可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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7話 ♯6「週の始まり」

ーーー

 

 

 

帰りのことはあまり覚えていない。朝食を食べてお土産を買ったところまでは覚えているけど、帰りの新幹線ではずっと寝ていたし印象に残るような出来事も無かった。

 

「ただいま」

 

「おかえり、おねーちゃん」

 

妹が出迎えてくれる。

 

「旅行どうだった?」

 

「楽しかったよ。はいお土産」

 

妹に買ってきたお土産を渡す。

 

「わーい、ありがとう」

 

妹はひとしきり喜んだあと私の顔を見上げてくる。

 

「おねーちゃん、何かいいことでもあったの?」

 

「うん?どうして?」

 

「うれしそうな顔してる」

 

「そうかな?」

 

どうやら自分でも気付かないうちに嬉しそうな顔をしていたらしい。

 

理由があるとしたら1つ。それはもちろん…

 

「そうね。確かにいいこと、あったよ」

 

大切な友達ができたことだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

この修学旅行をきっかけに私と彼女との仲は深まっていった。休日には遊びに行ったりデュエルをしたり、時には勉強を教えてもらったりもした。

 

また、彼女と接するうちに私自身の性格も変わっていったような気がする。暗くネガティブな部分が少しずつ薄れていき、明るく活発で笑顔もよく見せるようになったと思う。

 

高校に進学しても彼女と一緒なら楽しくやっていけそうだと思った。彼女は桐縹高校に進学するようで、もちろん私も桐縹高校志望だった。

 

しかし1つ問題があった。ただでさえ休みがちな上に不登校の期間も長かったのがいけなかったのか、この先のテストでどれだけ良い点をとろうと桐縹高校への進学は非常に厳しいものとなっていた。

 

目標とする高校に進学できない。以前の私なら厳しい現実に落ち込んで後悔の念に苛まれていただろう。けれどもう私はあの頃の私じゃない。

 

たとえ彼女と別の道を歩もうとずっと友達であることに変わりはないし、1人でも乗り越える力を身に着けた。どこに進んでも私らしく生きていく。

 

そして私はその強い想いを胸に桑鴇高校へと進学した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「ただいまー」

 

瑞希は朝、学校へと向かう前に自宅に寄った。

 

「はぁ…」

 

帰宅早々、物で散らかったリビングを見てため息を吐く。

 

それらは昨夜の爪痕。散らかした当事者たちは静かに寝息を立てている。

 

静まった後、片付けるのはいつも瑞希の役目だ。

 

瑞希は現在、気性の荒い父親と反抗期真っ盛りの弟と共に暮らしている。この父親と弟、相性は悪く無いはずなのだが頻繁に衝突しては殴り合いの喧嘩をする。

 

その場に瑞希がいれば仲裁に入り、だいたいの場合は収まるのだが話を聞かないレベルにまでヒートアップしていると、瑞希の手には負えなくなることもある。

 

ただ、どんな大喧嘩をしてもお互い翌日になれば何事も無かったかのように接するためほとんど尾を引かない、という意味ではさっぱりしている。

 

手早く片付けを済まし、荷物を整え朝食と弁当を作る。自分を含めた家族全員の分だ。瑞希にとっての日課である。

 

(今から朝練は気が滅入るなあ…)

 

あまり気分が浮かない中朝食を摂っていると、弟が髪を掻きながらリビングに現れた。

 

「姉ちゃん帰ってたのか」

 

「おはよ」

 

弟はどこかばつが悪そうにして瑞希と目を合わせない。きっちりと朝までに帰宅し、片付けをして食事を用意する姉に頭が上がらないようだ。

 

「今更言うのもあれだけど、あんまり散らかさないでよ?」

 

「ああ、わかってるよ」

 

目を合わせないまま手応えの無い返事をする弟。おそらくは改善しないだろう、いつものことだ。

 

時間もあまり無いので構わずとっとと朝食を済ませ学校へと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「蒸し暑くなってきましたが、暑さに負けることなく学校生活をーーー」

 

体育館の檀上で生徒会長である琥珀が話を続ける。毎週月曜日の朝に行われる全校集会だ。

 

(うー暑い…!)

 

整列された集団に交じって話を聞いている瑞希は朝練を終えた直後ということもあり、周囲の生徒と比べると結構な量の汗が滲んでいた。

 

斜め前に位置する彼女へと視線を移す。彼女はというと気温に反して涼しい顔をして檀上の琥珀の話を聞いていた。。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「今週からバレーボールをやる。準備するように」

 

体育の授業。今から行う競技と同じ、バレーボール部所属の瑞希が率先して準備をする。

 

「あとは各自チーム分けをして、終了5分前になったら片付けするように」

 

 

 

バレーボール部所属でありながら瑞希は特に目立った動きはせずサポートに徹していた。しかし目立たないながらも、そのしなやかで手慣れた動きは一般の生徒とは明らかに差があった。

 

瑞希と同じコートにいる彼女を注視していた教師も「ほう」と唸る。

 

(準備室で見た時は気付かなかったが、あれは相当引き締まってるな。あの背丈といい顔といい、中々いいもの持ってるじゃないか)

 

 

 

ーーー昼休み

 

 

 

「あ…赤石君」

 

琥珀が生徒会室へと向かう途中、廊下で赤石と遭遇する。

 

「ああ、橡か」

 

前日のことがあってか琥珀はどこか気まずそうだ。

 

「その、昨日は本当にごめんなさい」

 

「だからいいって、気にしてねえよ」

 

「これ、受け取って。お詫びの気持ち」

 

琥珀は制服の内ポケットから厳重にプラスチックケースに保護されたカードを1枚取り出す。

 

「あ?何だこれ…」

 

赤石は受け取るとケースを反転させカードの表面を見た。

 

「!…こいつは、《ホーリー・ナイト・ドラゴン》じゃねえか!しかも最初期の」

 

「あら、ご存知でしたの?」

 

《ホーリー・ナイト・ドラゴン》、知る人ぞ知るレアカード。特に最初期フォーマットのこのカードは流通量も少なく非常にレアである。

 

赤石が受け取ったのは最初期フォーマットの方だ。その上保存状態が良いのか傷1つ見当たらない。

 

「いいのかよ、これかなりの値がつくんじゃ…」

 

「コレクターカードは使わないから…幼い頃から持ってたから思い入れはあるけれど、その方がお詫びとしてはいいかなと思って」

 

赤石は迷う、果たして受け取っていいものか。

 

「気にしないで受け取って。私はこれから生徒会長としての仕事があるの、じゃあね」

 

琥珀は半ば押し付ける形で赤石にカードを渡すと、早歩きで生徒会室へと向かった。

 

「…」

 

(強引だな…俺もコレクターカードを集める趣味は無えんだが。まあ、ありがたく部屋にでも飾っておくか)

 

 

 

ーーー同じ頃、桑鴇高校1年男子トイレ

 

 

 

「なあ、お前らのクラスで可愛い奴いる?」

 

「ああ?何だよいきなり」

 

「いやさあ、俺のクラスめぼしい奴がいなくてさ」

 

「そうだなあ…俺のとこは赤石がいるな」

 

「赤石か。って名前どっかで聞いたことあるな」

 

「兄貴の方が有名らしいぜ。何でもケンカが物凄く強えとか」

 

「そうなんか。じゃあちょっと手は出しにくいな」

 

「俺もあんまり知らねえけど、あんな妹がいる兄貴が羨ましいぜ。毎日風呂上がりとか見放題なんだろうなあ…!」

 

「ああそう…お前のとこは?」

 

「俺のとこは、誰かいたっけな…あ、椎名がいたわ」

 

「椎名かあ…あいつ性格きついんだってな」

 

「まあ、ひとことで言うと自分勝手ってやつだな。あと口も悪い」

 

「椎名っていやあ、色々やばい噂があるみたいだぜ。薬やってるとか援してるとか」

 

「げっ、可愛くてもそれは嫌だな…」

 

「ま、どっちにしてもお前は相手されねえからやめとけ」

 

「うるせえ。ああー彼女欲しいなあー」

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