「何故だ、サイクロンじゃねぇのか…!?」
若者はうろたえる。自分のカードを手元にまとめながら思ってたカードじゃなかった理由を探り始めた。
(見間違えたか?いやそれは無い、あの傷と汚れ具合は間違い無くサイクロンだったはずだ!)
若者は思考を巡らせ、ひとつの答えに辿り着く。
「…変えたな?」
若者が小声で彼女をにらむ。
「何のこと?」
彼女も若者に気圧されることなく答える。
「とぼけるな!俺がスリーブの傷でカードを判別できると気付いてたんだろ!?」
「2回戦が始まる前、お前はトイレに行った」
「俺は気分転換にでも行ったのかと思ったが、あれは実はスリーブの中のカードを入れ換えるために行ったんだ。換えたカードはサイクロンと魔法の筒だ!違うか!?」
彼女は黙って聞いている。
「少なくともお前は1回戦が終わるまでに気付いてたんだ。へっ、見透かされてるとわかりつつ、表情ひとつ変えずにデュエルできるとは大したもんだよ」
「『俺に気付いてないと思わせるためにピンポイントでサイクロンと魔法の筒だけを入れ換えた』こともすげぇよ、そこは褒めてやる」
「道理で発動しなかったはずだ。発動しないサイクロンに違和感を持たなかった俺も俺だがな」
若者は体をほぐす。どうやらまだ余裕があるといった感じだ。
(そうか、ギリギリまで相手にバレないようにサイクロンと魔法の筒だけを入れ換えたってことか)
(その気になりゃ他のカードも換えられたものを。…いや、だからこそ効果がある。バレちまえばそこで終わりだしな)
(このデュエル中に魔法の筒を引くかわからない。それこそ先にサイクロンを引いちまえば致命的、もう負けられない一戦だというのにこんな薄い賭けに出てきやがった)
(スリーブの傷に気付いたのもそうだが、確証が無いままそれを信じ、カードの入れ換えを思い付き、そして実行してくるとはな)
(なるほど、伊達にこれで生活してるわけじゃねぇか)
スーツの男は彼女の評価を改めた。やはり彼女のことを知っているようだ。
「あーあ、まったくただのガキだと思って優しくしてやったのによ、こういうことされるとは思わなかったわ」
若者は冷めた顔をしている。
「マジキレそう。その場で金払えなかったら、覚悟しとけよ?」
「脅すのはやめてください。怖いです」
彼女は視線をそらす。若者にとっては予想外の反応のようだ。
「チッ…」
若者は舌打ちをし、次戦へのデッキ編成を始めた。
「あの、ちょっといいですか」
直後彼女は青葉に話しかけた。若者も彼女の方を見る。
「さっきこの人が『スリーブの傷や汚れを覚えててセットされたカードが全部わかる』って言いましたよね?」
「言いましたな」
「『俺が今使ってるデッキも』わかるとも言いました。それって次に引くカードがわかるってことですよね?」
「そう解釈できますな」
「カードゲームでそれは公平性を欠いてませんか?本来その情報は非公開であるはず」
「…」
青葉は彼女の言葉を待つ。
「お互いが選んだ15枚全てのカードを新しいスリーブに入れ換えて下さい。スリーブ代はわたしが負担します」
「はぁ!?何言ってんだてめぇ!」
若者は反発する。だが己の口が災いとなりそれは聞き入れられないだろう。
「承知致しました。スリーブの入れ換えは私がさせて頂きましょう。色はそのままで宜しいですな?」
青葉はタイマーを一旦ストップさせお互いのデッキを手元に手繰り寄せる。
「おい何勝手にーーー」
「理は赤スリーブの方にあると判断致しました。何か文句がお有りですかな?」
「ぐ…わかったよ」
青葉の気迫に押され若者は渋々了承した。
(良かった、この方が審判で。シャッフルもお願いしてて本当に良かった)
(まぁ、これは想定内っちゃ想定内さ。次のドローがわからなくても経験の差で俺の優位に変わりはない。それより)
(このガキ、マジ気に食わねぇな。あの顔も演技だったってことかよ!舐めやがって)
若者は一段と険しい表情となった。
「スリーブの入れ換えが完了致しました。お返し致します」
青葉はカードを返すとストップさせたタイマーを再度動かした。
「ありがとうございます」
彼女は軽く頭を下げる。
「そして、先程からこちらのデュエルをご覧になってるお客様方。只今より天井カメラからの映像をカウンターのモニターに出力致しますので、こちらのデュエルの様子はモニターをご覧くださいませ」
(そういえばギャラリーが…夢中で気付かなかった)
モニターに中継画面が映されると、デュエルを見ていた者たちは各自、モニターの見える適当な席へと座った。
(へっ、久々にモニター中継か。青葉も大掛かりなことしやがるぜ)
彼女も若者も準備ができている。
(ぜってぇ勝つ!)
(…負けない)
「準備が整いました。黒スリーブの方先攻で3回戦、デュエルスタート!」