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「ああー!仕事の後の1杯はうめーなー!」
「いい飲みっぷりだな、ユカリ」
勝負の後しばらくして、紫たちは居酒屋に来ていた。
「楽しそうですね」
もちろん言っていた通り、ヘズと彼女も一緒だ。
「おー楽しいに決まってるだろー!」
あと、もう1人。
「ほら樋口も飲め飲め、グイッと」
「いえ、僕はちょっとずつやりますから…」
「なんだー?アタシが飲めっていってんだから飲めー!」
「桃山さん、もしかしてもう酔ってます!?」
紫が樋口に絡んでいる間、ヘズは彼女に話しかける。
「鈴瀬さん、訊いてもいいかナ?」
「なんでしょう?」
「柴岡のイカサマに気付いたのは、どのタイミングダ?」
「はっきりとわかったのは、スリーブから抜き取った時でした」
「ギリギリだナ…というよりも気付いてなかったのカ」
「はい。疑いを持っていただけでしたから…」
「疑いネ。詳しく聞かせてもらっていいかナ?」
「はい、ちょっと長くなります」
彼女はそう前置きをし、一呼吸置いて話し始めた。
「まず1回戦に使うデッキを組む時に、柴岡さんは店員さんたちを遠ざけました」
「通し等のイカサマを防ぐため、という主張は正当なものでしたが、わたしは少し違和感を覚えました」
「とは言っても直感的なものだったので、何がどうとはわかりませんでしたが…」
「ひとまずわたしはそれを記憶の片隅に置いて、デュエルに入りました」
「デュエルが始まり柴岡さんのターン、あの動きにはちょっとびっくりしました」
「まあ、あれはナ…」
「スルーできるはずもなく…わたしは柴岡さんのあの動作には何か意味があると思い探ってました」
「でも、よく考えると注目を集めるような、あのあからさまに怪しい動きは…むしろ、おとり」
「別の何かの目くらましかと思ったりもしました」
「なので、途中からは動きにはとらわれず、それ以外のところも観察してました」
「だけど特に、イカサマをしてるような、おかしなところはありませんでした」
「もしかしたらあれは自然にやってて、イカサマなんてしていないのかなと…そんなことも考えました」
「でもイカサマをしていない、っていう結論は出さなかったんだロ?」
「はい。その結論は一応、考えられる限りの可能性を無くしてから至るものでしたので…置いたままの違和感もありましたし」
「なるほどナ。じゃあ可能性の1つとしてスリーブの裏という発想は頭にあったってことカ」
「そうです。問題はどう確認するかでしたが…偶然のミスがそれを可能にしてくれました」
「ははは、新品のスリーブは滑るよナ」
ヘズは歯を見せて悪っぽく微笑む。
「はい。あの時テーブルの下で拾うわたしを覗かなかったことも、ちゃんと覚えてましたので」
彼女もそれに答えるかのように顔を少し緩めた。
「ミスを利用し、イカサマを封じ、勝負に勝つ。鈴瀬さんは強かだナ」
「ありがとうございます」
(柳沢も不運だナ。こんなデュエリストと2回も戦うなんテ…オレも戦う前に知りたかったヨ)
ヘズはフッと息を漏らした後、酒を一口流し込んだ。
「ヘズー!」
「な、何ダ?」
彼女との会話が終わったのを見計らい、今度はヘズに絡む紫。席が隣なのが災いしてか、紫に密着されヘズは身動きがとれなくなる。
「アタシっていい女だよなー?ねー?」
「近い近い、ちょっと離れロ!」
ヘズは何とか紫を引き剥がし落ち着いたところで、気になっていたことを問いかける。
「そういえばユカリ」
「なーにー」
「何であの時警告で済ませたんダ?あれが反則負けになることは柴岡も知っていたはずだし、いくら柴岡でもそうジャッジすれば従ってたと思うんだガ…」
「えーだってー」
「だってー、じゃなイ。何か理由があるんだロ?」
「…」
「…おい、ユカリ?」
ヘズの問いに薄目でぼーっと聞き流した紫だったが、水を一口飲むと目をパチっと開け、朧な意識から目覚める。
「ヘズ…こういうレートのあるデュエルで反則のジャッジが下された時、結果はどうなる?」
「あ?それは『デュエルの途中経過に関わらず反則をしたプレイヤーはLP0になり強制的に負け、されたプレイヤーは初期のLPにして計算』だロ?」
「そうだな。今日の場合だと4000対0だ」
「それがどうしたんダ?」
「…ちょっと物足りないよな?」
紫はニヤリとする。
「!…まさか、そういうことカ!」
ヘズはその紫の顔を見て、抱いてた疑問を解消した。
「そう、アタシは賭けたんだ。LP4000以上の差をつけレーリが勝つことにね」
「あの時の柴岡の慌てっぷりを見て察したわ。レーリが何か仕掛けたんだろうなって」
「アタシもレーリと同じくイカサマ疑惑は持ってたから、把握するのに時間はかからなかったよ」
「で、思ったんだ。あのイカサマを封じ込めるジャッジを下せば、反則負けにするより多く金を出させることが出来るんじゃないかってな」
「イカサマをさせない状態で続行させることによって柴岡のプレイングミスも出やすくなるし」
「なるほど、でもあまり分の良いギャンブルとは言えなくないカ?確かに柴岡は動揺しててプレイングミスをしやすい状態で、鈴瀬さんが勝ちやすかったってのはわかるガ…」
紫はフフッと軽く笑い歯を見せる。
「それが案外そうでもないのよね。例えばヘズなら3回戦のデッキどう組む?柴岡のようにイカサマをするとして」
「どうっテ、基本的には同じ種類のカードを2枚入れるヨ。場にセットした時にも選べるからナ」
「その2枚の内、どっちを前にする?」
「良く使う方とか強い方だナ。当然だろウ」
「ってことは読めてこないか?」
「!…そうかイカサマを封じれば、その考えで組んだデッキの前10枚…読めるってことカ!」
「な?割りと良いギャンブルだと思わない?」
「なるほど、つまり『鈴瀬さんは柴岡がそういうデッキを組んでくるとわかった上で3回戦のデッキを組んでたはず』ダ。だからイカサマをさせない、かつ続行するようにジャッジを下した、そういうことカ」
「正解。まだ2ターン目でLPに変動が無かったってのも良かったわ」
「全く、恐ろしい審判だナ…」
「レーリには悪いことしたかな」
彼女に向かって申し訳なさそうな笑みを浮かべる紫。
「いえ。反則のジャッジを望んでたのは確かですが、結果的にはこちらの方でも良かったので大丈夫です」
「そっか。そう言ってくれると有り難いよ」
紫は安心したように軽くふーっと息を吐いた。
「でも不安でした…」
それに対し彼女は不安そうに小さな声を出す。
「う、ごめんな…」
その声を聞いた紫は重い表情で謝った。
「わたしを信じてくれたので、許してあげます」
数秒の間の後、彼女は打って変わって笑みを見せる。
「お?ちょっと偉そうだなー?」
紫もニヤリとした後、彼女の頬を指でつついた。