「土曜の午後3時、喫茶『メイドルチェ』だ。詳しいことは現地にいる桃山が話してくれるだろう」
「レートはおそらくそんなに高くねえはずだ。200か、心配なら300持っていけば十分足りる」
「わかりました」
「じゃあな、健闘を祈る」
通話が終了する。彼女が黒川と組んでの初仕事、その日取りが決まった。
ーーー金曜日、放課後
「…」
彼女はLP計算をしながら2人のデュエルの行方を見守る。
「《大天使クリスティア》で《ライトロード・ウォリアー ガロス》に攻撃!」
「はい」
「ダメージステップに手札から《オネスト》発動!」
「う、通します…負けました」
「やった!これであやめちゃんとは2勝2敗ね!」
放課後、瑞希と綾芽は彼女の家に来ていた。
瑞希は部活が、綾芽は生徒会がそれぞれ休みという珍しい日ということもあり、学校帰りにそのまま彼女の家に寄ることとなった。
「さあれーりちゃん、次こそ勝たせてもらうよ!」
瑞希と綾芽がデュエルし、その勝者が彼女とデュエルする。現在このルールのもとで3人は回っている。
「何度でも、かえりうち」
なお、彼女は未だ負けていない。
ーーー
「《カードガンナー》でダイレクトアタック」
「通します…負けました」
「全勝って、れーりちゃんやっぱり強すぎ!」
本日最後のデュエルも彼女の勝利で決着。8勝0敗、結局全て返り討ちにしてしまったようだ。
「今日は、ついてた」
「つきすぎだよ!」
「麗梨さんには勝てなかったけど、瑞希さんともデュエルできて楽しかったです」
「うん!私もあやめちゃんとのデュエル楽しかった!」
「…」
荷物をまとめて帰る準備をする瑞希と綾芽のそばで、彼女は手元のカードを見つめる。
「どうしたの?れーりちゃん」
「温かかった、お隣さん」
「お隣さん?どんな人…あ」
瑞希の脳裏に彼女の言葉が過る。
「隣人ね!」
「にんじん?お野菜?」
「りんじん!ね!」
かつて自分と同じことを言った綾芽に対し、瑞希は作り笑いをしながらしっかりと伝わるように声を出した。
(お隣さんがどうしたんだろう…?)
綾芽は彼女や瑞希の言葉の意味を理解できなかったが、首を傾げるだけで問うことはしなかった。
外は既に日が沈みかけていた。
「じゃあまた学校でね!」
「今日は楽しかったです。おじゃましました」
「うん、ばいばい」
彼女は玄関先で2人を見送った。
2人の姿が見えなくなった頃、彼女は家に戻る。先程まで賑わっていた空間は、またいつものように静かに彼女を迎え入れた。
余韻もやがて静けさに塗り潰されていく。しかし彼女はそれに引きずられることなく、明日の勝負について考える。
(喫茶メイドルチェ…)
彼女は携帯電話を使い、所在地を検索する。
(鶸櫨駅徒歩10分…)
地図を確認しルートを覚えると、携帯電話を閉じた。
(2週連続、鶸櫨におでかけ)
ーーー
(明日は早めに起きて、お昼ごはんも、あっちで)
携帯電話の目覚まし時計をセットし、ベッドに入る。
(…)
言うまでもなく、明日のことは重要だ。大金の掛かった勝負、プレッシャーを感じずにはいられない。
しかし彼女はこれまでに比べると金銭的、精神的に余裕がある。明日のことに頭がいっぱいになることもなくプレッシャーもあまり感じることはない。
彼女はただ今日の瑞希や綾芽とのデュエルのことを思いながら眠りについた。
ーーー
午前9時。休日の彼女は大体このくらいの時間に起床するが、今日は既に鶸櫨へと向かう電車の中だ。
(鶸櫨駅裏…)
実は昨晩、黒川から彼女に電話があった。
ーーー「午前中、鶸櫨駅裏の『六武衆』ってデュエルハウスに寄ってみな。運が良ければ面白い奴と会えるかもしれんぞ」
(どんな人なんだろう、会えるのかな)
黒川の言葉を思い返し、記憶に仕舞う。彼女はゆったりと電車の揺れに身を委ね、やがて電車は鶸櫨駅へと到着した。
鶸櫨駅で下車した彼女は先週とは反対側の出口へと出る。程なくして駅裏のデュエルハウス、六武衆を目に捉えた。
外装は和を感じさせる作りになっており、看板には六武衆と思われる侍が描かれている。
(最初の、運試し)
彼女は扉に手をかけ、少しの期待と不安を胸に入店した。
ーーー
「おお、すげえ…」
「あのグラサンの姉ちゃん強えな!」
「これで何連勝だ?ずっと勝ってるよな」
デュエルハウス、六武衆の店内。あるテーブルを囲むように10人くらいの人集りが出来ていた。
「次、誰」
人集りは観客のようだ。その中から冷静な女の声が響く。その声を発端に周囲がざわつき始める。
「じゃあ次俺ね」
「いやいや俺とやろうぜ!」
「もう一回俺と…」
「負けた奴はすっこんでろ」
「何だとてめえ」
女との勝負の席に着こうと周囲が言い争っている中、入口の扉が開いた。一斉に入口の方へと視線が向けられる。
(もめごと…?)
入店した彼女は人集りの方を見てまず思った。しかし彼女の入店と同時にピタッと言い争いが止む。
「いらっしゃいませ。道に迷いましたか?」
和装に身を纏った店員が彼女に話しかける。
「はい。少し休憩させてください」
「では疲れが取れるまでお休み下さい」
形骸化したやりとりを終え、適当な席に腰掛けようとした時、
「座るならこっち」
人集りの中から女が声を発する。店内の雰囲気が変わったことを察知した女はその原因である彼女を呼びつけた。
「わたし?」
彼女も声のした方へと訊き返す。
「そう」
彼女が女の方へと歩み寄る。お互い姿はまだ見えない。
「あけて」
「あ、ああ」
女は彼女の歩みに合わせて囲いを解くように指示する。
人集りが散り、彼女が女の対面に座る。この時初めてお互いの姿が認識された。