可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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1話 ♯9「決着の時」

(あの笑みは…もしかして引いたの…?)

 

「スタンバイ、メイン」

 

「残念だったな、お前もここまでだ」

 

「…」

 

彼女は黙ったまま下を向いた。

 

「【サイクロン】発動。デッキ側のカードを破壊する」

 

「…それにチェーンして破壊対象のこのカード【サイクロン】発動。そちらの伏せカードを破壊します」若者のセットカード【聖なるバリア -ミラーフォース-】破壊

 

「へっ、意味のねぇあがきだな」

 

(ちっ、サイクロンだったのかよ。ビビって損したぜ)

 

(まぁでも同じことさ)

 

(お前が前のターンでガイアを召喚する前に伏せたカード、俺はちゃんと覚えてるぜ?)

 

(あれは最初のターンから手札にあったカード。ずっと使う機会の無かったカードだ)

 

(ほぼ確実に【強制転移】。そうじゃなければ【死者蘇生】だ。まぁ死者蘇生を手札に溜めておくっていうのは意味ねぇし考えにくいがな)

 

(やっぱり中身はただのガキだったか。全然経験が足りてねぇ、自分のことだけで手一杯だ。まああのレートじゃ周りが見えなくなるのもしゃあねぇか)

 

(ま、それも狙ってたんだけどな!高レートに助けられたぜ)

 

「【首領・ザルーグ】召喚」

 

「なぁ、今どんな気持ちだ?」

 

「…」

 

彼女は下を向いたまま答えない。

 

周囲の客たちもそんな彼女の姿を見て哀れんでいる。

 

「そうか、答えたくねえか。ならそのまま聞け」

 

「お前、なかなか手強かったぜ?ここまでもつれたこと自体久々だったかもな」

 

「見た目で多少油断しちまったって言うのもあるが、そもそもこんな時間にこんな所に来る奴の見た目じゃねぇなお前は」

 

「…お前がどんな奴かは知らんが、少なくとも今ここで負けたらどうなるかってことを感覚で理解してるはずだ。言うまでも無く見た目相応の振る舞いが無意味ってこともな」

 

「安心しろ、負け分たっぷり可愛がってやる。話は終わりだ」

 

「【首領・ザルーグ】で攻撃!」

 

 

 

「…攻撃宣言しましたね。もう取り消せませんよ?」

 

「あ?」

 

彼女は震える手でセットカードをめくり始める。

 

「へっ、そいつは強制転移だろ。何思わせぶりに手を震わせてんだよ」

 

「…なぜ強制転移だと思ったんですか?」

 

「ん?そりゃお前ーーー」

 

「このカードは最初のターンからわたしの手札にあったカード。伏せたのは数ターン後、理由はガイアを召喚するため。それまでに使う機会の無かった魔法カードといえば強制転移だけしか考えられないからですか?」

 

「ああ!よくわかってるじゃないか」

 

「…あなたがそうしたように、わたしも賭けてました。『あなたがそう思ってくれるかどうか』に」

 

「あ?おい、どういうーーー」

 

 

 

「罠発動!」

 

「!?」

 

彼女は首を上げると、力強く若者の顔を見ながらカードをめくった。

 

 

 

「そんな…馬鹿な!?」

 

「おお…!」

 

若者だけでなくスーツの男も驚きの声を出した。

 

 

 

「【魔法の筒】だ…と…!?」若者のLP1000-1400=ー400

 

彼女は再び下を向き

 

 

 

「わたしの、勝ちです…!」

 

震える声で勝利宣言をした。その目元からは控えめに雫が垂れている。

 

 

 

「デュエル終了でございます。LP1000対-400で赤スリーブの方の勝利で3回戦決着でございます」

 

その瞬間周囲から歓声があがる。「すごい」「よくやった」など彼女を称える声も飛び交う。

 

「同時にマッチ戦も決着でございます。2勝1敗でマッチ勝者は…赤スリーブの方でございます!」

 

 

 

「何故だ…!」

 

若者はまだ状況が飲み込めてないという感じだ。

 

「何故魔法の筒なんだ!?最初から手札にあったはずだろ!何故ずっと伏せなかったんだ…!?」

 

「そうしないと、あなたが見誤らなかった」

 

「…くそっ!このレートで何故そんな真似ができるんだ…!お前は一体なんなんだ!?」

 

 

 

「…どこにでもいる、ただのデュエリストです」

 

若者は悔しさを噛み締めうなだれた。

 

 

 

「それでは清算致します。レートは500の5000、マッチ20000ですな」

 

青葉はライフ計算をしていた電卓に手早く数字を入力していく。実に慣れた手付きだ。

 

「計算が終わりました」

 

(はやい…)

 

「1回戦、黒スリーブの方+190万」

 

「2回戦、赤スリーブの方+115万」

 

「3回戦、赤スリーブの方+120万」

 

「そしてマッチ勝者である赤スリーブの方に+200万」

 

「しめて245万、赤スリーブの方の勝ちですな。赤スリーブの方、おめでとうございます。これにて勝負は終了でございます。不肖、私青葉が審判兼進行役を務めさせていただきました」

 

青葉は一礼するとカウンターに戻って行った。

 

 

 

「あの、勝敗は決しました。245万、払っていただけますか?」

 

「…今持ってねぇよ。1週間後までには必ず払うから連絡先教えろ」

 

携帯電話を取り出そうとする若者を彼女は冷めた目で見続ける。

 

「な、何だよ」

 

「ハハ、気持ちはわかるぜ。その場で金払えなかったら、覚悟しとけと脅した奴が負けた途端これだからな」

 

スーツの男が笑いながら若者の肩を叩く。

 

「ちょっと待ってな」

 

スーツの男は背広の内ポケットに手を突っ込み、取り出した物を彼女の前に放り投げた。

 

「!」

 

彼女の前に放り投げられたのは札束だった。

 

「250万、っと正確には245万だったな」

 

スーツの男は札束から5枚抜き取る。

 

「俺が代わりに払ってやる。こいつには後から俺が請求しとく」

 

「え!?でも…」

 

「いいから受け取っとけ。こんな奴に連絡先なんて教えたくないだろ」

 

「…確かに」

 

彼女の言葉が別の方向から若者に突き刺さる。デュエルの結果に比べれば微々たるものだが。

 

「渡す代わりと言っちゃなんだが、今から付き合ってくれるか?色々話したいことがある」

 

彼女は警戒心を強めつつ考える。普通に考えれば怪しい。大金を持ち歩いていることも、ためらいなく肩代わりすることも。警察官であることも。強いてあげればその服装も。

 

「…いいですよ。どこでですか?」

 

しかし彼女は、それらの怪しい要素はむしろ信用できるのではないかと考える。まるで信用される気が全く無いような、堂々とここまで怪しい振る舞いはできないはずだと。

 

「駅前のファミレスでどうだ?」

 

「…構いません」

 

「そう警戒するな。単純にお前と話がしたいだけだ。じゃあまたな青葉さん」

 

スーツの男は背を向けずそのまま店を後にした。

 

「あ、ちょ…!」

 

彼女も慌てて札束と荷物を持ち店の出入り口に向かう。

 

「あの、青葉さん。本当にありがとうございました。今日のことは忘れません」

 

彼女の勝利は自身の力だけではない。青葉という審判がいなければこの勝利は無かったであろう。

 

「私は何もしておりません。貴女が自らの力で掴み取った勝利でございましょう。良ければまたお越し下さい、可憐なお嬢さん」

 

「…はい!」

 

彼女はしっかりとした声で返事をすると店を後にした。

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