ーーー某警察署
黒川は自分のデスクに座ったまま、自身の机に置いてる物を見つめては厳しい顔を浮かべる。
「黒川さん、何ですかそれ?」
部下の若い警察官が問う。
「デュエルディスクだ。なんだ知らねえのか?」
机に置かれている物の正体、デュエルディスク。デュエリストならばその存在は大抵知っている。実戦で使うことは少ないが。
「いえ、知ってますよ。何故ここにあるんです?」
「今さっき桑鴇のガキから取り上げて来た」
黒川が答えると部下は「そうですか」と言いデュエルディスクを手に持つ。
「しかしなんかゴチャゴチャしてますね。形も変わってるし。どうやって腕にはめるんですか?」
「腕には着けられねえ。貸してみな」
黒川は部下からデュエルディスクを取ると再び机に置く。
「ここはカメラになっててデュエルディスク全体を映す。それで、こっちを回すとモニターが出てくる。ここは他のデュエルディスクからの情報を送受信してる部分だな」
黒川は解説するようにデュエルディスクを操作する。
「はあ。カメラとかモニターとか何に使うんです?」
「…ライディングデュエルだ。こいつは腕じゃなくバイクに装着するんだよ」
「ライディングデュエル…ってあのバイクに乗りながらのあれですか!?あんなの危なくて出来ないでしょう!?」
ライディングデュエルとは名の通りバイクに乗って行うデュエルのことである。元々アニメ発祥でデュエル物の特撮や映画でも何度か登場し、一定の支持を得ているようだ。ただそれらは特殊な方法で撮影されたフィクションであり、現実で実際に行うのは危険極まりなく、相手のカードも見えないため事実上不可能である。
と、最近までは思われていた。改造されたデュエルディスクが登場するまでは。
「だと思ってたんだがな。どうも半年くらい前から一部の奴らの間で流行ってるらしい」
「そうなんですか?でもニュースとかでも全然見ませんよ?」
「そりゃあんな危険なデュエルをしてたなんてニュースにできねえし、事故を起こしたとしても表向きは普通の交通事故として処理されてるだろうからな」
現在この国に於いて、デュエルというのは非常に大きな市場の1つとなっている。かつて隆盛を極めた時代の公営競技が全て束になっても敵わないほどだ。
「デュエルに対してマイナスイメージになるような報道はできません、ってことですか」
部下も警察官としてデュエルというものをそれなりに知っているため事情を察する。
「既に全国規模で結構な数、ライディング用に改造したデュエルディスクが出回っている。出所を特定するのは難しいだろうな」
「デュエルディスクの改造は別に違法じゃありませんからねえ」
「通常のデュエルじゃ満足できないジャンキー共が怪我する分には構わんが、一般人にも被害が及んだ例もある。つい先日桑鴇でも1件あったし、面倒なことになってきたな…」
ーーー
彼女とのデュエルが終わった後、琥珀は流れで綾芽とデュエルをしていた。もちろん両者ともまた別の貸し出しデッキである。
「《宝玉獣 サファイア・ペガサス》で攻撃するわ」
「はい…受けます」
(負けました。会長お強いですね)
勝負が着いたようだ。
2人のデュエルが終了して間も無く、観戦していた彼女に後ろから声がかかる。
「あ、あの、良かったらデュエルしません?」
彼女が振り返ると、1人の若い男性が緊張した面持ちで返事を待っていた。先程のデュエルを見ていた客のようだ。
「わたしとですか?」
「は、はい」
彼女は琥珀に視線を向ける。琥珀はというと今しがたデュエルで勝利したことに喜んでいる様子だ。
「デッキを持ってないので、貸し出しデッキでよろしければ」
「いいですよ!あ、デッキ借りてきますね!」
若い男性はデッキを借りに行き、小走りで戻ってくる。
「どうぞ座って下さい!」
戻ってきたばかりの若い男性に促され、彼女は琥珀と綾芽の隣席に座る。
「あら?貴女、この方とデュエルするのかしら?」
隣に座ったことで琥珀が彼女の動きに気付いた。
「そうみたいです」
「そう。負けちゃだめよ」
(私も誰かと戦ってみようかしら?)
「どうぞデッキです!中は見ていないのでわかりません!」
彼女は若い男性からデッキを手渡される。
「ありがとう」
そして互いのデッキをシャッフルし、先攻後攻を決めデュエルが始まった。
ーーーデュエルハウス「黒蠍」
青葉はカウンターでコーヒー豆を挽いている。
日曜といえど、昼の黒蠍は平和なものだ。主に常連の爺さんたちが仲間うちでデュエルをしていて、夜のあの殺伐さは微塵も無い。
そんな爺さんたちの他愛もない話に耳を傾けよう。
「そういやもうすぐ『鶸櫨記念』け?」
「なんや今年は『桜花』の覇者が参戦するんやって?えらい時代になったもんやなあ」
「『GAデュエリスト』の参戦も数年ぶりらしいの」
「こりゃ客もぎょうさん入りよるやろなあ」
専門的な用語は置いといて、要するに近々開かれるデュエルの大会に大物デュエリストが参戦するということらしい。
(ふむ…少々粗くなってしまいましたな)
挽いたコーヒー豆を見てそう思いながらも青葉はサイフォンで淹れる準備を進めた。今日も平和な午後のひと時が過ぎていく。
ーーー
「あー負けました、お強いですね!ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
若い男性は座ったまま頭を下げると、素早く席を立った。
「次俺と戦ってもらえませんか!?」
「いや、是非俺と!」
「次の次でいいので僕と!」
若い男性が席を立った瞬間、彼女とデュエルしようと他の客たちが迫る。
「ちょっと!私のことをお忘れではなくて!?私もお相手致しますわ」
彼女の隣に座ってた琥珀が机をバンッ!と叩き、その場に立ち上がる。
「私も良ければお相手になります」
綾芽も同調するように受け入れを表明する。
これがきっかけとなり、3人は夕方まで客たちと代わる代わるデュエルをするのであった。
ーーー
「ふう、こんなにデュエルをしたのは中学生の時以来だわ」
夕焼けで赤く染まったカードショップからの帰り道、琥珀はそう漏らす。
「休みなく連戦でしたからね…」
綾芽もどこか疲れ気味だ。
そんな2人とは違い、彼女は普段通りに振る舞っている。いや、もし疲れていたとしても彼女はそんな素振りは見せないだけなのかもしれない。
(今日のデュエルを通して思い知りましたわ。私はデュエリストとしてまだまだ足りない部分が多いこと。小松さんはやはり優秀であること。そして、鈴瀬さんの実力が底知れないということ)
琥珀は今日のデュエルを振り返る。色々思うところがあったようだが、1番の目標として
(でも、いつか鈴瀬さんに追いつき…いえ、追い越してみせますわ!)
打倒彼女に燃えるのであった。