体育会系の合同練習は割と校風が出る。和気藹々とやる所もあれば、割とぴりぴりした空気感の中練習に励むことになる。最もこれは俺の所属しているサッカー部のようにチームプレイが重視される団体競技でよく見られる。逆に個人競技では個人間の交流が多くなり練習の雰囲気も個人の仲に左右される。
つまり、ボッチじゃ両方地獄だ。なぜなら対戦相手すら認められず、勝負の場にすら立つ事すら許されないスタンドアローン、争いは存在せず敗北の評価という薄っぺらい自己満足を押し付けられるだけの悲しき勝利者の傷跡。
さて、長々と講釈をたれた所で今回は合同練習の日だ。一般に世間ではゴールデンウィークと呼ばれる期間にやっているのは、単にその位しかやる時がないからだろう。俺としては良い迷惑というかなんというか。
この日のために、いろいろと準備してきている。人数分のスポドリだったり、相手校のマネージャーとの打ち合わせだったり、前日からのボール磨き、一色に至ってはアンデットのようなものになりながら雪ノ下の敬語指導を受けた。
このように色々準備しても予想外のことは起こりうるもの、気を引き締めて取り掛からねばならない。ひとまず、テントと基礎練用の道具位は出しておいた。
この前の一色への敬語指導から、こっぴどく報連相の重要性を雪ノ下に叩き込まれたのでこれから一色と打ち合わせをすることにした。少し言い訳させてくれ、仕方ないだろ?報告しても無意味、連絡しても無視され、相談する人間は小指の爪の先ほどもいない。そんな人間に徹底しろという方が酷なものだ。連絡に至ってはクラスのメール一斉送信からも漏れたことがある。
そもそもボッチとって報連相は、報償・連呼・相違だ。それぞれ(無い罪への)報償・連呼(される敗者のレッテル)・(リア充特有のクソほど役に立たない価値観との)相違になる。
おっとこれ以上は時間の無駄、さっさとホウレンソウだ。
「一色、確認するぞー」
「はい!」
「練習は基礎練から1対1までうちの練習でそこから両校混合のミニゲームやって練習試合。30分後7時半から11時半、そこから30分のミーティングやって終わる予定だ。ここまで質問は?」
「相手校の着替え場所はどこになるんですか?」
「体育館の準備室を間借りさせてもらう、他は?」
「水分補給はどうしますか?」
「自分は適宜取ってくれ、どうしても時間取れなけりゃ俺に言ってくれ向こうのマネージャーに打診してくる。選手は30分に1回を目安にして、500ミリに抑えて水やってくれ」
「分かりました!」
「休憩は1回しかないからちゃんと取るように、あとスコアカードの書き方は覚えたか?」
「すみませんルールの方が少し覚束なくて…………」
「じゃあ向こうのマネージャーにサポートしてもらう様に伝えておく」
「海浜総合のマネージャー頼みじゃないですか!?」
「めっちゃ頑張ってくれるから、他に質問は?」
「海浜総合のマネージャーと付き合ってるんですかー?」
「恋愛脳はドブに捨てろ、他には?」
「その時になったら聞きます!」
「よろしい、分からないことがあったら俺か向こうのマネージャーで仲良くなった奴から聞いてくれ。東門からバスで来るらしいから五分前には待機しておくように。クーラーボックスとドリンク用意しておく、バス来たらワン切りよろしく」
そして各々事前に決めた配置についた。というか一色が結構な短期間で部活ソルジャーに変貌した事に驚きを隠せないまま準備した。
クーラーボックスに水をぶち込んで氷を入れ続々とその中に粉のスポドリを入れる。スポドリは冷え、万が一の時に氷嚢に使える。救急バックは前日に確認している、各種テーピング、コールドスプレーの残量が気になった所だがおそらく大丈夫だろう。そこまでケガが多発することは稀だ。
最後の1個を作り終わった時、丁度ポケットが震えた。手早くクーラーボックスを持って部室へと急いだ、その道中で空の様子がこれから快晴に向かいそうだった、早めにテントの準備をしておいてよかったと思う。
マネージャーの待機室まで走った。ぶっちゃけこのタイミングで中に入ると(盗撮的な意味で)変態扱いされるので入り口にクーラーボックスを置いた。
海浜総合側のテント設営を手伝いに俺は東門へ行った。着いた頃には選手はすでに着替えをしに体育館に向かって行ったらしく姿は見えない。代わりに海浜総合の顧問とマネージャー、そして一色の姿が見えた。
「先輩、案内終わりました」
こちらに気が付いた一色が言った言葉を頭を縦に振って返事した。そして居住まいを正して顧問に挨拶をした。
「海浜総合の皆さま、本日はお忙しい中、合同練習にお越し頂きありがとうございます。よい練習になるように頑張りますのでよろしくお願いします」
と言って頭を下げた。
「ああ、よろしく。早速で悪いんだが厚木先生はどちらに?」
「おそらく体育研究室に居るかと」
「ありがとう、それじゃ」
と言って海浜総合の顧問は体育研究室に向かって行った。緊張からでた額の汗を拭って、マネージャー陣に向き直る。
こちらは2人で向こうは倍の4人、海浜のマネージャーは新入部員が1人増えたようで安定してやれそうだと思った。とりあえず既知の顔ぶれから挨拶しておこう、と上級生から話しかけた。知らない仲ではない
「自由ヶ丘先輩、お久しぶりです」
「久しぶり君は相変わらずよくやってるな。少し崩させてもらうよ」
「どうぞ」
「いやーヒキ君にもやっと後輩ができたか!同年の仲間には恵まれなかったが、いい後輩ができたな!」
海浜総合の3年マネージャー自由ヶ丘自由先輩だ。気さくで俺のような奴にも明るく接してくれる良い先輩だ、自由すぎる所があるが海浜総合のお堅い雰囲気から抑圧されているという事から総武との合同練習では「羽を伸ばしに来た」と言ってはばからない。
まあ、一色のことについては最近はマネジ業が板についてきたな。なんて感想しか生まれてこないが。
「そうだこっちの1年の紹介をしよう、自己紹介してくれ」
「藤沢朝陽です、よろしくお願いします」
「2年、比企谷八幡だ、よろしく」
「一色いろはです!よろしくお願いします!」
「おいヒキ君ちょっとこっちに…………いろはちゃん使える?」
「基礎は出来ますね、合同は今回が初めてなので。頼んでもいいですか?」
「もち!うーみんにえっちゃん!いろはちゃんのことよろしく!」
「分かりました~」とのんきに言っている同学年2人と、不安そうな顔をした一色がマネージャーの更衣室を案内しながらドナドナされていった。俺と自由ヶ丘先輩と2人きりになった瞬間、自由ヶ丘先輩が距離を詰めて俺と肩を組んで耳打ちしてきた。
「いろはちゃんかわいくね?」
「はぁ…………まあそうですね」
「お持ち帰りしていい?」
「本人の許可があれば良いんじゃないですかね?」
そういうと、つまらなさそうな顔をして「ふーん、そんなこと言っちゃうのねぇ」なんてことを言ってくる
「今回に限っては邪魔ですから。そもそも始めた動機が不純すぎます」
「18?」
「はい」
「なんだぁ」
ちなみに18は葉山の背番号だ。葉山目当てで入部する奴もいるからな。でも自由ヶ丘先輩はそういう捉え方をしていなかった。
「マネとして動くならいいじゃない、周りでギャーギャー言っているより邪魔しない分、よっぽど好感持てるね。ヒキ君が使えるという位だから」
「買い被り過ぎじゃないんですか?」
「いやいや、でも少なからずヒキ君が気にかけていることは分かるね。自分に関係ないと思った時のヒキ君辛辣だから…………あー、そう考えたらちょっと興奮してきた。ちょっとチチ揉んでくるわ」
「別に止めませんけど通報されないように気を付けてください」
「自分のだよ。あ、いつもと同じ?」
とだけ言って俺の返事も聞かずに自由ヶ丘先輩は荷物を持って更衣室に走っていった。違ったらどうするつもりなのだろうか。と思いつつも俺の反応から察したのだろうと結論付けて、俺はそこにあった海浜総合側のテントを設営しに行った。
総武の俺たちが設営したテントとは言えどいわゆるタープテントと言う物で、少し小さい物を二つ並べることでテントとしているが、海浜総合の方は屋根や足もすべて組み立てて使う言わば学校用テントを持ってきていた。
端的に言えばボッチにやさしいのが総武、やさしくないのが海浜だ。今思えば俺が来る前には先輩1人しかマネージャーがいなかったからな、柄の揃っていない2つのテントを見れば、近隣住民から譲りうけたとか、どこかリサイクルショップで買ってきたとか、そんな苦労が垣間見える。そんなことは在学中に先輩に聞いたこともなかったけど。
「よっ」なんて気合を入れながら手を動かし続けていると、屋根の方が組みあがった。組み立て式のテントの設営はここからが大変、というか1人じゃできない。屋根を組み上げても、足が組みあがって居ないそして一人でやると、一本つけて歪み2本目をつけようとしても片側だけ上がり、最悪骨組みを歪ませてしまう。そんなことがあったら殺されはしないが向こうの顧問に死ぬほど怒られる。
少し強くなってきた日差しにやられながら、一色に電話を掛けた。2コールほどで出た。
「はぁ、はぁ助かりました!なっ自由先輩!?ちょ待って!あっ!?」
「落ち着いてくれゆっくり話してやるから」
画面越しの光景が精神衛生上よくないので想像しないが、とりあえずゆっくり話してやることにした。
「スピーカーにして名前を読んだら君しか聞こえないようにしなさい」
「はい…………やりました」
「自由ヶ丘先輩、ちょっかい出さず素早く着替えてください」
少し遠い所から不貞腐れながら「は~い」とやる気のない返事が聞こえた。
「一色」
「はい」
「うん、落ち着いたか?」
「はい」
「通過儀礼みたいなもんだ、気にするな」
「通過儀礼って先輩も受けてるんですか?」
「ああ」
「え゛!?」
「嘘だ」
が嘘だ。実際胸は揉まれた。
「なんだぁ…………」
「そして、この合同練習の伝統みたいなものなんだが。指揮下が二年だけ入れ替わるんだ」
「ん?どういう事ですか?」
「簡単に言えば海浜二年の指示を仰げってことだ」
「なんでそんな事を?」
『「2年指揮系統とその混線に慣れて置くことを念頭に置いている。言っちゃえば誰が休んでもいいようにする事だ」』
「は、はあ」
「だから俺は自由ヶ丘先輩と藤沢とチームになり、お前らは海浜2年と一緒にやるってことだ。丁度3人でちょうどいいだろ?で、テント設営に使いたいから藤沢を着替え次第校庭に集合と言ってくれ、それと更衣室前にあるクーラーボックスを持って来ること忘れないでって言ってくれ」
「分かりました」
伝えることは伝えたので俺は電話を切った。五月晴れの太陽光線がガンガンと照り付けるなか俺はぼーっと突っ立っていた。
ここから、合同練習は始まる。
少し考えてもらいたい、選手はボールを追っかけてチームプレイをする。さて。問題全てにおけるマネージャーは個人競技団体競技どちらでしょうか?
正解は
いつもなら俺一人で回していたので個人競技だった訳なのだが。今回はそうもいかない。
少し神経を削って生きていかなければならない。と覚悟した、ああそうさ、人付き合いもこなさなければ立派な専業主夫になれないからな!
目指せ!世界一!(のヒモ)
俺はこれから始まる合同練習に向けて決意を新たにした。