ーーー
修学旅行2日目、この日の予定は観光地の見学と周辺の散策。どちらも男子1班と女子1班がくっついて行動を共にする。
つまり私と彼女だけでなく、そこに男子1班分が加わって計5人での行動となる。
「今日一日、よろしくお願いします」
彼女は今日行動を共にする同班の男子生徒たち3人に挨拶をする。男子生徒たちはというと緊張しているようだ。
「よ、よろしく鈴瀬さん」
「…よろしく」
少し遅れて私も挨拶をする。
「ああ、栗原さんもよろしく」
なんかついでに、みたいな態度だったけど気にせず出発した。
ーーー
「ふぅ…」
「疲れた?」
朝から歩きっぱなしだからか、足に疲労を感じ一息つく。悲しいことに疲れてるのは5人の中だと私だけみたい…
「うん…ちょっと」
「少し休もっか」
林道と言っていいかわからないけど、周囲は木々に囲まれていてちょうどいい木陰もある。休めるなら休んでおこう。
「トイレ行ってくるね」
「うん」
私が座ったのを確認してから、彼女はここに来る途中にあったトイレへと向かった。
木陰で一休みしてると、同班の男子生徒たちが近づいてきた。
「あの、栗原さん!お願いがあるんだけど」
「…お願い?」
「鈴瀬さんと部屋一緒だよね?鈴瀬さんの裸とか下着姿の写真、撮ってきてくれない?」
「…はあ!?何言ってんの!?」
あまりの発言に座ったまま柄にもなく大声を出してしまった。
「どうしてもダメか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「じゃあ鈴瀬さんに直接お願いする!」
「やめなさいよ!…っていうか本気で言ってるの?」
「本気だよ」
男子生徒は迷わず答える。その態度に私は情欲から来るものでは無いと判断した。
「…椎名さんたちに脅されてる?」
私の言葉に男子生徒たちは顔を背ける。やっぱりそんなところか。
「…必要なんだ、なるべく過激なやつが」
「あなたたちは脅しに屈するの?」
この言葉を機に男子生徒たちの顔色が変わった。
「栗原、お前さあ…」
「何?」
「クラスで浮いてるよな?何かあった時守ってくれるような友達いないよな?」
「…今更何なの?」
男子生徒の1人が私の手首を掴む。
「離して…!」
「だからどんなことをされても誰も助けに来てくれない」
「何する気!?先生に言うからね…!」
「構わねえさ!うちの教師共は事なかれ主義だし、それにそんなもんが怖くてお願いなんか出来ねえよ」
冷静さを欠いて襲いかかってくるかと思いきや、男子生徒たちは案外落ち着いていた。
「…」
むしろその態度が私にとって怖いものだった。なんだか逃げ道を塞がれてるみたいで…救いを求めているような男子生徒たちの視線が強く私に訴えかける。
「なあ、頼むよ。俺たちを救うと思ってさ」
この状況から抜ける返事は私にとって1つしか残されていなかった。
「…わかった」
「そうか!じゃあ今日の夜までに頼むな!あんまり時間ねえんだ。これ俺の連絡先、ここに送ってくれ」
「うん…」
私はメールアドレスが書かれた紙をポケットに仕舞った。
ーーー
「椎名さん」
トイレを終えてすぐ、彼女は椎名と遭遇する。椎名も1人で公衆トイレに来たようだ。
「鈴瀬か」
椎名は彼女を一瞥して構わず歩く。
「きいてもいいですか?」
椎名が彼女の横を通り過ぎようとした時、彼女が声をかける。
「何だ?」
椎名の歩みが止まる。
「何故栗原さんからも抜き取ったんですか?」
「そうした方が…いや、ウチがそうしたかっただけだ」
「よく約束守ってくれましたね」
「どうせ本物があるんだろ?ボールペンカメラ」
「はい」
「カーテンの影が一瞬だけ2本映してたからな。ウチが約束守らなかったら晒すつもりだったってわけだ」
「影は盲点でした。でもどうして気付いてないフリをしてたんですか?」
「気まぐれだ。それに気付いてないフリをしてたのはお前もだろ?」
「何でしょう?」
「ウチらが部屋に入ってくるってわかってたなら鍵かけて風呂に行きゃ良かったじゃねーか。何でしなかった?」
「椎名さんの望んだ流れにするためです」
「…なるほど、読んでたってわけか。食えねー奴だな」
「椎名さんこそ」
椎名は軽く鼻で笑う。
「栗原も変な奴と同じ班になったな。金失った挙句、勝負に負けてたら晒し者だ」
「でも勝ちました」
「予定ではウチが勝つはずだったんだがな」
昨晩、彼女は椎名とデュエルをした。特に変わったルールも無い通常のデュエルだ。
しかし、このデュエルにはイカサマが仕掛けられていた。彼女の死角に設置された手鏡、椎名の同班の女子生徒がそれを元に椎名に情報を伝える仕組みがあった。椎名が自らの部屋に招いたのも、この仕組みにより勝ちを手にするためだろう。
椎名は当初このイカサマでデュエルを優位に進めていた。だが椎名は気付いてしまった。彼女がイカサマをされていると知りつつもデュエルを進めていることに。
気付いたその瞬間から情報を伝える女子生徒2人を制した。ばれているイカサマを自ら封じた。
イカサマに頼っているといずれ自分の首を絞めることになる。既にばれているなら尚更だ。椎名はそれ以後、イカサマ無しでデュエルを進めた。対等である方が勝てる望みがまだ高いからだ。ただ結果は知っての通り、彼女の勝利で終わった。
椎名は約束通りお金を彼女に渡した。女子生徒2人は彼女にイカサマがばれていることも知らず、イカサマを封じて負けた椎名に納得していない様子だったがこの結果に渋々従った。
「…で、いつから見抜いてたんだ?」
「何にですか?」
「けっ、今更とぼけやがって。…それより」
「何でしょう?」
「栗原を1人にしない方がいい」
椎名はそう言うと再び歩き出し、トイレへと入った。
ーーー
「お待たせ」
「お帰り」
彼女がトイレから帰ってくる。男子生徒たちはというと何事も無かったかのように談笑していた。
無論、私も平静を装う。心は不穏ながらも。
「もう休みはいい?」
彼女は立ち上がってる私を見て問う。
「うん、もう平気」
「じゃ、行こっか」
私たちは再度出発した。