昔の夢を見るようになった。と言っても一年前だが。今こんな夢を見るのって何か先輩に固執しているような気がしてとても嫌だ。
と、我がベストプレイスでコロッケパンを食べながら思っていた。竹を割ったような性格、という訳ではないが諦めは割と早く付く方だったはずだ。
はぁ、全く。いつも心がダークになった時は碌な事が起こらない、楽しいことを考えよう。なかった。
「あれ?ヒッキー?」
「…………あるけど無かった」
後ろから由比ヶ浜が声を掛けてきた。
因みにさっき言いかけてたのは(胸)あるけど(いいこと)無かった。あぶねえフルで口にしてたら通報ものだ。いっぺん死んだ方が良くないか俺。まあ口は堅い方だ、秘密の拡散力を数値化できるのなら俺はぬいぐるみと肩を並べる事になると自負できる。理由は聞くな。
「なにが?謎々?」
「い、いや。何でもない。それより由比ヶ浜はどうしてここに居るんだ?」
「あはは、実は優美子とじゃんけんで負けちゃってさー」
俺は小学校の会話を思い出していた。確か丁度小学校1年生の5月ごろだった。放課後公園で遊ぶことがあった小学校だったので、俺もそれに参加しようとした時のこと。楽しく遊んでいる所に俺が近づき、確か当時呼んでいた雑誌類にそんな表現があったのだろう。
『ぼくもいれて!』
と比企谷少年は言ったが、そこにいた子供たちは一斉に冷たい視線を比企谷少年に浴びせた。少しの相談を経て彼らのリーダー格らしき人物が言った言葉はこうだった。
『じゃあ、俺とじゃんけんしようぜ』
『う、うん!』
そうしてじゃんけんポンのコール後に俺は負けた。直後リーダーは言った。
『じゃあ、この公園から出てけ』
素直にえ、だかあ、だかが口から洩れた。ほどなくして『でてけ!でてけ!』と彼らがはやし立て、俺は滲む視界を振り切りながら、逃げるように帰っていった。
俺は由比ヶ浜の目を見ていった。
「ハブられたのか?」
「言い方悪いし大げさだよ!?いや優美子に飲み物買ってくるだけだよ」
「なんだ、でも…………」
「でも?」
「仮にイジメられていたとしても俺に出来る事無いな」
「酷い!?」
怒ってはいたが、そこまで苦ではなかった。心境的には対岸の火事だからだろうか。
「あ、そういえば。ヒッキー、一つ質問していい?」
「なんだ?」
「雨の日もここで食べてるの?」
「文化部の部室を間借りさせてもらっているぞ、それがどうかしたか?」
「へー、そうなんだ。あと少し相談事があるんだけど」
「俺にしても無意味だと思うんだが……………」
「奉仕部関係のことなの」
「詳しく」
「え?あ、えっとテニス部の子なんだけど…………って居た!さいちゃんやっはろー!」
由比ヶ浜は遠くで昼休みにテニスの練習をしていましたと言わんばかりの格好をした女子に、大きく手を振りながら話かけていた。
彼女は控えめに手を振り返してこちらに近づいてきた。だんだんと俺の目のピントが合ってきて、彼女の顔が見えた。どえらく可愛い、ギャルゲーのメインヒロインを張るほどではないが、サブキャラとして出たらカルト的な人気を誇るであろう。美人系と可愛い系の女の子を1:1の割合で配合してそこに神々の悪戯を一滴たらしたらこのような人物が出来上がるに違いない。
ヤバいぞ既に半ば俺の中でカルト化している。意味は全く分からないがアガペーと言っておこう。アガペー。
「由比ヶ浜さん、や、やっはろー。」
「あ、さいちゃん、あの件ゆきのんと相談しているからちょっと待ってね!」
「なあ、由比ヶ浜。さっきの相談事って…………」
「うん、さいちゃんのこと」
「えっと?比企谷君だよね」
「なんで知ってるんだ?」
「ええ!?同じクラスだよ!?」
「クラスの女子の顔と名前は一致しないんだ、確か女子に佐藤さんが5人居た所まで覚えているんだが」
「それ覚えていないってことだよね!?てゆーか佐藤って苗字の子居ないし!」
「あははは、まあ、比企谷君はクラスだとあまりしゃべらないし、覚えてなくても仕方ないよね」
この女神のフォローが致命傷な件について。出来れば喋る必要がなさそうだ、でよろしく。なんか治療しようとして悪化させるアミバムーブをかましつつ俺は本題に入った。
「下の名前は八幡だ、名前は?」
「戸塚、戸塚彩加です。よろしくね比企谷君」
「それで、由比ヶ浜から聞いたんだが、困っていることがあるんじゃないか?」
「え?比企谷君に話したの?まあいいや。うちのテニス部のことは知っているかな?実はすごく弱くて人数も少ない。今の三年生が引退したらもっと弱くなる、だからどうしたら強くなれるか相談していたんだ」
「ふーん」
そしてそれを聞いた由比ヶ浜は雪ノ下に相談しようとしていたのか。なるほど。
「出来れば比企谷君が入ってくれれば皆頑張ってくれるんじゃないかと思うんだけど」
「それは無理だな。すでに部活に入っているし……………」
「そうなんだ!?」
戸塚さんは目を見開いて此方を見ていた。
「そこまで驚かなくても。まあ、戸塚さんが頑張れば自ずと他の部員もついてくるんじゃないか?」
「そう……………なんだけど」
「あー、すまねえ。そういう事か」
「なになに?どういう事?」
「他の部員が弱いからその中で練習しても向上につながらないってことだ。その口ぶりだと、他にテニスクラブみたいな所で練習しているんじゃないか?」
「わあ、すごいね、たしかに日曜日に行っているよ。それにクラブの方が腕が上がっている気がして…………それに強くなる為には今のままじゃダメだってわかってるんだ」
シンプルだ。強くなりたい。結構な事じゃないか。なんというか、俺のこれまでの人生とは違い鮮烈に生きているように見えた。だから、俺はその言葉に導かれるように一つの門の前に立っていたと思う。気になったのだ、一方通行ではないサポートを俺はどれだけ出来るのだろうかと。
「強さは『与えられる物ではない、与えられるのは精々方法しかない、それを持って何を成すかは』自分しか決められない」
「うん…………」
「だから、頭を使って成すことを考えるんだ。そのための相談だったら奉仕部に話してみてくれ」
「へーなんか難しいこと言ってるね」
「そしてこれが(頭の)弱さだ」
「ちょっとどういう事!?酷いし!」
戸塚さんが少し笑ったような気がした。良し、少し緊張がほぐれたか…………?ここで畳みかけるっ!
「そんで少し相談なんだが」
「なんかナチュラルに無視されたんだけど……………」
「あはは…………で、どうしたの?」
「もしよかったらでいいんだが、俺をマネージャーとして置いてみないか?」
「「ええ!?」」
二人とも驚いて居た。
「えっと、それはうれしいんだけど…………」
「半年ほどではあるが、サッカー部のマネージャーを一人で回していた実績がある。技術的な面はどうしようもないが、サッカー部でやっている体力づくりやフォームづくりのノウハウはあるし荷物にはならないはずだ」
「でも、比企谷君のほうが…………」
「なら2週間の期間限定でいい、後輩もよく動けるようになってきた所で経験積む意味でもちょうどいいしな」
事実今の一色は先輩が引退したての俺ぐらいのマネ力はある。具体的に言えば初期スカウターがぶっ壊れる。あの一色さんどうなってるんですかね?
「じゃあ、それなら…………」
「よっしゃ。ならしょっぱなから悪いんだが今日の放課後時間があるか?奉仕部に相談してくれないか?雪ノ下の協力が得られるかもしれん」
「ヒッキー……………!でもなんでそんなにやる気を出してるの?」
「ん?ああ、俺の力が相互関係になった時にどれほどサポート出来るかを試したくてな。正直今のままじゃ一方的なこれやっとけから脱却できないような気がしてな、戸塚さんには悪いが…………。この仕事だけは手は抜かないつもりだ」
「ヒッキーがいつになくやる気を出してる!?」
馬鹿な、やるときはやるぞ俺は。どうしようもなくサッカー部に対してめんどくささを持っているだけだ!
「うん、わかった!比企谷君、こんなに親身になってくれてありがとう。それじゃあ僕は行くね」
「おう」
「…………ヒッキーもやるときはやるんだね」
「まあな、だけど今回はそれだけじゃない。戸塚さんはリーダーになれる人だからな」
リーダーシップは上で踏ん反りかえる事ではない、共に苦楽を共にしそのうえで皆を鼓舞し引っ張っていく人のことを言う。自身が強くなることで導かんとする姿は理想のリーダーそのものなのではないかと思う。
「でも聞いた限りじゃ、周りの環境に責められた傷だらけのリーダーだ。少なからず心構え位はやれるとは思う」
「それだとなんかプロポーズみたいだね」
「はぁ?そんなん戸塚さんに失礼だろ」
「自分は良いんだ…………まあ、さいちゃん男なのにそんな事言うのもおかしな話だったね」
嗚呼、俺の傷だらけのリーダー