ーーー
「…3戦目の鈴瀬さんの1ターン目、オレは違和感を覚えタ。あの時オレは考えた割にはモンスターのセットだけだったから、と思ったが本当は違っタ」
「右手で手札を持ってたんダ」
「右手?」
「そうダ。鈴瀬さんは1戦目と2戦目、手札は左手で持っていタ。だが3戦目は右手で持っていタ。何故だかわかるカ?」
「何故って言われても…あ!?そうか!」
(空いてる左手で送り込みやすくするためかっ…!)
「じゃあまさか最初から…!?」
「赤石君を信頼していたんだろうナ。おそらくこのデュエルは長期戦になる、そうなればオレたちがイカサマをする、1度は許すかもしれないが2度目は赤石君が阻止してくれる、その間に自分は《不運なリポート》を送り込んで《不意打ち又佐》を手札に加える、そして1ターンで仕留める…デュエルが始まる前からこういう結末を迎えることを読んでいたのかもしれないナ」
「…」
柳沢は言葉を失う。
「あくまで仮説だがナ」
「…でもそうとしか考えられねぇよ、何なんだよあいつは…凄過ぎるだろ」
「確かに凄いが、オレが本当に凄いと思ったのは別の部分ダ」
「別の部分…?」
「そうダ。それが例の、送り込んだ先が何故デッキの1番下だったのかということダ」
ーーー
「そういや何でデッキの1番下に送ったんだ?」
赤石はまだ解消しきれていない疑問をぶつける。
「あの時と同じ、4分の1だったからです」
「あの時?4分の1?」
赤石は彼女の答えともいえない答えに思考を回転させる。
ーーー
「わたしの《ランス・リンドブルム》であなたの《ランス・リンドブルム》に攻撃します」
「罠発動」
ーーー
赤石は記憶に新しい彼女とのデュエルを思い出す。
(!…待てよ、確かあの時は)
中止になる直前の事実上のラストターン、赤石のフィールドには4枚の罠カードがセットされていた。
そして発動されたカードは《邪神の大災害》、4枚の中では唯一彼女に勝利をもたらすことの出来るカードだった。
「ああ、4分の1だったな」
「はい」
「…まさか、それだけの理由でか!?」
「はい」
彼女はいたずらっぽく笑みを浮かべ答えた。
ーーー
「イカサマが阻止されたオレのターン、つまり鈴瀬さんが送り込んだターンだナ。あのターンから1周して次のオレのターンのドロー前、オレのデッキは残り4枚で赤石君のデッキは残り3枚」
「鈴瀬さんはここでオレが《首領・ザルーグ》を引くことに賭けタ」
「賭けた?」
「そうダ。さらに言えば《不意打ち又佐》を墓地に送るために、引いた《首領・ザルーグ》を召喚し、赤石君に攻撃し、赤石君のデッキの上から2枚墓地に送る効果を選択することニ」
「!…引いたのは偶然じゃねぇのか!?」
「ああ偶然ダ。何も手を加えていなイ。オレ自身いいカードを引いたと思ったくらいだしナ」
「あいつ顔色ひとつ変えずにそんな決断してやがったのか…!」
「大金かかった勝負で、これは中々出来ないヨ」
いざ運試しとなった時の決断力、ヘズが本当に凄いと思った別の部分だ。当然だが決断するに至ったシンプルな理由を2人は知る由もない。
「柳沢、鈴瀬さんとデュエルしたことあるんだロ?」
「ああ」
「どう思っタ?」
「どう思ったって言われてもな…こう、何でそんな戦い方が出来るんだとは思ったな」
「…オレも似たような気持ちだナ。決して侮ってなんかいなかったし、オレはいつも通りのデュエルをしたつもりダ。単純にオレたちより上のデュエリストだったってことなんだろうナ」
「頭がキレるだけじゃない、ためらい無く運や直感に身を委ねることができる正真正銘の博徒ダ」
「300万は痛かったが久々に震えるようなデュエルだったヨ」
負けはしたもののヘズにとっては価値あるデュエルだったようで、その表情や声色はどこかすっきりとしていた。
「…ヘズはまだマシだ、俺なんか545万だぞ…」
対して柳沢は無念さを始めとした負の感情に包まれ、実にどんよりとした雰囲気を醸しだしている。
「まあ…相手が悪かったナ。でもまだ蓄えはあるだロ?」
「あるっちゃあるけどさぁ…さすがに545万はマジ痛ぇよ」
「元気出せヨ。おごってやるからさ、これから飲みに行こうゼ」
「ヘズ…」
柳沢はヘズの気遣いに感動したのか、徐々にその暗さが引いていく。
「…そうだな。鶸櫨に来たんだし」
「今日は飲み明かしてやらぁ畜生!」
(立ち直り早いネ、柳沢らしいナ)
「おい、言っとくが俺もあまり金持ってないからほどほどにしといてくれヨ」
「わかってるって!もう15分経っただろ?行こうぜ」
柳沢はすっかり元気を取り戻したようだ。
その後、柳沢とヘズは黒服に計600万円を渡し、夜の街へと繰り出して行った。
ーーー電車内
桐縹へと帰る電車の中、赤石は改めて今日のデュエルを振り返っていた。
(デュエルには勝ったが…)
赤石はどこか納得しきれていない様子だ。
(パートナー、か…)
今日のデュエルの勝利はパートナーである彼女のおかげだと赤石は思っていた。そう考えれば彼女をパートナーに選んだのは大正解であるが、同時に自分は彼女のパートナーとして務まっただろうかと少々不安になっていた。
「赤石先輩」
「あ?」
「わたしは赤石先輩がパートナーだから勝てた、と思ってます」
赤石の考えを読んだかのように彼女が口を開く。
「わたしじゃ手札入れ替えは防げませんでしたから…」
「そうだとしても、それだけじゃあレイリの活躍に見合ってねえと思うが…」
「そんなことないですよ、赤石先輩はわたしを信じてくれました」
「信じた?」
「はい。さいごまで、勝つことを」
彼女の言う通り赤石は最初から最後まで勝つことを信じていた。不利な【D】デッキの彼女にとってそれは非常に大きな力になった。
「信じてくれたからこそ、わたしも信じることができました」
「タッグデュエルで1番大切なのは、わたしはパートナーを信じる心だと思います」
彼女は今日のタッグデュエルを通して実感していた。信じる心こそが最終的に勝利を掴み取ることを。
「だから、赤石先輩がパートナーで良かったです」
彼女は今日1番の微笑みを見せた。その言葉に嘘偽りは無い。
「…そうか、ありがとな。俺もレイリがパートナーで良かったよ」
赤石も不器用ながらも笑みを浮かべて返した。
やがて電車は桐縹駅へと停車した。
ーーー
「帰ってきましたね」
「そうだな」
駅構内を出て彼女は、うーんと軽く体を伸ばす。
「もう夜遅いし送って行こうか?」
「はい、お願いします」
ーーーそして、彼女の家の前
「ありがとうございます。ここで大丈夫です」
彼女は家の前で足を止め、礼を述べる。
「ああ、じゃあまた学校で」
「あの、赤石先輩」
赤石の去り際、彼女が呼び止める。
「あ?」
「今日は楽しかったです。わたしで良ければ、また誘ってください」
「…ああ」
そう言い残し、彼女は自分の家へと帰っていった。
(レイリで、じゃなくてレイリが良いんだけどな)
遠ざかる彼女の背中に向かって赤石はそう言いかけたが、照れ臭さからか寸前で飲み込んだ。
(楽しかった、か…強いな)
赤石は今日共に過ごした彼女との時間を、どこか嬉しそうに振り返りながら帰路に着いた。
【第5話 終】