女は各店頭に並べられた衣服を見て感想を述べる。
「有名ブランド物は値段も張るな」
「わたし、服はブランドより機能性重視です」
「同意見だ」
特に何かを買うということは無かったが、様々な衣服を見て回ったので、ファッション街を通り過ぎた頃には昼食後から既に1時間半ほど経過していた。
「見るだけで良かったのか?」
「はい、見るだけでも楽しかったです」
「そういうもんか?」
「そういうもんです」
その後しばらく歩き、2人は道中目に付いたスポーツアミューズメント施設に入る。
ビリヤード、ダーツ、ボウリングの他にもバッティングセンター等があり、時間内ならそれらで自由に遊ぶことができる。
赤石は一通りプレイしたことはあるが、彼女はどの競技も未経験であった。
まず2人は手近にあったバッティングセンターのコーナーに入る。
「その服装で打てるか?」
赤石は打席を選ぼうとする彼女に問う。
「動きやすいので大丈夫です」
「一応打席入る前に軽く素振りしな、ケガするぞ」
「はい」
赤石の忠告で、彼女は軽く素振りを始めた。
(体もあたたかくなりましたので、軟式時速100キロ、やってみます)
彼女はボタンを押し打席に入った。
1球目は、まず見逃す。
(結構速いです)
2球目は空振り、3球目も空振り。
「球を良く見て、叩くように振ってみな」
赤石が後ろからアドバイスをする。
4球目、バットに当たるがボールは後ろへ飛びファール。
(あ、こんな感じかな)
5球目、バットの芯で捉えた打球はセンター方向へヒット性の当たり。
(当たると、気持ちいいです)
彼女は小さく笑みを浮かべる。
「上手いな、その調子だ」
(さすがの飲み込みの早さだな。さて、俺も打つか)
赤石は軽く素振りをし、硬式時速140キロの球が来る打席へと入る。
彼女同様、1球目は見逃す。
(久々に見ると速いな…だが)
2球目、赤石がバットを振りぬくと強烈な打球がセンター方向へと飛んだ。
(真っ直ぐだとわかってるなら、当てるのはさほど難しくねえ)
捉えた部分が若干バットの根元寄りだったため、赤石の手に少々の痺れが走る。
(芯に当てるのはまだまだだな)
赤石はバットを握った手に視線を落とし苦笑いをした。
「赤石先輩」
赤石が打っている途中、先に打ち終えた彼女が後ろから声をかけた。
「あ?」
「ホームランの看板に当てたら晩ごはんおごります。当てなくても特にありません」
「いきなりだな…この打席中にか?」
「はい」
この時点で赤石は残りあと5球、ホームランの看板は小さく、140キロの速球をピンポイントに狙い当てるのは至難の技である。
結果はというと、惜しい当たりが1球あっただけ。
「ホームラン見たかったです」
「おごってもらえねえのは残念だ」
(俺の実力じゃあれは当たる気がしねえ…100球やっても1球当たるかどうかってレベルだったな)
会話を交えながら少し歩いた後、2人はボウリングのフロアに来ていた。
彼女は赤石が選んだボールと同じ重さの物を手に取る。
「球、重いです」
「15は重いだろうよ…9か10ポンドあたりにしときな」
「そうします」
彼女は10ポンドのボールを手に取る。
(まだちょっと重い気がします。でも、これでいきます)
2人は靴を履き替え、指定のレーンへとボールと荷物を持ち運んだ。
「力を抜いて真っ直ぐ投げる」
「はい」
彼女は赤石から適宜アドバイスを受けて投げていた。
ここまで赤石は2連続ストライク、対して彼女はまだ1本も倒していない。現在彼女の3フレーム2投目。
(ちからぬいて、まっすぐ)
彼女の放ったボールはゆっくりと真っ直ぐ転がって行き、1番ピンを捉え計7本のピンが倒れる。
「当たりました。こんな感じですか?」
「ああ、そんな感じだ。慣れてきたらもう少し速く投げるといい」
「はい」
そして7フレーム目、彼女の放ったボールはある程度の速度を維持しながら1番ピンを捉え、全てのピンが倒れる。
「おお、ストライクだ」
(わーい全消し)
彼女は小さく笑みを浮かべる。
「気持ちいいですね」
「そうだな。連続だともっと気持ちいいぞ」
「気持ち良さそうで羨ましいです」
赤石はここまで6連続ストライクを出している。続いて赤石の7フレーム目。
「…あ」
手元が狂い、赤石は思わず声に出る。ボールが想定より曲がらず、1番ピンを外しながら7本のピンを倒す。7連続ストライクとはならなかった。
(あ、トライアングルです。むずかしそう)
彼女は残ったピンの位置を見て赤石に声をかける。
「赤石先輩、リベンジです」
「あ?」
「この形、全部倒したら晩ごはんおごります。倒さなくても特にありません」
「ほう?」
残ったピンは1番、7番、10番の3本。両端後ろと一番前だ。一発勝負でこれらを全部倒すのは至難の技である。
結果はというと、惜しくもピンが1本残ってしまった。
「スペア見たかったです」
「ああ残念だ」
(もう少し右だったか…1回きりは厳しかったな)
「鶸櫨公園の方まで来たか」
「せっかくなので、ちょっと休憩しませんか?」
「そうだな」
スポーツアミューズメント施設を後にした2人は、鶸櫨と隣町の境界を跨ぐ公園へと足を踏み入れた。
都会と田舎の中間地点といった趣きで、全体的な規模は大きいもののきちんと整備されており緑溢れる公園となっている。
2人はそんな公園の無数にあるベンチのひとつに腰かけた。
「ぽかぽかして気持ちいいです」
「晴れてるし、気温も丁度良いくらいだな」
そのまま特に会話も無く、2人はうららかな天気に身を任せリラックスする。聴こえるのは噴水と風に靡く草や木葉の音。
座り始めてから5分も経たないうちに、赤石は自分の左肩から腕にかけて何かに乗られてるような感触に気付く。
(おいおい…)
感触のある左の方を見ると、彼女が赤石に寄りかかっていた。
彼女はすーすーと寝息を立てている。
(朝から動き回ったとはいえ、この状況でよく眠れるな…)
赤石は近くに迫った彼女の顔へと視線を落とす。
しかし思った以上に迫っていたため、慌てて前方へと視線を戻した。
(ついこの間負かした奴に体を委ね、寝顔を見せるとはな。敵わねえ)
赤石はこの状況で眠る彼女に対し、自身が彼女に負けた理由を感じ取ると同時に、彼女を今回のパートナーに選んで良かったと今更ながら思った。
彼女は寄りかかったまま「…ん」と声を上げた。
「起きたか」
「あ…おはようございます」
「ああ、おはよう」
「すみません、ぽかぽかと心地良かったもので…」
「気にするな」
「どのくらい、寝てました?」
「20分くらいだ」
「そのあいだ、支えてくれてたんですね。ありがとうございます」
彼女は体勢を戻す。
「…ああ。レイリ、紅茶は好きか?」
赤石は照れ隠しなのか小声で返し、話題を変えた。
「はい、好きです」
「近くに紅茶のうまい店があるんだが、行くか?」
「はい、行きましょう」
午後3時を回った頃、2人はティータイムへと突入した。