可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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6話 ♯7「琥珀 vs 麗梨・3」

(《禁じられた聖槍》…ついてないわ、モンスターが欲しかったのに)

 

「《地砕き》を発動、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》は破壊されるわ」

 

「はい」

 

琥珀は彼女の様子を窺う。

 

(LPは100、手札もフィールドも0なのに…どうして何の感情も見せないのかしら?)

 

(…まさか負けてもデメリットが無いから?何も賭けてないからとか言わないわよね!?)

 

琥珀はこの勝負を是が非でも勝ちたいと思っていた。彼女の終始冷静な態度が気に入らなかったというのもあるが、何より自身のプライドが彼女には負けたくないと強く思わせていた。

 

「ねえ、どうして貴女は感情を見せないの?このデュエルがどうでもいいものだとでも思っているの?それとも賭けるものが無いと勝とうって気にならない?」

 

この終盤に差し掛かった場面での琥珀の発言に周囲がざわつく。空気が変わり、険悪な雰囲気が漂い始めた。綾芽も心配そうに2人を見守る。

 

「…」

 

彼女は何も言い返すことなく琥珀の顔を見つめる。琥珀には彼女という人間がどうも掴めずにいた。

 

(何なのよ、その余裕は…!何とか言いなさいよ!)

 

琥珀は苛立っていた。何も答えない彼女に。

 

「…カードをセット!」

 

そしてそんな彼女を仕留められなかった自分にも。

 

「ターンエンドよ!」

 

 

 

琥珀LP1900 手札0枚

 

彼女LP100  手札0枚

 

 

 

「ドロー、スタンバイ、メイン」

 

 

 

「勝ちたいです」

 

彼女がぽそりと呟く。

 

「…えっ?」

 

その声を聞いた琥珀は不意をつかれたようにして、彼女の顔へと視線を向け耳を傾ける。

 

「勝ちたいと思ってるから、感情を見せたくないんです」

 

彼女は真剣な眼差しで前のターンの琥珀の問いに答える。

 

その答えを聞いた琥珀は「…そう」と納得したように呟いた。

 

「ターンエンドです」

 

 

 

琥珀LP1900 手札0枚

 

彼女LP100  手札1枚

 

 

 

「ドロー、スタンバイ、メイン」

 

 

 

「安心したわ。本気でデュエルしてるの私だけかと思ってたから」

 

琥珀は落ち着いた表情を見せる。苛立ちは既に消え去っていた。

 

(むしろ私の方こそ冷静になるべきね。本気でデュエルしてないなんて決めつけるのは浅はかだわ)

 

「2ターンもチャンスをくれたのにね。これも運なのかしら」

 

琥珀が引いたカードは《剣闘獣アウグストル》。モンスターではあるがレベル8のため召喚できない。

 

「ターンエンドよ」

 

 

 

琥珀LP1900 手札1枚

 

彼女LP100  手札1枚

 

 

 

「ドロー、スタンバイ、メイン」

 

「《異次元からの埋葬》を発動します。対象は《サイバー・ダーク・ホーン》《サイバー・ダーク・エッジ》《サイバー・ダーク・キール》の3体です」

 

「通すわ」

 

(サイバー・ダーク3体を墓地に戻した、ってことは…)

 

「《サイバーダーク・インパクト!》を発動します。《サイバー・ダーク・ホーン》《サイバー・ダーク・エッジ》《サイバー・ダーク・キール》をデッキに戻し、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を融合召喚します」

 

(!…まずいわ、確か鈴瀬さんの墓地は…)

 

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の効果で墓地の《仮面竜》を装備します。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力は装備したモンスターの元々の攻撃力分アップし、さらに自分の墓地のモンスターの数×100アップします」

 

《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の元々の攻撃力は1000、《仮面竜》の元々の攻撃力は1400、そして彼女の墓地に存在するモンスターは《融合呪印生物-光》と《キメラテック・オーバー・ドラゴン》の2体、つまり…

 

 

 

(攻撃力2600…!会長のLPを上回ってます!)

 

「バトルフェイズ、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で攻撃します」

 

「まだよ!速攻魔法発動、《禁じられた聖槍》!《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力は800下がるわ」

 

「はい」琥珀LP1900-1800=100

 

彼女の攻撃は通ったものの、ぎりぎり仕留めるまでには至らない。

 

(私も生き残ったわ…!まだ終わらないわよ!)

 

「ターンエンドです」

 

 

 

琥珀LP100  手札1枚

 

彼女LP100  手札0枚

 

 

 

「おいおいすげえ展開になってるぞ!」

「女の子同士の熱いデュエルはいいねえ」

「100対100とか滅多に見ないよな!?」

「黒髪ロングちゃんの方応援してる、マジかわいくね」

「俺も女の子とデュエルしたいなあ」

 

同じ100LPになったことにより、周囲の観客も一様に興奮していた。傍で見ている綾芽も同様に興奮していることは想像に難くない。

 

 

 

(残りのLPはたったの100、でもこの100は生存の証。私はまだ運に見放されてはいない、ということかしら)

 

(これはなんだか良いカードを引く予感がするわ)

 

「ドロー、スタンバイ、メイン」

 

(…来たわ!)

 

「カードをセット!」

 

琥珀は普段そうするより少々勢いよくカードをセットした。

 

「ターンエンドよ」

 

 

 

琥珀LP100  手札1枚

 

彼女LP100  手札0枚

 

 

 

「ドロー、スタンバイーーー」

 

「待って!スタンバイフェイズに罠発動するわ、《リビングデッドの呼び声》!」

 

琥珀は彼女の言葉に割り込み、発動する。

 

「墓地から《剣闘獣ヘラクレイノス》を特殊召喚するわ!」

 

《剣闘獣ヘラクレイノス》が三度フィールドに現れる。《剣闘獣ダリウス》の効果で特殊召喚された時と違い、効果が使える状態だ。

それは琥珀の手札で腐っている《剣闘獣アウグストル》が、コストとして使えるようになったということでもある。

彼女のフィールドにカードは無く、手札は今引いた1枚のみ。その1枚が魔法か罠カードだった場合、無効にされて彼女の負けが確定する。

 

(あの1枚が魔法、罠なら無効にすればいいわ。問題はモンスターの場合だけど…)

 

琥珀は彼女の墓地と除外されたカードを見て考える。

 

(よく考えて。《サイクロン》を無効にした時は深く考えなかったけれど、【サイバー・ダーク】に破壊効果を持つモンスターっていたかしら?…あ、ちょっと遠いけど《サイバー・エルタニン》がいるわね。でも鈴瀬さんの墓地に機械族で光属性のモンスターは存在しないわ。《サイバー・エルタニン》を引いたとしても特殊召喚は出来ない)

 

(《リビングデッドの呼び声》を破壊できるモンスターも思い付かないし…効果じゃないなら戦闘だけど、そもそも単身で特殊召喚できて攻撃力3000を超えるモンスターは【サイバー・ダーク】には入っていないはず…!)

 

「メインフェイズ」

 

(貴女のそのデッキでこの状況を突破できるモンスターが存在しないことはわかってるわ!さあ、倒せるものなら倒してみなさい!)

 

メインフェイズに入った彼女に対し、琥珀は自信満々で彼女がどう動くかを待つ。

 

 

 

(《リビングデッドの呼び声》を発動された時は、どうしようと思いました。でも…)

 

(このデッキに、このモンスターが入ってるとは思いませんでした)

 

彼女はゆっくりと墓地に手を置く。

 

(サレンダー、じゃないわよね?何かしら?)

 

 

 

 

 

「墓地の《融合呪印生物-光》と《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を除外して…」

 

「!?」

 

琥珀は彼女の言葉の意味をすぐに理解した。

 

(そんな…!まさか、そのカードが入ってるなんて…!)

 

 

 

 

「手札から《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を特殊召喚します」

 

「こんなことって…!」

 

琥珀の表情が先程までと一変する。周囲の観客からは早くも歓声が上がり始めた。

 

(すごい…この場面でこれしかないってカードを引くなんて…!)

 

彼女の強運に綾芽もまた琥珀と同じような表情を浮かべる。

 

「《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》の効果発動。《剣闘獣ヘラクレイノス》を除外します」

 

 

 

(…なるほど、今わかりましたわ)

 

琥珀は数秒目を閉じ、開けると彼女の顔をしっかりと捉えた。

 

(鈴瀬さんは、デュエルに勝つために全力を尽くしていたこと)

 

「バトルフェイズ、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で攻撃します」

 

(悔しいけれど、私ではあと一歩及ばなかったことも)琥珀LP100-2400=0

 

そして、敗北した事実を受け止めた。

 

「わたしの、勝ちです」

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