今回は少しづつ小出しにしてきた『先輩』との過去編です。
暴力とは何だろうか。最近ギプスの下がうずくたびに、そう思うことが多くなってくる。
暴力を辞書で引けば荒々しい力を振るうさま、という説明がされるのだろうか?それはどうなのかわからないが、ただ一つ言えることは、現代っ子はそれを禁止されて生きているということだ。
保育園の頃、他人が喧嘩しているのを保育士が止め決まり切って「人を叩いちゃいけません」などというのだ。その時はなぜかその喧嘩を傍観していた俺が怒られたのだが、このように基本的に殴る蹴るといった動作を一方的に行ったものが悪と断じられてしまう。
『比企谷君も見てるだけじゃダメでしょ!止めなさい!そんなんじゃ立派な小学生になれませんよ!』
あくまで基本的に。
このように(俺がずっと受け続けてきた)言葉の暴力がある位だ、暴力にも種類がある。
そこまで言って俺は問う、結構奇麗な女の先輩にめっちゃ話しかけられているんですけど暴力に入りますか。
「で……………比企谷君聞いてる?」
「はい」
さてここまで来たのはヒキガエルの異名を持つ俺が蛇に睨まれたからだ。まあ、実際に睨まれた訳じゃないが…………。
このように難しく言ってはいるが事のあらましは単純、俺がこの先輩に目を付けられただけだ。何でこんなにもご執心なのかはさっぱりわからないが、昼休みが始まった途端いきなり教室に来て。
『比企谷八幡は居るかぁ!!』
とガラガラスパーン!と音を立てながら大声で室に入って行き、
内心冷や汗をかきながら、ヘッドバットさながらの速さで顔を伏せて時間が過ぎ去るのを待っていた。
死刑囚のように、来るな来るなと心の中で反響していたが。今日は死刑が執行されなかったようでそのまま出て行った。
様に思ったが、去り際に深い笑みをこちらに向けていた。わざと見逃したということだ。俺には『次はない』か『同じ場所に来い』という符丁としてしか感じられなかった。
投網漁の如く大雑把で、だが、あまりに効果的で驚異的だ。そしてなおかつ、こんな方法をとる位だ、とてつもない奇人変人に目をつけられた恐怖感が俺を俺のベストプレイス改めバットプレイスに導くことになったのだ。
こうして見覚えがない女生徒の制服の隣で購買の袋を片手に雑談をすることとなったのだ。
はたから見れば先輩と後輩が肩を寄り添わせて微笑ましく食事している所だが、実態は全く別、目と目が合っていたならそこには火花が散っていた所だ。
アナコンダは食事をするとき、最初に獲物と自分の体を寄り添わせる。これは自分の体長で獲物の大きさを測り、自分の体長以下なら食べられると判断するためだ。
俺の危険レーダーが「食われる!食われる!」と言っているが、ここから逃げても食われる。蛇は自分の体を使って体をバッキバキに締め付け獲物を殺してから食うらしい、背後を見せた瞬間にバッキバキだ。
それでもなお俺は「ええ」「はい」「そうですね」だけで会話を持たせている、誰か褒めて。
「それで、比企谷君は今日何買ったの」
「ええ」
「ああ、コロッケパンか。3年が独占しちゃうけど購買のオムそばパンおいしいよ」
「はい」
「あ、マックスコーヒー飲んでるんだ。結構甘いよね」
「そうですね」
誰か褒めて!分かってるから!一番会話かみ合っていない事分かっているのは俺だから!コミュ力レベル1のクソ雑魚村人だから俺!バラモス倒せないから!
いいか、変な話雑談という行為が一番苦手なんだ。店員との会話とかそういったテンプレに沿ったものとかだったら、もうそりゃすらすら言えますとも!
でも!こんなサイコでイカレた上級生を相手に俺が太刀打ちできるわけがない!なんか若干いい匂いするし。
「聞いてる?」
「はい」
あぶねえ。
…………なんか、だんだん腹が立ってきた。なんで俺がびくびくしながら話さなきゃいけないんだ。
ヤバい、人と話しているだけで腹立ってくるとか頭おかしい人の発想だ。ただ、俺に話しかけないでください。はぁ、もう早く本題に入ってしまおう。
「先輩」
「なに?」
「俺に何をさせたいんですか?」
「一緒にマネージャーやろうよ!きっと楽しいから!」
相手はマネージャーだけどスポコン漫画でよくある展開だ、ただ実際に目の前にして、ここまで気が触れている奴になるとは思わなかった。守さんマジリスペクトっす。
「お断りしたはずですが」
「楽しいよ?」
彼女がE・Tだったら俺は人差し指を折っているだろう。未知との交信が俺に委ねられたとしたなら、一瞬で地球は壊滅するだろう。そう思うほどに、彼女との会話に近い何かは異空間と話しているような感覚に陥っていた。
「一つ見学だけでも来てくれないかな?」
「マネージャーの見学って聞いた事無いんですが」
「今わたしが言ったからね!」
「来ないと、今回みたいに教室に突貫すると?」
「いや?今回だけだよ、一緒にお昼食べたくてさ。連絡先交換しない?」
「嫌です」
ふざけるな、連絡帳の登録が両親と小町だけという幸せの箱庭に、このような奇人に侵食されてたまるか。
「もう一回か…………」
「喜んで登録させて頂きます!こちらわたくしめの携帯にございます!」
「ありがとうね!えっと、電話番号だけでいいよ?メール得意じゃないし!」
「あっはい。080の○○~」
俺は何をやっているのかと数十回聞きたくなった。あと、的確過ぎる脅し文句だ。ひどすぎる。
「ありがと。でいつ来る?今日でもいいんだけど?」
「一生行きたくないです」
「うーん、グラウンドに来れば大体の仕事は見れるかな?」
「聞いてます?」
「お返し?」
何も言えねえ。違いますぅ、ただ単に緊張して喋れなかっただけですぅ。
「冗談冗談。それじゃ、私食べ終わったし行くね、また一緒に食べよ?」
「ええ、機会があればぜひ」
これなら永遠にその機会は訪れない、勿論誘う事はあれども誘われる事はなかったけどな!
「本当!?また同じ場所でね?」
目が笑ってはいたが『嘘ついたらもう一度行ったるぞゴラァ』と言っていた。ような気がする。そもそもなんだ?悪意が死霊のは○わた(手紙の姿)やバイ○ハザード(チェーンメールの姿)なら見たことはあるがL○Dのブーマーように自らが突っ込んで爆発してるのは初めて見たぞ。本人はなんのダメージを負っていない所を見ると、どちらかと言えばウルトラなダイナマイトに近いが…………何を考えているんだ。止めよう。
「ごちそうさまでした」
嵐のような先輩が過ぎ去り、耳鳴りがしそうな静寂の中で俺は松葉杖をつきながら教室に戻っていった。
◆ ◆ ◆
放課後、俺はグラウンドに来ていた。来てしまっていた、こうなれば最早何かしらの強制力が働いているように思える。心で一つため息を付きながらぼーっとしながら眺めていた。
俺は遠くで練習を見ていたが、何か青春の匂いがするような気がした。ここも直に
気が付けば30分ほどグラウンドを眺めていたが……………なんだあれは?
グラウンドを縦横無尽に駆け巡り、マネージャー業を過ごしている。背中に目があるんじゃないかと思うほどにグラウンドすべてを一身にして仕事をしていた。
一度に何度の仕事をしていたり、タイムを計る時なんか体内時計で測っている。気になって測ったがコンマまでずれていない。ボール拾いなんか、あんたがサッカーやった方が良いんじゃねえかと思うほどに、すごいコントロールで蹴りながら籠に入れていく。
後、そのドリンクいつの間に入れたんだよと思うことがあったり、タオルがいつの間にか用意されていたり。
最早人外のような仕事量、まさにフィールド外の貴公子だった。
あんなことをやれと言われたら、俺は死んでしまう。過労死という言葉が田舎の街灯に群がる羽虫レベルに頭を過っていくほどだ。
無駄に口角が上がりながら、俺は万感の思いをこめて言った。
「見なかったことにしよう」
「ごめんね~遅れちゃった~」
何か運命めいた物を感じる。
「いやー比企谷君来ると思ったらいつも以上に力入っちゃってさー」
出来る事なら三割ほどでお願いしたかった。
「別に大丈夫ですが」
「そう、よかったぁ。で、どう?やる気になってくれた?」
「俺には無理そうですね」
俺にはどうしようもなくそう言うしかなかった。