可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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6話 ♯4「挑戦」

ーーー

 

 

 

彼女が玄関のドアの施錠を終えて歩き出そうとした時、

 

「こんにちは」

 

齢50程の女性と遭遇し、彼女は挨拶する。

 

「おや麗梨ちゃん。お出かけかい?」

 

「はい、お買いものです」

 

この女性は彼女の住むアパートの管理人兼オーナー、すなわち大家である。謎多き彼女の事情を知る数少ない人物でもある。

 

「そうかい。気を付けて行くんだよ」

 

大家はいつもと変わらず柔和な表情で送り出す。

 

「はい、いってきます」

 

彼女はアパートの階段を下りて行った。

 

彼女は現在、この2階建ての古びたアパートに住んでいる。諸々の事情もあり立地の割には家賃が安く、入居しているのは主に所得の低い者、あるいは何かしら事情を抱える者たちである。

 

穏やかで優しそうな顔をした大家もそんな人たちと同じく、何らかの複雑な事情を抱えているかもしれない。彼女にしろ、人というのは見かけによらないものなのだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

綾芽と琥珀は先程の食事を振り返りながら歩く。

 

「値段の割には味はそこそこ良かったですわね」

 

「そうですね、時間が無い時にはいいかもしれませんね」

 

言葉とは裏腹に2人の表情は芳しくない。不良生徒たちに絡まれたというのもあるが、店の雰囲気に自分たちが合わなかったというのが1番だろう。

 

(これも経験ですわね)

 

「小松さん、午後の予定は何かあるのかしら?」

 

「特には、ありませんね。会長のご予定は?」

 

「私はーーー」

 

琥珀が言いかけた瞬間、綾芽がとある人物を見つけ声を上げる。

 

 

 

「あ、麗梨さん…?」

 

彼女は綾芽の声に反応し、振り返って立ち止まった。

 

「綾芽」

 

「奇遇ですね」

 

(え?麗梨さん…って、もしかして鈴瀬さん!?)

 

琥珀は瞬きしながら彼女の顔を確かめる。

 

「鈴瀬麗梨です。はじめまして、生徒会長さん」

 

彼女はその視線に答えるように挨拶をした。

 

 

 

ーーー同じ頃

 

 

 

「そうか、やはり勝ったか」

 

黒川はとある建物の一室で通話していた。周囲には誰も居ない。

 

「はい。黒川さんの予想した通りの結果になりました」

 

通話の相手は昨日のタッグデュエルで審判を務めた黒服だ。

 

「それにしても、あの娘は一体何者なんです?赤石の方は以前から知ってましたが…」

 

彼女のデュエルは黒服に強烈な印象を与えていた。それは黒服が初めて赤石のデュエルを見た時より何倍もの大きな衝撃だった。

 

「本人いわく、どこにでもいるただのデュエリストだそうだ」

 

要領を得ない答えに黒服は電話越しに「はあ…」と声を漏らす。

 

「ま、今は俺の仕事仲間さ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「お待たせしました。カレードリアセットです。ごゆっくりどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

綾芽の提案で3人は駅前のファミレスに来ていた。

 

まだ昼食を摂っていない彼女と、昼食を済ませたばかりの自分たち。どちらにも対応できるように綾芽はこの場所を提案したのである。

 

(さっきのお店よりは、ゆっくり出来そうね)

 

ちなみにファミレスというものも琥珀にとっては初めてである。故にまだどこか落ち着いていない様子だ。

 

「いただきます」

 

彼女は昼食を摂り始めた。

 

「鈴瀬さん、いくつか質問しても宜しいかしら?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

彼女は食事をしながら琥珀へと視線を向ける。

 

「赤石君と100万円の勝負をしたことは聞いたわ。…何故100万円も持ち歩いていたの?」

 

勝負の内容や過程は綾芽から聞き、いくつかの疑問は解消されたが、同時に琥珀の中では新たな疑問が湧き上がっていた。

 

(あ、それは私も気になってたかも)

 

綾芽も心中では気になっていたようだ。

 

「繋がって、いたかったからです」

 

「繋がって…?」

 

彼女の理解不能な答えに琥珀は訊き返す。しかし彼女は「はい」と返事しただけだった。

 

あの時の彼女の心理からすると、繋がっていたかったという彼女の言葉はあながち的外れではない。

不相応な大金を手にしたであるが故に感じた遠さを紛らわすためだったというのが主な理由だが、実はそれだけではなかった。

彼女は予感していた、もっと深い部分で。その1束が重要になるかもしれないと。あの時は彼女自身も気付かなかったが、今は繋がりを自覚している。

 

(答えたくないのかしら?)

 

彼女の心理を知らない琥珀がそう思うのも当然である。そもそも答えそのものが彼女ですら気付かなかったものなのだから。

 

(麗梨さんらしいです)

 

綾芽は彼女の答えにある意味で納得していた。

 

「まあ、いいわ。普段は何してるの?」

 

琥珀が別の質問をぶつける。

 

「遊んだり、勉強したりしてます」

 

「…そう」

 

(思ったより普通ね。嘘はついてなさそうだけど…)

 

琥珀は彼女の顔を注視する。

 

(やっぱり表情だけじゃわからないわ…それにしても本当に綺麗な顔してるわね、ここまで美少女だと嫉妬する気も起こらないわ)

 

質問に答える彼女の表情は変わらない。

 

「デュエル、強いんですってね」

 

琥珀は彼女の反応を見るために少し試すような口調で言う。

 

「わたしでは、わからないです」

 

やはり彼女は動じない。ペースが乱れることもなく適宜食べ物を口に運んでいる。要領を得ない回答もさることながら琥珀にはそのマイペースさがどうも気に食わなかった。

 

「一度お手合わせ願えないかしら?わからないのなら教えてあげるわ」

 

琥珀は挑戦的な口調でデュエルを申し込む。

 

「はい、いいですよ」

 

彼女はその挑戦を受けた。

 

(わあ、会長と麗梨さんのデュエル…!というか会長デュエルできたんですね…)

 

当事者2人の横で綾芽はわくわくしながら成り行きを見守っていた。

 

 

 

「ねえ、この後時間あるかしら?」

 

彼女が食事を終えたタイミングで琥珀が問う。

 

「はい」

 

「カードショップに行くわよ」

 

「デッキ持ってません」

 

「カードショップの貸し出しデッキを使うのよ。その方がお互いフェアでしょ?」

 

「確かに、そうですね」

 

補足しておくと、デュエルハウスだけでなくカードショップも無数に存在している。いや、むしろカードショップの方が多い。雀荘やカジノより麻雀牌やトランプを販売している店の方が多いように。

 

「小松さんも良かったらいらっしゃい。私、小松さんともデュエルしたいわ」

 

「はい!お供します」

 

綾芽は楽しそうに返事をした。

 

 

 

「あ、ちょっと待って。最後に1つだけ訊かせて」

 

彼女が席を立とうとした瞬間、琥珀が思い出したように引き止める。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「赤石君とは、どういう関係なの?」

 

「…」

 

琥珀の質問に今まで淀みなく答えていた彼女が初めて沈黙する。

 

その光景に琥珀は緊張しながら、綾芽はドキドキしながら彼女からの回答を待つ。

 

 

 

「信頼しあえる関係です」

 

彼女はわずかに微笑んで答えた。

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