可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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4話 ♯13「散策します・3」

ーーー喫茶店

 

 

 

「どうだ?」

 

「…おいしいです、とても」

 

彼女は紅茶を一口啜って、味わうように飲み込み感想を述べる。

相当美味しかったのか、一瞬目を見開いた後カップへと視線を落とした。

 

「海外の高級茶葉を独自にアレンジしたものらしい。詳しくはわからんが」

 

「こんなにおいしい紅茶、はじめて飲みました」

 

「口に合ったようで何よりだ」

 

彼女はお茶菓子として注文したクッキーを口に運ぶ。

 

「クッキーもおいしいです」

 

彼女は美味しそうに頬張る。

 

「…何つうか、甘いもの好きか?」

 

「はい、大好きです」

 

「そうか」

 

「?」

 

「ああ、別に意味は無えよ。そう思っただけだ」

 

赤石は紅茶を啜ると再び口を開く。

 

「俺には妹が1人いるんだけどな、そいつも甘いもの好きでよく自分で作ったりしてんだ」

 

「そんで、食ってる時は同じような顔になる」

 

「好きなものを食べてる時って、しあわせです」

 

「レイリはお菓子とか自分で作ったりするのか?」

 

「いえ、わたしは作ることができないので買ってます」

 

「そうか」

 

「でも手作りお菓子には、あこがれてます」

 

「レイリならうまく作りそうだな」

 

「お味のほうですか?」

 

(味…『うまく』ってことか)

 

「あー、両方の意味で受け取ってくれ」

 

不意をつくような質問だったが、赤石は頭を働かせ答える。

 

「あの、お菓子作ったら、食べてくださいね」

 

「ああ」

 

赤石は幾分か優しげな声で了承した。

 

 

 

喫茶店でしばらくゆっくりした後、2人は鶸櫨市役所に来ていた。

もちろん公的な手続きをしに来たわけではない。目当ては市役所の最上階に一般開放されている展望スペース。

 

「知ってる限りじゃここは鶸櫨で一番高い建物だ。まあ他の建物も全体的に高えんだけどな」

 

最上階の通路を歩きながら赤石が説明する。通路はぐるんと1周でき、あらゆる方向から町を見下ろすことが可能だ。

 

「36階ですってアナウンスにときめきました」

 

「そう何度も耳にする言葉じゃねえよな」

 

ここに来た理由、彼女はじっくりとそれを見つめる。

 

「ゆうひ、うつくしいです」

 

「そうだな」

 

喫茶店から出た後、町には夕日が差し込んでいた。

橙色に染まった町並みを高い所から見つめたい、赤石はそんな彼女の要望に応えるべく市役所へと案内したのである。

 

「赤石先輩」

 

夕日を見つめたまま赤石の名を呼ぶ。

 

「あ?」

 

「手を、つないでください」

 

「な…!」

 

驚く赤石を横目に彼女は手を差し出す。

 

「…だめ、ですか?」

 

彼女は少し悲しそうな目をする。

 

「…いや、驚いただけだ」

 

(その目は反則だろ…)

 

赤石は差し出された手をおそるおそる握った。

彼女もゆっくりと握り返す。

 

「あたたかいですね」

 

「…そうか」

 

赤石はどこか照れくさそうだ。

 

(考えが読めねえが…まあ、いいか)

 

 

 

2人は夕日を見つめている。手を繋ぎながら。

 

赤石がふと横目で彼女の顔を見た。

 

夕日を見つめる1人の少女。

メガネ越しにもはっきりとわかる全てを見通しそうなほど透き通ったその目は、強くもあり儚くもあり、何よりその刹那、溶けてしまいそうなほどに脆そうな目をしていた。

 

(…なんて顔してやがる)

 

そんな目を捉えた赤石に、えも言われぬ感情が湧き上がってくる。感情の正体や彼女が何を考えてるかはわからないが、その目を濁らせてはいけない、ただそう思った。

 

 

 

「赤石先輩」

 

彼女は手を繋いだまま体を赤石の方へと向ける。日は暮れかけて夜の風景へと近づいて行く。

 

「あ?」

 

繋いだ手に視線を移し、

 

「わたしは赤石先輩の、この手を信じます。なので赤石先輩もわたしの手を信じてください」

 

しっかりと手を握り直した。

 

「ああ」

 

赤石も真剣な表情で頷く。

 

「おおきくて、つよい手ですね」

 

「ゴツくて握るのには向いてねえだろ?」

 

数々の男たちと語り合ってきたであろうその手は、繊細で儚さを帯びている彼女の手とは対照的だった。

 

「いえ、わたしの手をしっかりと包み込んで、つよさの中に優しさを感じます。すてきな手です」

 

「!…っ」

 

彼女がそう言った瞬間、赤石は手を離し背を向ける。

 

「そんな褒め方するんじゃねえ。…時間だ、そろそろ行くぞ」

 

赤石は背を向けたまま歩き出し、

 

「はい」

 

彼女もそれについて行く。

 

「…すげえな、本当に」

 

赤石はポツリと彼女に聞こえないように零した。

 

 

 

市役所を出て、赤石の案内で2人は小さな飲食店に来ていた。

 

「前に鶸櫨行った時に偶然見つけてな」

 

2人を挟んでテーブルの中心には鍋が1つ。

 

「ちゃんこ鍋は、予想外でした」

 

「もしかして苦手だったか?」

 

「いえ、好きですよ。楽しみです」

 

「そうか。ここのちゃんこ鍋は野菜が多く鶏肉に魚と栄養バランスが優れてる上に消化にも良くてな、戦いの前には打ってつけだ。もちろん味も申し分ねえぞ」

 

さらに言えば今回の戦場である鶸櫨会館にも近い。

 

「このあとのことも考えてくれてたんですね、ありがとうございます。しっかり食べて備えます」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「ごっつぁんです」

 

「ぷっ、似合わねえな」

 

「む…言ってみただけ」

 

「気持ちはわかる。ほら、もう食えるぞ」

 

「はい、いただきます」

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