「早く襲っちゃいなよ。撮る準備は出来てるからさ」
女子生徒が携帯電話を彼女の方に向けながらけしかける。
「…悪いな」
男子生徒の1人がそう呟いた後、彼女を突き飛ばす。
「っ…!」
彼女は尻餅をつくが、地面は土なので衝撃は少ない。
「なあ、おとなしく脱いでくれねえか?そうすればこれ以上は何もしねえから」
男子生徒側からすれば、彼女の画像が欲しいだけで直接体を欲しているわけではない。いや、欲しいのは欲しいだろうがそんな度胸も欲深さも持ち合わせてはいない。それらしい口ぶりではあるが。
「逃げませんし、脱ぎません」
ただ彼女からすればどちらにしろ同じこと。
「は?じゃあ何でのこのこ現れた?」
女子生徒は彼女の行動の意図を分かりかねる。
「まさか戦う気とか?」
「おおそりゃ怖えな」
余裕の表情を見せる男子生徒をよそに彼女は立ち上がり、尻についた土を手で掃う。
「…」
彼女は答えない。澄ました顔で男子生徒たちを見つめる。
「戦う気ならしょうがねえなあ」
「ま、手加減はするよ」
男子生徒たちが戦闘態勢に入り、彼女に飛びかかろうとしたその時
「鈴瀬さん!」
ホテルの方向から何者かが走ってくる。
「!?…誰だ!」
全員の視線が声の元へと集中する。やがてその何者かの顔を視界に捉えた。
「栗原!?」
「はぁ…はぁ…」
慌てて走ってきたのか声の主、藍子は膝に手をついている。
「鈴瀬といい栗原といい何でここがばれてんだ?」
「ってか栗原、お前1人で来たのか」
男子生徒は藍子が走ってきた方を見回すが、人の気配は無い。
「…わからん、何で1人で来るんだよ」
「はぁ…私の言うことなんて、誰も信じないから。それにまだ間に合うと思ったから…はぁ…」
藍子は息を切らしながら答える。
「間に合ったところでお前1人で何ができるってんだ?」
「鈴瀬さんは、私が守ります」
藍子はかばうように彼女の前に立つ。
「あのなあ…なんかシラけてきたわ」
「どうするよ?逃がすか?」
「いやいや、こいつらにうちらのことチクられたらやべーだろ!弱みの1つや2つーーー」
「その必要はない」
女子生徒の言葉を遮るように暗闇から声が届く。
「!…この声は!」
その声の主が暗闇の中からゆっくりと姿を現した。
「椎名…!」
(椎名さん、来てくれたんだ)
椎名の顔を見た女子生徒たちの顔が強張っていく。
「心配しなくてもこいつらはチクんねーよ。先公に言ったところで証拠もねーし有耶無耶にされるだけだ。それより…」
パシーン!
「いっ…!」
椎名が女子生徒にビンタを浴びせる。
「お前らが何をしようと勝手だけどな、同じ班のウチまで迷惑被るようなことするんじゃねーよ」
(…あれ?その口ぶりだと、もしかして椎名さん無関係…?)
「で、でもよ椎名!悔しくねーの!?」
ビンタされた女子生徒が食い下がる。
「別に。あれは終わったことだろ。んなことよりさっさと戻るぞ」
椎名の答えはあっさりしていた。これには女子生徒も返す言葉が無い。
「おい、お前ら」
椎名は男子生徒たちを呼ぶ。
「ウチに迷惑かけたことは許してやる。先公に気付かれる前に戻れ」
「は、はい!」
椎名を含む生徒たちは急ぎでホテルへと戻って行く。
「鈴瀬さん、私たちも戻ろ」
彼女と藍子も少し遅れてホテルへと戻っていった。
結局、お金を取り返すために行った椎名とのデュエルも、彼女を撮るように藍子を脅したこの件も外に漏れることなく終結した。
後者についてだが椎名は関与しておらず、椎名が聞き出したところによると女子生徒2人が男子生徒3人と共謀したものと判明。
彼女と藍子は修学旅行中に訪れた2度の危機を乗り切った。
ーーーそして就学旅行2日目の夜、消灯直前。
「…ねえ」
彼女の方に寝返りをうち、彼女を呼びかける。
「なに」
「体は大丈夫?」
「うん。栗原さんが守ってくれた」
「私は何もしてないよ。椎名さんが来てくれなかったら…」
私があの時椎名さんにしたお願いは女子生徒2人の居所を教えて欲しいというものだった。椎名さんに案内して欲しいとまでは言わなかった。
「わたしのために、駆けつけてくれた。ありがとう」
「い、いえ…どういたしまして」
彼女からのお礼の言葉に不意を突かれ、声が尻すぼみになる。
「だけど鈴瀬さん、私に嘘ついてまで1人で行くなんて危なすぎるよ…」
「そうね、無謀だった」
彼女のことだから1人でも何かしら手は打ってたと思うけど…暗い夜に女の子が1人はやっぱり危ないよね。
「鈴瀬さんは何でも1人でしちゃうよね」
せっかくなので以前から訊いてみたかった質問を投げかける。
「その、さ…1人でも寂しくないの?」
「さびしくないよ」
言い切るところに彼女の強さを感じる。
「そっか…強いね」
「でも、ひとりだと感じてしまったら、さびしい」
そして同時に、弱さを見せるところにも。
「…なんとなく、わかるかも」
私自身の場合は、ずっと1人で中学生活送っていたから気が付けば…寂しいと思う時自体減っちゃってた。
「今はさびしくない。ひとりじゃないから」
「えっ、それって…」
彼女は真っ直ぐな瞳で私を見つめて
「大切な友達が、そばにいる」
顔を綻ばせた。
ーーー
修学旅行3日目。この日は特にこれといった行事は無く、朝食を済ませた後は荷物をまとめて帰るだけだ。
「んー…」
目を開けて体を起こす。昨夜の疲れがまだ残ってるのか体が若干重く感じた。
「おはよう」
彼女が私の起床に合わせて挨拶をする。
「おはよう、鈴瀬さん」
「麗梨」
「…え?」
半分目を開けたまま間抜けな声を出す。
「名前で呼んで欲しいな」
「じゃあレイちゃん…あ」
寝ぼけながら発した言葉に、はっとなり目が覚める。彼女への呼び方か、または私の仕草かに彼女がクスッと笑った気がした。
「はい。これからはレイちゃんで。おはようアイちゃん」
早速2度目の挨拶。これはたぶん、レイちゃんとしての挨拶。
「アイちゃん…って私のことだよね?」
「うん」
なんだかむず痒い。まだ冴えていない頭でも恥ずかしさを覚える。
「おはよう…レイちゃん」
挨拶を返すと、彼女は嬉しそうに微笑みを見せた。