可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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6話 ♯2「勘違い」

ーーー

 

 

 

図書館へ入館すると再び見知った顔と遭遇した。

 

「おはよう小松さん」

 

「あ、おはようございます会長」

 

私と同じく生徒会に所属する小松綾芽である。私の2年後輩に当たり、クラスでは委員長も務めている。おとなしめで引っ込み思案なところはあるけれど、私は真面目で優秀な生徒だと思う。

 

「図書館で勉強?えらいわね」

 

テーブルには本や勉強道具が広げられている。なるほど、優秀なのには理由があるのね。

 

「え、えらくはないです…会長もお勉強ですか?」

 

「私は借りてた本を返却しに来ただけよ。小松さんは今日1日勉強の予定?」

 

「いえ、12時には帰ります」

 

「そう。良かったらお昼一緒にどうかしら?」

 

12時までと聞いて昼食を誘ってみる。家に帰れば食事は用意されてるが、たまには外食してみたい。小松さんとの親睦を深めることも兼ねて。

 

「お昼ですか?」

 

小松さんはそう言うとテーブルに目を向け考える仕草を見せる。

 

「一旦家に帰ってからでも宜しいですか?荷物を置きに…」

 

「ええ、いいわよ。希望の店はあるかしら?」

 

断られるかな、と思ったけど良かった。そうね、持ち物のこと考慮してあげないといけなかったわ。

 

「特には…会長のお好きなところでいいですよ」

 

「そう?じゃあーーー」

 

 

 

ーーー

 

 

 

(5…6…7…!8…!)

 

赤石は頭の中で数を数える。数えてるのはベンチプレスの回数。トレーニングジムは空調が効いているとはいえ、赤石の全身からは止め処なく汗が噴き出している。

 

「ぐおおっ…!」

 

負荷がきつくなってきたのか赤石の喉から声が漏れる。ここまで既にかなりの負荷をかけている。

 

「あと2回よ!気張りなさい!」

 

そう声を張り上げて赤石を支えながら気合を入れるのはジムのインストラクター。

 

(9…!)

 

「あと1回!」

 

「うおお…!」

 

 

 

(…10!)

 

「オッケー!3セットよく頑張ったわね」

 

「はあ…はあ…」

 

力を出し切った赤石はしばらく脱力した後、水分補給をしてベンチから立ち上がる。

 

「今日はここまでね。汗を拭いて、最後にストレッチよ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

綾芽は荷物を置くため一旦帰宅していた。

 

(ふう、待ち合わせには…まだ余裕あるかな)

 

時間を確認し一息つく。

 

(でも意外だったな、会長にしては庶民的っていうのかな…?)

 

(あ、そういえば私も初めてかも…ちょっと調べておこうかな)

 

電源が入ったままのPCを操作し、この後行くであろう店について調べる。

 

(なるほど…こういう仕組みなんですね)

 

綾芽は一通り理解すると、PCをスリープにして出発した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

図書館で読書していると、約束の時間が近付いて来る。

 

(そろそろかしら)

 

時間を確認し待ち合わせ場所までどのくらい歩くかを計算したところ、ちょうど良い時間に到着するという結果になった。

 

読んでいた本を棚に戻して、そのまま図書館を出る。楽しみだわ、どんなお店なのかしら。

 

 

 

数分後、待ち合わせ場所へと向かう途中、今朝見たジャージ姿を発見する。

 

(あら、またですの?トレーニングは終わったのかしら?)

 

後ろ姿でよく見えないが、道端にしゃがんで何かをしているようだ。狭い道だからか周囲に人の姿は無い。

 

近付いて覗きこんで見ると、赤石君が小さな女の子に覆い被さって…

 

 

 

…!?

 

「あ、赤石君何してるの!?」

 

あまりの光景に一瞬理解が遅れた。そんな…不良生徒だけどそういうことはしない人だと思ってたのに!

 

「あ?」

 

赤石君は平然とした顔で振り返る。何なのこの態度!許さない!

 

「見損なったわこの痴漢!こんな小さい子相手…え?」

 

言葉を止める。どうもおかしい。

 

「ありがとうございます、おにーさん」

 

「礼なんかいいって」

 

赤石君は優しそうな声で答えている。女の子の方も深々と頭を下げて、到底痴漢に対するそれとは思えない。

 

(自転車…?)

 

赤石君の影になっていて見えなかったが自転車が1台横たわっていた。色合いやサイズからその女の子のものと推測できる。

 

「乗れるか?」

 

「うん」

 

赤石君が自転車を起こし、女の子がゆっくりと跨る。この辺りで私は薄々気付く、とんでもない勘違いをしてるんじゃないか、と…

 

「ばいばい、おにーさん」

 

「ああ。気を付けろよ」

 

女の子はペダルを漕ぎ去っていった。やっぱり!ああ、私ったらなんて勘違いを…!

 

 

 

「あの、赤石君…」

 

赤石君はこちらに振り返る。怒ってるかしら?…聞こえてたはずよね。

 

「痴漢呼ばわりとは心外だな」

 

ああ、聞こえてた…けれど、そんなに怒ってはいない?

 

「ごめんなさい、私の早とちりでした、撤回します」

 

素直に頭を下げる。私は申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいだった。

 

「ああ、別にいい。あんま気にすんな」

 

赤石君はそう言って穏やかな表情を見せる。

 

「本当にごめんなさい」

 

「だからいいって」

 

赤石君は優しい。もし逆の立場だったら私は怒りに身を任せ、詰ってたかもしれない。

 

 

 

「あ、会長?」

 

気まずそうにしている私に、後ろから聞き覚えのある声がかかる。

 

「こ、小松さん…?」

 

集合場所に向かう途中であったろう小松さんと微妙なタイミングで遭遇する。

 

「奇遇ですね。会長も向かうところですか?」

 

「え、ええ。そうね…」

 

小松さんは赤石君へと視線を移す。

 

「…えっと、赤石さんですか?」

 

「ああ。確かお前は、レイリとのデュエルの時にいた…」

 

「はい、小松綾芽です。その時以来ですね」

 

2人の様子を見る限り初対面というわけでは無さそうだ。

 

 

 

(…うん?今赤石君確か『レイリ』って)

 

私は赤石君の言葉を聞き逃さなかった。レイリこと鈴瀬麗梨、赤石君ほどではないがよく生徒たちが話題にしてるのを耳にする。なんでも、すこぶる美少女だとか。私は実物をまだ間近で見たことないが。

 

「ねえ、赤石君」

 

「あ?」

 

私はその名前を聞いて、つい最近、一瞬にして学校中を駆け巡ったある噂を思い出す。

 

「鈴瀬さんと100万賭けてデュエルしたって本当なの?」

 

「ああ。本当だ」

 

赤石君はためらいなく答えた。

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