「それでは優勝インタビューです!」
観客席からは絶えず歓声が上がり続けている。
「まずは優勝おめでとうございます!今の率直な気持ちをお聞かせ下さい!」
アリーナ全体に興奮気味のインタビュアーの声が響く。
「ありがとうございます。このブロッサムカップに優勝できたことを大変嬉しく思います」
しかし向けられたマイクからは冷静な声が響き渡った。
そしてこの温度差が維持されたままインタビューは進み、
「次はどちらを目標にお考えですか?」
「次は鶸櫨記念を目標に考えてます」
「では最後にファンに向けて何か一言お願いします!」
「今日はご声援ありがとうございました。これからも応援よろしくお願いします」
「以上、今年のブロッサムカップ優勝者ーーー」
この瞬間、プツッと映像と音声が途切れた。
(鶸櫨記念ね…)
橡琥珀(ツルバミ コハク)は開いていたブラウザのウィンドウを閉じると、PCの電源を落とし座ったまま体を伸ばす。日曜日の午前10時のことである。
(…あ、図書館に本を返さないと)
机の端に積んでいた本を見て、ふと思い出す。忘れないうちに準備をして図書館へと向かった。
ーーー
同じく10時頃、朝食を終えた赤石はジャージに着替えて出かける準備をしていた。
「今日もその恰好で行くの?」
リビングにいた桜が若干呆れ気味に問う。
「ああ、どこかに寄るわけでもねえしな」
「昨日はオシャレしてたのに」
昨日、それは赤石が彼女と共に鶸櫨でタッグデュエルをした日。
「昨日はあれだ、都会で浮かないようにだな」
「兄貴、別にそういうの気にしない方じゃなかったか?」
「俺もたまには気にするさ」
「本当?」
桜は疑いの目で赤石の顔を見上げる。
「本当だって」
「…まーいいけどさ」
桜は赤石から視線を離し台所へと向かった。
赤石は基本的に人目をあまり気にしない。自分が正しいと思った方へと進む。もちろん無鉄砲ではなくしっかりと考えた上でだ。
そういう性質だからかファッションに関してもあまり興味は無く、服も多様には持ち合わせていない。
しかし昨日は特別だった。鶸櫨という場所もそうだが、何より隣に並んで歩く相手である彼女に見合うように、という思いが赤石を珍しく相応にお洒落な恰好にさせた。
多少なり自分をかっこ良く見せようという思いはあったものの、動機の大半が彼女のためを思ってというのが赤石らしくもあった。
「そんじゃあ行ってくるな」
「うん、行ってらっしゃい」
準備を終えた赤石は家を後にした。
(都会で浮かないように、ね…ったく嘘が下手なんだから)
桜は妹としてずっと赤石と過ごしてきた。赤石のことは誰よりもわかってるつもりだ。あまりお洒落な恰好をしないことも。だからこそ疑いの目を向けたわけだが。
もちろん嘘をつくのが上手でないこともわかっている。故に桜は昨日の赤石の恰好の意図をおおよそ把握していた。
(どんな女の子なんだろうな…)
(!…いやいや、兄貴がどんな女の子と遊ぼうがあたしには関係無いだろうが)
桜は自分に言い聞かせるように考えを振り払おうとする。
(そうだ、お昼ごはんの準備しないと)
桜は考えないようにして昼食の仕込みに取り掛かった。
ーーー
図書館へと向かう道中、対面から見知った顔が歩いて来る。向こうはまだ私(わたくし)に気付いていない。
「おはよう赤石君」
見知った顔に挨拶を送ると、私に気付いたようだ。
「ああ、橡(ツルバミ)か。おはよう」
「奇遇ね。そんな恰好でどこに行くのかしら?」
「トレーニングジムだ。体を鍛えるんだよ」
日曜日の朝からジャージ姿でジムへと向かうらしいこの男の名は赤石修哉、私のクラスメイトだ。授業態度は真面目で成績も良好、それだけなら学生として模範的であるが…しかしそれとは別に赤石君には問題点がある。
その風貌や口の利き方から不良生徒にしか見えないという点だ。事実、それらしき生徒たちと一緒にいるところをよく目撃するし、学校内外での悪い噂が絶えない。赤石君も噂を否定せずにいるのだから、生徒会長である私としては頭の痛い生徒である。
「そう、頑張ってね」
噂を信じているわけではないが、火の無い所に煙は立たないはず。あまり関わりを持たない方が良いとはわかっていても、立場上特定の生徒を蔑ろにするわけにもいかない。
「ああ、じゃあな」
ただ個人的には興味深い生徒の1人であったりもする。上手く言えないが、一般的な不良生徒とは明らかに一線を画するものを持っているように感じられるのだ。
高校生活3年目で初めて同じクラスになってからもう2か月、そろそろ赤石君のことを詳しく調べてみようかしら。
ーーー
(ここは壁になってるからこのマスは通って…)
(ループするように繋げて…)
(…解けた)
こちらも同じく10時頃、彼女はパズルを解いていた。
所持金はさらに増えたが、それに反して先週よりも幾分か落ち着いているようだ。
(難易度6、及第点)
彼女は解き終えるとシャープペンシルを置き、パズル本を閉じた。
(お昼ごはん、どうしようかな)