ーーー某警察署、取調室
「どうだ?居心地は」
「良いわけねーだろ。早く解放してくれよ」
向かいに座っている黒川に対し、不機嫌に答える椎名。かれこれ席に着いて15分くらいは黒川と話している。
「そうだろうな。ま、そろそろ届くだろうし一旦休憩しようや」
黒川が一息ついてから数秒後、ガチャっと取調室のドアが開く。
「黒川さん、届きましたよ」
警察官が大きな箱のようなものを持って入室する。
「おお来たか、ご苦労」
警察官は箱の中から次々とラップで蓋された料理をテーブルに並べていく。
「おいおい、頼み過ぎじゃねーのか?」
テーブルに所狭しと並べられた料理の数々を見て椎名は目を細める。
「梅里(ウメザト)、お前も食うか」
「え、いいんですか?それじゃあいただきます!」
料理を運んできたこの梅里という警察官は黒川の部下にあたる。昨日、黒川が改造デュエルディスクの説明をしていた相手もこの梅里である。
「いやあ、お腹ペコペコだったんですよね」
梅里は部屋の隅に折り畳んであったパイプ椅子をテーブルの前まで運び、開いて座る。
「ほら俺のおごりだ、お前ら好きなの食え」
「さすが黒川さん太っ腹ですねえ。それじゃあ遠慮なく」
「…」
3人はそれぞれ食べ始めた。
ーーー
(…解けた。難易度3、いつも通り)
彼女はペンを置き、パズル専門誌を閉じる。
(今日は、ここまで)
ちょうど椅子から立ち上がったタイミングで彼女の携帯電話が鳴動する。今度は電話のようだ。
彼女は携帯電話を手に取り、通話を開始した。
ーーー
「いやーうまいっすね!」
「よく食うな、お前」
梅里の箸が止まらない。黒川は既に食事を終えている。
「椎名、お前はもういいのか?」
「ああ」
椎名も食べ終えたようだ。
「そうか」
黒川は腕時計で時刻を確認する。
「ちょっと一服してくる」
そう言うと黒川は席を外し退室した。
「んーうまいうまい!」
黒川が退室しても梅里は変わらず食べ続ける。
「…」
椎名はというとそんな梅里をよそに携帯電話をいじっていた。
「あ、ねえねえ椎名ちゃん」
梅里がふと彼女を呼ぶ。
「気安く呼ぶな」
「そうツンツンしないでさ、嫌われるよ」
「…で、何?」
「学校楽しいかい?」
「別に。まあまあ」
椎名は携帯電話から目を離さず答える。
「まあまあ、か。僕も高校時代はあまり楽しくなかったなあ」
「…」
「高校生ってさ、夜遊びとかに憧れるもんだけど椎名ちゃんもそうだったりする?」
「憧れてない。ただ帰りたくないだけ」
「あ、そっか。そうだったね」
椎名のそっけない返事に苦笑する梅里。いまいち椎名に対する扱いというものを難しく感じているようだ。
「まあどんな事情があるにせよこんな時間まで制服のままうろつかれるとね、こちらとしては声かけずにはいられないんだよ。それはわかるかな?」
「…」
「何かあってからじゃ遅いからさ。黒川さんもあれで椎名ちゃんのこと結構気にかけてるからね」
「気にかけてくれなくても、忙しいならほっときゃいいのに」
「そう言わずにさ、このままだとお互いのためにならないでしょ?」
「それはわかってるけどさ…」
椎名が答えたのとほぼ同時に取調室のドアが開く。黒川が戻ってきたようだ。
ーーー
「もしもし」
「ようレーリ、アタシだアタシ」
「紫さん」
「今仕事終わってな、またそっち寄ってもいいか?」
「はい、いいですよ」
「いつも悪いね。じゃあまた後で」
「わかりました」
通話が終了する。
(これとこれかな。あとこれも…)
彼女は本棚から数冊のパズル雑誌を取り出すと机に置いた。
そして約20分後、彼女の家のインターホンが鳴る。
彼女は机に置いたパズル雑誌を抱え、玄関に向かいドアを開けた。
「よう、こんばんはー」
紫が軽く手を上げて挨拶する。
「こんばんは、はい」
彼女は紫に手に抱えていたパズル雑誌を差し出す。合計3冊だ。
「お、今回は3冊で値段は…よし、ちょっと待ってな」
紫はバッグから財布を取り出し、彼女にお金を渡す。
「ほら、今回の分だ」
「はい、確認しました」
彼女はお金を受け取り、紫にパズル雑誌3冊を渡す。
受け取った紫はパズル雑誌をパラパラとめくり、全問解かれていることを確認する。
「こっちも確認した、サンキュー。来月もよろしくな」
「はい」
そしてバッグに仕舞い、彼女の家を後にした。
パズル雑誌には懸賞がある。懸賞に応募するためには基本的に問題を解かなければならない。
紫も一時期パズル雑誌を買っていたので、そのことを知っている。そしてある日、彼女がパズル雑誌を定期的に購入していること、また懸賞に興味が無いことを知った紫はとある話を持ちかけた。
それは解答済みのパズル雑誌を彼女から買い取るということ。簡単な問題しか解けず、もどかしい思いをしてきた紫にとっては解いておきながら懸賞に応募しない彼女に対しもったいないという思いを抱いたため、この発想に至った。
要するに懸賞に応募する権利を紫が彼女から買うという話である。この話は彼女にとってみてもお金が手に入るおいしい話であり、もちろん乗ることにした。
ちなみに紫が買い取る条件は全問解答済み且つ応募期限切れでないパズル雑誌に限るようだ。なお取引価格は雑誌の定価により変動する。
ーーー
黒川が戻って来てからも聴取、もとい話は続いた。
しばらく話し込み、やがて話題も尽きた頃
「もういいか?」
椎名は明らかに不機嫌な表情で問いかけた。
「ああ。長いこと拘束させて悪かったな。車で送ってやる」
「まあ、ご飯おごってくれたし…」
椎名も自分の身を案じてくれたり食事をおごってくれたりした黒川に多少恩義は感じており、顔は不機嫌ながらも口調は柔らかい。
取調室を出て、警察署の入口へと向かう。
「梅里、車出してくれ」
「了解です」
黒川の指示により梅里が用意した車に乗り込み、椎名は無事に家まで送り届けられた。
ーーーそして水曜日の夜
彼女に1本の電話が届く。携帯電話には『黒川さん』と表示されている。
「もしもし」
「俺だ。悪いなこんな夜に」
「いえ、なんでしょうか?」
「待たせたな、初仕事だ」
【第7話 終】