可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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7話 ♯9「そのままその夜」

ーーー

 

 

 

「はい、連絡先登録したよ」

 

彼女は藍子に携帯電話を返す。

 

「ありがとー!これでいつでも連絡できるね!」

 

ファーストフード店を出た帰り道、彼女と藍子は公園に寄り道していた。なお、赤石と桜は先に家へと帰っている。

 

彼女が携帯電話を持ち始めたのは高校に入ってからだったため2人の間に連絡手段は無く、今日が正真正銘、卒業式以来の再会であった。

 

「ねえ、レイちゃん」

 

隣のブランコに腰を下ろした彼女に話しかける。

 

「なに」

 

「さっきは訊けなかったんだけどね…危ない橋を渡ってるって本当?」

 

「今のところは、渡りきってる」

 

「…そうなんだ」

 

藍子は彼女の言葉を聞いておおよそ察する。自分の知らない所で想像も出来ないような橋を渡り続けているのだろうと。そして今までのようにこれからも。

 

「あの、私にできることがあったら何でも言ってね?レイちゃんの助けになれたら私も嬉しいかなって」

 

大切な友達を心配する心からの言葉。たとえ何も出来なくても、必要とされなくても、藍子はただ彼女の無事を願う。

 

「うん、ありがとう」

 

その気持ちは彼女にもしっかり伝わっていた。

 

 

 

「もうすぐ日が暮れちゃうね」

 

藍子は携帯電話を確認する。時刻は既に17時半を回っていた。

 

「そうね」

 

お互い話すことは話した。今日のところは。

 

「帰ろっか?」

 

「うん」

 

2人はブランコから立ち上がった。

 

 

 

ーーー夜

 

 

 

数時間に及んだカラオケの後、クラスメイトたちと別れ1人夜の街を歩く。

 

家にはあまり帰りたくない。それだけの理由で目的もなく彷徨っている。最近は毎日こんな感じだ。

 

ただこんな時間に制服姿のままで出歩いていると、

 

「お?姉ちゃんかわいいねえ。おじさんと今からどう?」

 

こんな風に勘違いしたおっさんがたまに声をかけてくる。

 

「売り物じゃねーから、あっち行けよおっさん」

 

だから変な噂が飛び交ってんだろう。まあ言いたい奴には言わせておく。

 

それより腹が減った。今日はどこで食べようか。久しぶりにあの店でーーー

 

 

 

「おい、そこの学生」

 

どこで食べるか考えていたら、誰かに呼ばれた気がした。面倒だと思いながらも後ろを振り向く。

 

「今何時だと思ってんだ」

 

いかつい顔をしたおっさんが近づいてくる。ああ、このいかつい顔は先週も見た。

 

「…って、椎名またお前か」

 

そのセリフはこっちが言いたい。

 

「不満そうだな」

 

「そりゃあこれで5回目だからな。警察も暇じゃねえんだぞ」

 

おっさんは呆れた様子で対応する。暇じゃないなら放っておけばいいのに。

 

「あのさ、何度呼び止めても無駄だから。これからもこの時間は外にいると思うし」

 

「そういうわけにもいかねえんだよ」

 

でも放っておけないらしい。警察官とは面倒な職業だ。

 

「うろつくなとは言わねえ。着替えてからなら夜遅すぎない程度にうろついてもらって構わん。その方がお互いのためになるだろ」

 

「着替えるためには一旦家帰んないといけねーじゃん」

 

家に帰ったら帰ったで、これの比じゃないくらい面倒だからな。

 

「椎名、お前の家の事情はわかってるつもりだ」

 

「わかってて言ってんならタチわりーな、おっさん」

 

「おっさんじゃねえ、黒川さんと呼べ不良少女」

 

この黒川という警察官、口は悪いが話は分かる方だ。どこで知ったかウチの家事情まで把握してるのはちょっと勘弁して欲しいが。

 

「ったく、もう少し大人に対する態度をだな」

 

黒川のおっさんが苦言を呈し始めた時、

 

 

 

「あ…」

 

ぐうー、っと不意に腹の虫が鳴る。

 

「なんだお前、まだ飯食ってなかったのか?」

 

おっさんにも聞こえてしまったようだ。

 

「今から食べようと思ってたんだよ」

 

「そうか、じゃあ俺と一緒に晩飯食うか?おごってやるぞ」

 

「はあ?何が悲しくておっさんと一緒にご飯食べねーといけねーんだ」

 

おごってくれるのはありがたいけどな。

 

「いや、制服のまま連れ回すのはまずいか」

 

おい、無視かおっさん。

 

「署までついてこい。何か出前でも頼もう」

 

「やだよ。それならご飯はお断りするわ」

 

「だめだ。今日は見かけたら署まで連行するつもりだったからな」

 

ウチの前におっさんが立ちはだかる。

 

「ちょ、勘弁してくれよ」

 

まずい、いつもと違う展開だ。

 

「なに、ちょっと話するだけだ。おとなしくついてくれば家には連絡しねえよ」

 

お?家の事情を考慮してくれるのか。やっぱり話が分かるなおっさん。

 

「まあ、ちょっとだけなら」

 

でも拘束されるのは面倒だ。早く解放してくれよおっさん。

 

 

 

ーーー同じ頃

 

 

 

夕食と入浴を済ませた彼女は、早速購入したパズル専門誌に取り掛かっていた。

 

(まずは、簡単な問題から)

 

脳を働かせ手を動かしスラスラと解いていく。

 

(次はもう少し、難しいの)

 

次の問題に取り掛かろうとした時、彼女の携帯電話にメールが着信した。パズルを中断し携帯電話を開く。

 

from藍子

「レイちゃんこんばんは!なにしてるの?」

 

メールの相手は今日連絡先を交換したばかりの藍子だ。

 

to麗梨

「こんばんは。パズルしてた」

 

すぐに返信が届く。

 

from藍子

「そういえばパズル好きだったもんね!ところで桐縹での生活はどう?」

 

to麗梨

「楽しいよ。アイちゃんは?」

 

from藍子

「最初は正直しんどかったけど友達もできたし今は楽しいよ!」

 

to麗梨

「よかった。楽しそうで何より」

 

from藍子

「うん!ありがとレイちゃん!またメールするね」

 

to麗梨

「うん」

 

メールでのやりとりが終わると、彼女はパズルを再開した。

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