可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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6話 ♯10「それぞれの夜」

ーーー

 

 

 

「あ?デュエルオンライン?」

 

夕食中、赤石は桜に言われたことを訊き返す。

 

「うん。さっきアイコからメールで教えてもらったんだけど、兄貴やってる?」

 

「ああ、前はよくやってたな。最近はあんまやってねえけど」

 

「あとでやり方教えて」

 

「ああ」

 

 

 

ーーー

 

 

 

綾芽は『graybloom』とのデュエルの後、軽い放心状態に陥っていたが、首を振って目を覚ました。

 

そしてPCを使って『graybloom』について検索する。とある掲示板サイトがひっかかり、そこ立てられた『graybloom part37』というスレッドを開く。

 

 

 

『227:絶対なんかイカサマしてるわ!!!』

『394:バーンデッキだったんだけどマテリアルドラゴンで完封されたわクソ』

『548:特殊召喚メタられて2ターンで終了でした』

『565:Re548:俺も3ターン持たなかったわ』

『588:つか運営の奴なんじゃねーの』

『602:引きこもりのオッサンだろ』

『641:木曜の午前9時に奴と当たったんだけど平日の朝からやってるとかニートかよw』

『654:Re641:ブーメランおつ』

『673:俺は夜中の4時くらいに当たったことあるぞ。ニート説はガチっぽいな』

『740:間違いなくどこからか対戦相手のデッキ覗いて対策してからデュエルしてるよな?これだけメタられるとか有り得んもん』

 

 

 

掲示板には様々な『graybloom』に関する情報が書き込まれていた。もっとも、情報と呼べるものは少なく大半が私怨や憶測に過ぎないものだが。

 

(対策してからデュエル…)

 

綾芽もデュエル後、薄々思っていたことと同じような書き込みが複数あり、自身の考えを確信へと至らす。

 

(やっぱり何かしてるのかな…?)

 

だが何かをしていたとしてもそれが何なのかはわからない以上話は進まない。綾芽にとってはいつもと同じネット上の誰かとのデュエルに負けた。それが最高ランクの有名な人だったってだけの話だ。

 

(…お風呂入ってこよ)

 

綾芽はパックのオレンジジュースを飲み干し、風呂場へと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

桜はほとんどPCというものをいじったことがない。リビングに1台あるPCは現在、赤石専用PCと化していた。

 

そのPCを使って桜は赤石のサポートを受けながら『DUEL ONLINE』への登録とアカウント作成を済ませていた。

 

to桜

「登録したよ」

 

from藍子

「名前とID教えてー」

 

to桜

「『sakura』***…」

 

藍子に名前とIDを記したメールを送ると、すぐに顔文字付きの了解メールが返ってくる。

 

しばらく『DUEL ONLINE』内のチュートリアルやQ&Aを流し見ていると、唐突にメッセージの受信を知らせる音が鳴った。

 

その音に桜は一瞬ビクッと驚いた後メッセージを開く。

 

from『藍』

「届いたかな?藍子だよー」

 

to『sakura』

「todoitayo」

 

from『藍』

「よかったー!って桜ちゃん半角になってるよ」

 

to『sakura』

「e」

 

from『藍』

「キーボードの左端上のキー押してみて」

 

to『sakura』

「なおった」

 

from『藍』

「おk!デッキまだ組んでないよね?組み方わかるー?」

 

to『sakura』

「まだ組んでない。なんとなくわかる」

 

from『藍』

「わからないことあったら聞いてねーデッキ組んだらこっちでもデュエルしよ!」

 

to『sakura』

「うんありがとう」

 

メッセージのやりとりは一旦ここで終了する。

 

(試しに何か組んでみるか。えっと、デッキ編集は…)

 

その後、桜は軽くデッキ編集をして部屋へと戻った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

夜9時、彼女の家には1人の来客がいた。

 

日曜だというのに制服姿で通学用のかばんを持参してきたその客は、伏し目がちに座っている。

 

「ごめんね、愚痴聞いてもらっちゃって」

 

「ううん、気分は晴れた?」

 

「うん!ちょっとすっきりした」

 

そう言って笑顔を作る来客、瑞希。何故瑞希がこんな時間に彼女の家にいるのか、それは30分ほど前に遡る。

 

 

 

彼女が部屋の片付けをしていた時、メールが彼女の携帯電話に着信する。差出人は瑞希だ。

 

from瑞希

「いきなりごめん。今からそっち行っていいかな?」

 

to麗梨

「いいよ」

 

メールを返信した後、程なくして瑞希が来訪する。開口一番に涙声で彼女の名を呼びながら寄り掛かる瑞希を、彼女は宥めて話を聞いた。

 

話によれば父と弟の家族喧嘩から逃げて来たらしい。瑞希いわく喧嘩自体はよくあることなのだが、たまに激しくなって手に負えなくなる時があり、そんな時は今日のように嵐が過ぎ去るまで避難するようだ。

 

普段から溜めこんでいたのであろう、瑞希の不満や愚痴を彼女はただ頷いて受け入れるように聞いていた。

 

 

 

「あの、れーりちゃん」

 

「なに」

 

「今日泊まっていってもいいかな?」

 

控えめにきいて彼女の顔を窺う瑞希。

 

「いいよ」

 

彼女はそうきかれることを知っていたかのように即答する。

 

「ほんとに!?」

 

「うん」

 

というより制服姿に通学用かばん持参の時点で彼女は予測していたのだろう。

 

答えを聞いた瑞希の表情が見る見る晴れていく。

 

「ありがとー!れーりちゃん最高!」

 

「どういたしまして」

 

 

 

ーーー

 

 

 

『YOU WIN』

 

『graybloom』のノートPCの画面に、とうに見飽きたであろうエフェクト付きの文字が表示される。

 

(一旦休憩しよう…)

 

ノートPCを閉じると、腹部からぐうーっと空腹を告げる音が鳴った。

 

(何か食べるものあったかな…)

 

『graybloom』はゆっくりと立ち上がると、暗く閉め切った部屋を出た。

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