可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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4話 ♯14「意味を持たせる意味もある」

「結構食ったな」

 

赤石は食事を終え一息つく。

 

「ごちそうさまです」

 

赤石は試すように彼女の様子を窺う。

 

「?」

 

「…言わねえのか?」

 

「にあわねーな、って返されるので」

 

彼女の返答に赤石は軽く笑って返す。

 

「赤石先輩」

 

「あ?」

 

彼女は閉じた両手をテーブルの手前ギリギリにちょこんと置く。

 

「どちらかの手に、おしぼりを握ってます。当てたらおごります」

 

「ほう」

 

「はずしたら、おごってください」

 

彼女はどこか挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「今回はリスク付きか、いいだろう」

 

赤石は彼女のギャンブルに乗った。

 

(見た感じ、どちらの手も同じだ。純粋に2分の1か?)

 

(なら、勘で選んーーー)

 

その瞬間、赤石は自分のおしぼりがテーブルから消えていることに気付く。

 

(あ?どこにいった?)

 

自分の周りを見てみるが、見当たらない。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、何でもねえ」

 

赤石はおしぼりが消えたのは彼女の仕業だと考える。

 

(だが、それに何の意味がある?おしぼりが1枚あればこのゲームは成り立つはずだ。ということは)

 

再び周りを見る。今度は彼女の周りも。

 

(…ん?)

 

赤石は彼女の右手、指の間から微かに白い布のようなものが下の方へと垂れているのを発見する。

 

(テーブルで隠れてほとんど見えねえが…あれは間違い無くこの店のおしぼりだ)

 

彼女の手の大きさでは片手でおしぼりを包み込めない。だから手の位置をテーブルの手前ギリギリのところにした。もしはみ出たとしても隠せるから。

 

赤石はまずそう考えたが、そうだとしても赤石のおしぼりは特に関係が無い。それに彼女の手でも深く握れば難なく包み込める大きさだ。

 

(そもそもこっちから見えてるってことは、角度を考慮してもそっちからでも見えてるはずだ。それともギリギリそっちからは見えてねえのか?)

 

(いや、レイリのことだ、見えてることに気付いてるはず。気付いてるなら何故隠さねえんだ?)

 

消えた赤石のおしぼりと指の間から垂れているおしぼり、その2つが意味するものは、

 

 

 

(わざと見せてるな…確かにそこは隠してるように見せかけられる、絶妙な手の位置だ)

 

(おしぼりを『握ってる』方を当てるっていうのも引っかかる。握らなくても手の中にあるように思い込ませることは出来るからな)

 

(つまり見せてる右手には『握ってない』。指で挟んでテーブルに隠れるよう垂らしてるだけで、本当に握ってるのは左手、消えた俺のおしぼりの方だ!)

 

「左だ。その手に握られてる」

 

赤石は確信を持って選択した。

 

 

 

「…見えてる方を、選ばなかったんですね」

 

彼女は少々間を取った後、口を開いた。

 

「ああ。さあ開けてくれ」

 

「わかりました」

 

彼女はゆっくりと左手を開ける。

 

「…!?」

 

赤石は大きく目を見開く。

 

そこにおしぼりは無かった。

 

「右、か…?」

 

彼女はゆっくりと右手を赤石の前に差し出し、そのまま手を開けた。

 

「…そうか」

 

彼女の右手に握られていたおしぼりを見て、赤石は外したことを自覚した。

 

 

 

彼女はわずかに指の間からはみ出たおしぼりと、消えたおしぼりからトリックを見抜いてくると信じていた。赤石ならどちらも見逃さないだろうと。安易に見えてる方へ飛びつかず、そして辿り着くだろうと。

 

見抜いてくると信じた上で『握っていた』。赤石のおしぼりは意味を持たせるためのフェイク。握ってるという言い方も同様に、辿り着かせるための罠。赤石も選択前の段階でさすがにそこまでは見抜けなかったようだ。

 

「ちくしょう、レイリの方が1枚上手だったか」

 

「ごっつぁんです」

 

「はは、しゃあねえな」

 

外したものの、赤石はどこかすっきりしたような表情だった。

 

 

 

「そんで、俺のおしぼりはどこだ?」

 

「握ってます」

 

「それ俺のかよ!」

 

「わたしのは、ひざに乗せてました」

 

彼女はテーブルの下からおしぼりを取り出す。

 

「店出る前に手洗っとけよ」

 

おしぼりに関して付け加えておくと、赤石はテーブルを1回拭くのに使用しただけだ。

 

「はい」

 

その後、彼女は手を洗い店を後にした。

 

 

 

2人は鶸櫨会館へと向かっている。時刻は現在19時40分。

 

お互い顔に緩みは無い。徐々に緊張感も高まりつつあるようだ。

 

「夜の鶸櫨もいいですね」

 

「そうだな」

 

無数の電灯に照らされた夜の街並みは、日中とはまた違った趣きを醸し出していた。

 

「赤石先輩」

 

「あ?」

 

「わたしをパートナーにしたこと、後悔してませんか?足をひっぱるかもしれませんよ?」

 

「今更何言ってやがる、むしろ俺が足を引っ張らねえか心配だ」

 

表情こそ変えないものの、心持ちはお互い勝負師へと変わって行く。

 

「レイリで良かったと思ってるさ。今の時点では」

 

「わたしも赤石先輩で良かったと思ってますし、思いたいです」

 

彼女も赤石も含みある言葉を交わす。それぞれ胸に秘めてるものがあるのだろう。

 

しかし両者の目的はただ1つ、勝利すること。他のことを考えるのは勝ってから。

 

 

 

「ここだ」

 

19時50分、鶸櫨会館へと到着する。

 

「大きな建物ですね」

 

「そうだな。準備はいいか?」

 

「はい。いつでもどうぞ」

 

彼女の言葉で赤石は扉を開ける。2人は本日最後にして最大のメインイベントへと足を踏み入れた。

 

 

 

【第4話 終】

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