可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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8話 ♯5「お披露目」

「悪い、待たせたな」

 

「あ、桃山さん!待ってましーーー」

 

言い終える前に固まる樋口。

 

「うそ…!?」

「え?え…!?」

「おお…!」

 

固まったのは樋口だけではない。

 

「これハ…!」

 

他の従業員一同も、ヘズも。

 

「皆の者、どうしたというのだ?一体何がーーー」

 

そして柴岡も。1人を除き、彼女の姿を目に写した者たちは一様に視線を釘付けにされた。

 

静寂の中、一斉に送られる視線を浴びながら彼女は勝負の席に着く。

 

(想像以上の反応だな。ま、レーリの素顔知ってるのはアタシだけだったし)

 

その1人とは勿論、この彼女を仕立てた紫。想像以上の反応にどこか誇らしげな様子だ。

 

 

 

ここにいる彼女はつい先程までのような髪型をしておらず、帽子も眼鏡も身に着けていない。薄く化粧は施してあるが、高校生活を送る素の彼女の姿だ。

 

そして着ている服も違う。

 

彼女が今身に纏っている衣装、それは純白のワンピースが特徴的な《マドルチェ・エンジェリー》

 

いや、衣装だけではない。髪型もかなり似せてきている。おあつらえ向きに長い彼女の結われた髪が、さらにそのものの雰囲気を醸し出していた。

 

そんな彼女を眼前にして柴岡は息をのむ。

 

「な、なななんと見目麗しい…!き、君!」

 

「?」

 

「ど、どこかでアイドルとかやってたりしない?」

 

柴岡は記憶を辿る。自らのデータベースから彼女を探すが当然ヒットせず。

 

「いえ、アイドルではないです」

 

「まさかの一般ピーポー!宝石がここに眠ってたあ!」

 

「君アイドルやる気ない!?トップアイドルになれる、いやそれどころか一時代築けるよ!?」

 

柴岡は興奮が収まらない様子だ。

 

「わたしにアイドルは務まらないと思います」

 

対照的に彼女は冷静に返す。

 

「いやいや!訓練すれば誰だってなれるからさ、ぜひデビューしてよ!」

 

「…」

 

「むしろ拙者がプロデュースーーー」

 

「おい、いつ勝負を始めるんダ?」

 

柴岡を止めることが出来ずもどかしそうな従業員たちの表情を察して、ヘズが勝負に入るよう催促する。

 

「異人よ、拙者は今とても重要な交渉をしているのだ。横槍を入れるのはーーー」

 

「お前はここに勝負をしに来たんだロ?どうしても交渉がしたいなら勝負に勝ってからにしたらどうダ?デュエリストらしくナ。鈴瀬さんもその方がいいだロ?」

 

ヘズの意見に彼女が頷き、その様子を見た柴岡が小さく唸る。

 

「ふーむ、一理あるな。では勝負の後にしよう」

 

(ヘズ、ナイスだ!)

 

紫はタイミングを見計らい、審判の立ち位置へと移動した。

 

「お待たせ致しました。審判役を務めさせて頂きます、桃山と申します」

 

「まずルールからご説明をーーー」

 

(確かルールも黒川さんから指定されてたな。ま、それもコイツの要望だろうが…)

 

紫は初めにルールを、次にレートや使用カード等を丁寧に説明した。

 

 

 

ルールはスピード、先攻ドロー有のLP4000。以下デッキと進行について。

 

お互い同じ20枚+αのカードセットから10枚を選び、それをメインデッキにして1回戦を行う。

 

1回戦終了後、メインデッキを審判に預け、1回戦で使用しなかった10枚をデッキにして2回戦を行う。

 

2回戦終了後、1回戦終了時に預けたメインデッキを受け取り再び20枚のカードセットから10枚を選び、それをデッキにして3回戦を行う。

 

レートは200、2000、5000で超過ダメージも計算する。カードセットのリスト以外は、ほぼ黒川によって指定された通りのルールである。

 

 

 

「その他不明な点や質問があればその都度審判である私に訊いて頂いて構いません。またこの勝負中に問題等が発生した場合、私の裁量に従って頂くことをお約束下さい」

 

「最後に、こちらカードのリストです」

 

彼女と柴岡、両者にカードのリストが記された紙が配られる。

 

(審判か…高レート勝負の審判を務めるのってあの時以来なんだよな。まあ、あの時は未熟な部分も色々あって完遂できなかったけど…)

 

紫は苦い思い出を振り返る。そしてそれを振り切ると強い意思を心に宿した。

 

(今回はちゃんと最後まで務めてみせてやる、レーリのためにも)

 

「それでは勝負を開始します。まずは1回戦のメインデッキとなるカード10枚をお選び下さい。制限時間は10分です」

 

紫は彼女と柴岡の間に仕切りパネルを置くと、携帯電話のタイマーを作動させた。

 

 

 

~カードリスト~

 

EX 2枚

《重装機甲 パンツァードラゴン》1000/2600 ×2

 

メイン 20枚

《アレキサンドライドラゴン》2000/100

《ドル・ドラ》1500/1200

《ブリザード・ドラゴン》1800/1000

《ミラージュ・ドラゴン》1600/600

《スピア・ドラゴン》1900/0

《機械犬マロン》1000/1000

《スフィア・ボム 球体時限爆弾》1400/1400

《カードガンナー》400/400

《魔装機関車 デコイチ》1400/1000

《サブマリンロイド》800/1800

《超融合》

《リミッター解除》

《月の書》

《簡易融合》

《大嵐》

《鎖付きブーメラン》

《ディメンション・ウォール》

《破壊輪》

《ドレインシールド》

《連鎖除外》

 

 

 

「審判よ、ひとつ要望があるのだが」

 

タイマーが動き出してから数秒後、柴岡が紫に話しかける。

 

「何でしょうか?」

 

「まさか無いとは思うが…少女が店員と手を組んで、通し等のイカサマをしないとも限らない」

 

「故に店員にはこちらのカードが見えない程度に距離を保ってもらおう。もちろん勝負中での一切の移動や口出しも禁じて頂きたい」

 

「なっ!それはあまりにーーー」

 

柴岡の要望に樋口が声を荒げようとするが、

 

「樋口!」

 

「ぐっ…!」

 

紫に制される。

 

「…わかりました。皆、悪いけどそうして欲しい」

 

従業員たちは不満気な表情を抑えつつ、勝負のテーブルから距離を置いた。

 

「異人よ、おぬしも離れてもらおう」

 

「仕方ないナ」

 

ヘズも別の席へと移った。

 

(ま、この席なら店員たちよりは見えるナ)

 

「ふむ、よかろう。これで心置きなく選べるというものよ」

 

 

 

(機械とドラゴン…)

 

彼女はというと成り行きを見届けつつ、リストを見ながら考えていた。どれを選ぶべきか、どう組み合わせるべきか。

 

1回戦のデッキとなる10枚を選んだ瞬間、2回戦のデッキも自動的に決まるのだからこの選択は重要。

 

3回戦に入らず、2回戦で決着する可能性もある。そうなればこれが唯一の選択時間だ。

 

(…)

 

彼女は考える。しかし、ただ考えていても時間は迫る。彼女が動き出したのは半分の5分を過ぎた辺りからだった。

 

 

 

やがて携帯電話のタイマーが10分経過を告げる。彼女も柴岡も無事選び終えているようだ。

 

紫は仕切りパネルを外し、お互いのデッキをシャッフルするように指示する。

 

柴岡のデッキが彼女の前に置かれた瞬間、彼女はそのデッキに違和感を覚える。

 

(?…大きい)

 

お互い同じ10枚組みのデッキだが、柴岡のデッキは彼女のデッキと比べて異様な程の高さがあった。

 

その上高さだけでなく1枚1枚に重さや硬さもある、つまり多重スリーブである。

 

(何重だろう…)

 

一番外側の透明なスリーブ、その中には何かアニメキャラクターの絵が描かれたスリーブ。さらにその中にも何重ものスリーブが存在するであろう圧倒的重量だ。

 

彼女がその異様にプロテクトされたデッキを手に取りシャッフルをしようとした瞬間、

 

「あ…」

 

バラバラとデッキが瓦解し、床へと滑り落ちた。

 

「ごめんなさい」

 

スリーブにもよるが、新品のものはツルツルしているためよく滑る。彼女も知らないわけではなかったが、多重スリーブの方に気をとられていたのだろう。

 

彼女はテーブルの下に潜り込み、カードを拾い集める。

 

「少女よ、気にするでない。そちの手では拙者の9重スリーブは、ちと繰るのが難しかろう」

 

柴岡は微笑ましいものを見るような表情で、シャッフルしたデッキを彼女に返す。

 

「どうぞ」

 

彼女も今度は手元に気を付け、慎重にシャッフルしたデッキを柴岡に返した。

 

残るは先攻後攻決め。コイントスの結果、先攻は彼女となった。

 

「それでは1回戦、デュエルスタート!」

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